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9月26日(土) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』9月26日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「ボロ出る前に解散 菅政治とは「現世利益の打ち上げ花火」」

 ふるさと納税からGo To、新婚支援、携帯値下げまで国民ウケ狙いの思い付き。その影響、リスク、整合性、現実性など、果たしてどこまで煮詰めているのか。法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)は言う。

 「菅首相は政策の実現性よりも、ブチ上げることによって生じる効果を重視しているのでしょう。携帯電話料金の値下げ、不妊治療の保険適用、新婚補助金。いずれも若い世代や女性をターゲットにしたもので、その読み通りの反応が出ています。彼らは“政府がお金を出してくれるのはありがたい”と素直に受け止め、政権支持に傾いている。しかし、そうした政策が実を結んだとしても、効果が表れるまでに少なくとも1~2年を要します。衆院の任期満了は来年10月で、遅くとも1年以内には総選挙が実施される。だから、政策の達成度で評価されることはない。『今だけ、カネだけ、自分だけ』の新自由主義にどっぷりつかった菅首相らしいやり方です」

 スガ政治は詰まるところ、「現世利益の打ち上げ花火」。国民が実利を得るかどうかは別の話で、見せ金で釣ろうという魂胆。自民党内から早期解散論が出るわけである。


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9月24日(木) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』9月24日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「官僚戦慄 “権力志向剥き出し”首相に支持率74%の危うさ」

 菅は製造業の中小企業を「資本金3億円以下または従業員300人以下」と定めている「中小企業基本法」の見直しにも言及した。大企業に比べ中小は税制などの減免措置が幅広く適用されるが、菅の意図するところは、適用範囲を狭めて苦しめることで、合併・再編を促すというものだ。恐ろしい北風政策である。

 そんな「自助」最優先、弱肉強食を是とする菅が、政権発足間もない18日に朝食を取りながら懇談したのは、規制緩和の旗振り役で、菅が総務副大臣だった時の“上司”にあたる竹中平蔵東洋大教授だ。竹中といえば、弱者切り捨てで格差拡大を招いた新自由主義の権化。まさに今後の「スガ政治」の行く先を象徴している。

 法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)はこう言う。

 「菅首相も『新自由主義、万歳』の人ですよ。自己努力で這い上がってきたので、国民にも自己努力を求める。もっとも、菅首相が進めてきた規制緩和によって、竹中氏は自らが会長を務める人材派遣会社『パソナ』を大儲けさせてきたのですがね。特殊な条件下での成功体験を一般化するのは間違っています。政治にはセーフティーネットの役割があることを理解していないのではないか。安倍政権の中枢で闇の部分を処理する役割を果たしてきたのが菅氏。それを国民に気づかれないうちに『菅カラー』の打ち出しに躍起になっているように見えます」



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9月19日(土) 「安倍政治」の継続を許さず野党共闘で連合政権実現を [論攷]

〔以下の論攷は、『全国商工新聞』第3426号、2020年9月14日付に掲載されたものです。〕

 安倍政権の「負の遺産」と新しい政治の展望

 史上最長にして戦後最低・最悪の政権が幕を閉じました。持病の潰瘍性大腸炎が悪化を理由に、安倍首相が辞任を発表したからです。病気での辞任はやむを得ないことですが、できればもっと早く、私たちの力で安倍首相をその座から引きずり下ろしたかったと思います。
 辞任の直接的な理由は持病の再発ですが、本当は長年の悪政のツケが溜まり、政権運営に行き詰まったからではないでしょうか。一斉休校や「アベノマスク」配布、困窮世帯限定の30万円給付案の撤回など、相次ぐ新型コロナウイルス対策の迷走と国民からの批判、内閣支持率の低下などによって安倍首相のストレスが高まり、急速に病状が悪化した可能性があります。
 第1次政権での辞任も病気が理由でしたが、実際には直前の参院選で敗北し「ネジレ国会」となって政権を投げ出したのでしょう。今回も日本経済の先行きに展望が持てず、コロナ対策にお手上げとなり、政権運営に行き詰まって逃げ出したように見えます。そうであれば、持病が口実として利用されたことになります。

