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9月13日(日) 韓国のウェブメディア《NEWSTOF》に掲載されたインタビュー(その1) [論攷]

〔以下のメール・インタビューは、韓国のウェブメディア《NEWSTOF》2020年9月8日付に掲載されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕

Homepage: http://www.newstof.com/news/articleView.html?idxno=11259
【NEWSTOF緊急対談】 日本の進歩学者 五十嵐仁教授が見た「ポスト安倍」

「安倍総理の退陣は日本保守終末の始発点になる」

1.まずは基本的な内容についての質問です。韓国国民にとって日本の議員内閣制はとても理解し難いシステムです。 安倍首相の辞任後、首相職はどのような手続で継承されるのでしょうか。

 首相は国会の衆参両院での投票によって選出されます。そのための臨時国会は9月16日に召集されます。国会では多数を占める与党(自民党と公明党)の代表が選ばれて首相になりますから、自民党の後継総裁選びが事実上の首相選出を意味します。自民党の総裁選出には、国会議員(394票)と地方選出の代表(394票)が同数となる正式な投票と、国会議員(394票)と各都道府県連3票(合計141票)で選出する略式の投票があります。今回は緊急時だから時間をかけないという理由で後者が採用されました。この方式は、地方に人気の高い石破茂元幹事長を不利に、国会議員の多数に支持されている菅義偉官房長官を有利にするために採用されたと見られています。

2.安倍首相辞任直後の8月30日、《ニューヨークタイムズ》に非常に興味深い文章が掲載されました。 安倍首相の実質的な辞任の理由はスキャンダルのもみ消しのためかもしれないと上智大学の中野晃一先生が寄稿されていましたが、そういえば安倍首相の辞任はコロナ禍の対応が「無策」と批判され、支持率が大幅下落していた時点でのことでした。 先生のご意見はいかがでしょうか。

 第1次政権の時と同様、今回も持病の悪化が辞任の理由とされていますが、首相臨時代理を置く必要のない程度の病状で、安倍首相は執務を続けています。辞任の本当の理由は別にあるのではないかとの見方も根拠がないわけではありません。実際には、長年の悪政のツケが溜まり、コロナ禍対策も上手くいかず、支持率も下がり政権運営に行き詰まって投げ出したのではないでしょうか。第1次政権の時も直前の参院選で敗北し、野党が多数となって政権運営が難しくなったために逃げ出したのかもしれません。もしそうだとすれば、いずれの場合も持病が口実として利用されたことになります。
 もちろん、森友学園疑惑に関して公文書を書き換えさせられて自死した財務省職員の遺族による裁判や河井克行夫妻への選挙資金1憶5000万円還流疑惑などのスキャンダルで自らに火の粉が降りかかる危険性もあり、それを危惧して早めに身を引いたという可能性もあります。

3.突然の座長の失脚により、安倍首相が率いた自民党タカ派代表勢力の清和会も大きなダメージを受けたようです。 これが極右政治の萎縮につながる可能性もあるのでしょうか。

 清和会は現在では清和政策研究会(清和研)と名乗っており、その会長は細田博之元幹事長で安倍首相が「座長」というわけではありません。しかし、派閥出身の首相が退けば、影響力が低下することは避けられません。安倍首相は極右タカ派勢力にとっては「希望の星」でした。とりわけ、悲願としている憲法9条の改定に向けての期待が大きかったのは確かです。安倍首相はこの勢力の支持をつなぎとめるために改憲を最重要課題とし、その可能性が薄らいでも固執しました。
 改憲手続きを容易にするための96条改憲論や集団的自衛権の部分的容認へと解釈を変えた解釈改憲、9条への自衛隊明記など、手を変え、品を変えて改憲を訴えてきましたが、世論の警戒や反発も大きく発議することができませんでした。極右タカ派勢力にとっての打撃は大きく、その力の委縮につながる可能性はあると思います。

4.過去7年8ヶ月間、安倍政権が続く中、改憲推進による国民の不安、過度な新自由主義政策による国民分断など、日本社会が経験した弊害も大きいと思います。 先生の見解はいかがでしょうか。

 安倍首相は「体調不良」で辞任しましたが、日本社会も「統治不全」という大病にかかりました。アベノミクスによっても実質賃金は増えず、景気が回復して生活が豊かになったという実感はなく、2度の消費税率の引き上げとコロナ禍によって経済は破綻に瀕しています。得意とされた外交にしても、トランプ米大統領に追随し日本の首相でありながら「アメリカ第一」を貫いて貿易交渉で不利を強いられ、北朝鮮による拉致問題やロシアとの北方領土問題も解決できませんでした。安全保障面では軍事大国化を目指してアメリからの武器を大量に購入し、安保法制(戦争法)を制定して戦争に加担する危険性を高めました。
 憲法の敵視、立憲主義と民主主義の破壊、世論の分断と政治不信の増大、官僚機構の委縮と忖度、国会の軽視と独善などによって、日本の政治と社会は大きく傷つけられたのです。その結果、日本の国際的な地位や評価はかつてなく低下してしまいました。「負の遺産」ばかりで、在任期間の長さが最長だったということ以外、歴史に残るような「遺産」はありません。

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