 日本全体が満身創痍

 コロナ禍の下で安倍首相の持病が悪化し「体調不良」に陥ったのと同様、日本全体も「統治不全」で満身創痍になっています。安倍首相は政治と経済、社会を壊せるだけ壊し、ガバナンスを崩壊させてその座を去りました。安倍首相には「長い」という以外に「レガシー(遺産)」となるものがありません。
 安倍政権は「異次元の金融緩和」による株価の上昇と国政選挙6連勝を武器に強権と独善によって権力を私物化し、自民党内と国会内での「一強体制」を実現することで長期政権となりました。しかし、その実態は「やっている感」の演出にすぎず、デフレ脱却や三本の矢、女性活躍、地方創生、働き方改革、人づくり革命など、スローガンを多発して政策を食い散らかすだけで、残ったのは「残飯の山」ばかりです。
 アベノミクスによっても実質賃金は上がらず、景気回復の実感はなく、2度の消費税率の引き上げで経済は沈滞し、コロナ禍によって大打撃を受けています。外交ではアメリカの顔色をうかがう従米政策を続け、拉致問題や北方領土問題は解決できず、韓国との関係も戦後最悪です。安全保障面では軍事大国化を目指し、国家安全保障会議(NSC)の新設、特定秘密保護法や安保法(戦争法)の制定、沖 縄・辺野古での埋め立て強行、米国製兵器の爆買いなどを進めてきました。
 このような個々の政策での「負の遺産」だけでなく、立憲主義や民主主義を真っ向から踏みにじる政治姿勢も深刻な問題を残しています。憲法を尊重し擁護する立場なのに国民の望まない改憲を最大の課題とし、「96条改憲論」や9条への自衛隊明記など手を変え、品を変えて改憲発議をめざしました。それでも支持が広がらず、挫折させたのは運動の力です。
 国会を軽視し、憲法53条に基づく臨時国会の召集要求を拒み、内閣人事局などで官邸支配を強めて忖度をはびこらせてきました。「モリカケ」や「桜を見る会」、河井夫妻への資金1憶5000万円などの問題では、嘘やごまかし、言い逃れが相次ぎ、公文書の隠ぺいや偽造にまで手を染めました。統治機構をゆがめて政治への信頼を損なったのは大きな問題ですが、その疑惑の中心にいたのは安倍首相夫妻です。

 差別と分断乗り越え

 このような安倍首相にただ一つ〝功績〟があったとすれば、それは市民と野党の共闘を促進したことです。今後、「安倍政治」によって荒廃した日本を立て直すために、ポストコロナ社会にふさわしい差別と分断のない新しい政治を実現しなければなりません。安倍なき「安倍政治」を引き継ぐ自公の亜流政権では、それは不可能です。
 時あたかも、野党再編によって立憲民主党と国民民主党、無所属グループなどによる「合流新党」が生まれ、野党共闘に新たな展開が生じています。この新党は旧民主党が単に「元のさや」に納まったものではなく、新自由主義からの脱却と共産党との連携をめざすリベラルで共闘志向の強い「大きな塊」だという特徴があります。
 3年前には小池百合子都知事や前原誠司民進党代表と共に野党分断に加担した連合の神津里季生会長も、今回は新党結成に協力しています。過去3回の参院選と衆院選で野党共闘は大きな成果を生み、東京都知事選でも25の全小選挙区で市民選対が確立するという実績を積んできました。戦争法反対運動以降、5年間の市民運動は無駄ではなかったのです。
 新首相の就任後、早期に解散に打って出て不意を突こうとする動きがあります。野党の側も選挙準備を急ぎ、協議を始めるなど共闘態勢を確立しなければなりません。野党結集の動きをさらに強め、新しい市民と野党の政治を実現できるような連合政権の樹立に向け、次の総選挙が政権選択にふさわしい選挙になることを願っています。

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9月18日(金) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』9月18日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「「安倍継承」とは国民愚弄 菅新内閣は絶望の顔ぶれ」
 
 菅が総裁選出馬から繰り返し強調してきたのが、「行政の縦割り、既得権益、悪しき前例の打破」である。官房長官人事について聞かれ、「いろんな要素がありますが、総理との組み合わせなどを全体的に考えて、総合的な力がある人がやはり一番落ち着くんじゃないか」とも答えていた。それで抜擢したのが加藤だから驚く。“役所の中の役所”である財務省出身で、官僚答弁に終始する加藤に縦割り打破なんてできるのか。

 「質問にまともに答えない加藤大臣の国会答弁は“ご飯論法”と名付けられました。どんな問題でも全体的にはぐらかすことができる。そういう意味での“総合的な力”が評価されたのでしょう。国民に真摯に説明する気など毛頭ない。菅官房長官路線の継承ということです」(法大名誉教授の五十嵐仁氏=政治学)

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9月17日(木) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』9月17日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「新味なし目玉なし 暗愚の首相と黒幕居残り政権の今後」

 せっかく、大マスコミが「党内初の『無派閥・非世襲』総裁」と持ち上げ、「庶民の暮らしが分かる人」といった地方の声まで紹介。“ご祝儀”記事で「たたき上げ宰相」への期待を膨らませているのに、早々に人事で裏切るとはマヌケな話だ。法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)はこう言う。

 「『安倍継承』の公言通り、安倍亜流内閣を地で行く人事です。菅首相は自身が総理になることについて、ずっと『全く考えたことはない』と答えていました。総裁選を見る限り、この発言はホンネでしょう。総理として成し遂げたい理念や国家ビジョンなど何ひとつ語れません。だから総理になっても派閥の力学に頼るしかない。この組閣を見れば早くも菅首相の限界は分かる。それを承知で平気で担ぐ、自民党は恐ろしい。安倍前首相が病気を理由に辞意を表明した途端、内閣支持率が『ご苦労さま』とばかりに跳ね上がったことにタカをくくり、こんな人事でも国民は納得すると思い上がっているのだと思う。とことん、国民を愚弄しています」

 同じく黒幕として居残った麻生だって、この8年近くに発した暴言を数え上げればキリがない。「もう、顔を見るのもウンザリ」と思っている人だって多い中、総裁選出後の会見で「極めて政権運営で重要な人」とヨイショした菅は、とても「国民のために働く内閣」をつくるとは思えない。どう考えたって「自民党のためだけに働く内閣」の間違いだろう。とことん口先だけで、中身スカスカの新首相である。

 「内閣のスポークスマン役の官房長官に加藤氏を就ける人事にも、驚きました。彼はコロナ禍の厚労相として、その発言によって国民を散々混乱させてきた人物ですよ。相談・受診の目安だった『37・5度以上の発熱が4日以上続く』について、『基準として受け取られたのは国民の誤解』と国会で言い放ったのは忘れません。大臣としての資質が疑われるような政治家を平気で国民に情報を発信する重職に横滑りさせるのは、やはり国民をナメている証拠です」(五十嵐仁氏=前出)


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9月16日(水) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』9月16日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「空っぽの菅総裁に雪崩の自民 この政権はおそらく短命」

 これまでは、官房長官の立場でスポークスマンに徹していたから、自身の考えを封印してきたのかと思いきや、言葉や理念の貧しさは総裁選期間中、ほぼ変わらず。安倍継承に終始し、冗舌になるのは「秋田の農家の長男」という地方出身の経歴と「ふるさと納税」などの実績アピールだけ。石破が「納得と共感」、岸田が「分断から協調へ」を掲げ、目指す国家像を披露したのとは対照的だった。

 「菅氏が総裁に選ばれた後、『国民のために働く内閣をつくる』と言ったのには唖然としました。これまで国民のために働かない内閣を目指した首相などいませんよ。そんな当たり前のことしか言えないのでしょうか。『携帯電話料金の値下げ』や『デジタル庁』などの具体的な個別政策にしても、総務大臣が取り組むようなもの。総理大臣ならばもっと総合的なビジョンを語らなければ務まりません。とても総理の器ではないと思いました」(法大名誉教授・五十嵐仁氏=政治学)

 二階派が先行するのを牽制するため、麻生派、細田派、竹下派の3派閥の領袖が顔を揃えて記者会見したのも異様な光景だった。それは総裁選が終わってもエスカレートするばかりで、役員人事や閣僚人事を巡って、派閥の暗闘が続いている。

 安倍政権のままの権力構造の維持に汲々とする狂気。国民のことなどまったく見えていない。

 「既得権益を守るために派閥が菅氏を担いだのに、その菅氏が『既得権益の打破』を謳うのは悪い冗談です。長期にわたった安倍1強の弊害で、自民党全体が内向きになり、寄らば大樹で甘い汁を吸う体質へとむしばまれてしまいました」(五十嵐仁氏=前出)

 腐臭の漂う自民党にはもはや何も期待できない。


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9月15日(火) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』9月15日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「スッカラカンの菅氏が圧勝 “世紀の茶番”総裁選を総括」

 付箋だらけの想定問答集を常に注視し、口を開ければ棒読み。それでいて、「自衛隊は憲法の中で否定されている」と政府見解と真逆な見解を言い出したり、消費増税に踏み込み、釈明に追われる始末だ。

 「聞かせる演説」に定評のある石破と比べるまでもないが、場慣れして伸び伸びと語る岸田との差も開く一方だ。総裁選の中心人物が泡沫扱いの2人の足元にも及ばないとは「最強の官房長官」が聞いて呆れてしまう。

 法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)はこう言う。

 「説明能力に欠け、スポークスマンに最もふさわしくない人物が歴代最長の官房長官だったことが浮き彫りになりました。国のトップとしての政策ビジョンはなく、政治手法は強権支配の安倍政権の継承。国民と内閣を遮断してきた実行役を国のトップに担ごうとする自民党が、いかに腐った政党なのかもよく分かった。もっとも、野党は腕の見せどころです。これほど分かりやすくアベ政治の醜悪さを凝縮し、独善的な政治家はいないでしょう。国会で正々堂々の議論になれば、アッという間にボロを出すことになる」

 菅は官房長官会見では都合の悪い質問を「全く問題ない」「批判は当たらない」などの常套句ではねつけ、露骨な嘲笑で批判を押さえつけてきたが、国会審議ではその手は通用しない。新生した立憲民主党の勢力は、旧民進党の分裂前の規模に迫る。野党がガッチリ共闘して憲法53条に基づく臨時国会召集を要求し、早々に追い込むしかない。


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9月14日(月) 韓国のウェブメディア《NEWSTOF》に掲載されたインタビュー(その2) [論攷]

〔以下のメール・インタビューは、韓国のウェブメディア《NEWSTOF》2020年9月8日付に掲載されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕

Homepage: http://www.newstof.com/news/articleView.html?idxno=11259
【NEWSTOF緊急対談】 日本の進歩学者 五十嵐仁教授が見た「ポスト安倍」

5.日本製鉄の強制徴用工訴訟や輸出規制など、安倍政権は日本の政治が韓国の現実にも十分な影響を及ぼすということを実感させたと思います。それなら逆に安倍首相の辞任によって(無論官僚の惰性は存在しますが)日韓関係の変化を期待できるのではないでしょうか。

 安倍政権を支えてきたのは、菅義偉官房長官、麻生太郎副首相兼財務相、二階俊博幹事長の3人でした。この3人が大きな力を発揮する構造が変わらなければ、安倍なき「安倍政治」が続くだけです。後継総裁に菅官房長官が選出されれば、自民党は変化よりも継続を選んだことになります。外交面でも大きな変化は生じないでしょう。
 とはいえ、自民党の中でも安倍首相はイデオロギー的に極右で、歴史に対する無知、過去の侵略戦争と植民地支配への無反省、加害の歴史への無自覚という点で際立っています。韓国への敵意も極めて強いものがありました。そのような安倍首相が辞めることによって、政府としての外交上の敵意は多少和らぐかもしれません。しかし、自公政権が続く限り基本的な変化は望めないでしょう。

6.韓国では歴代最高水準の反日感情が広まっており、日本でも嫌韓感情が高まっています。 韓国では輸出規制など日本の安倍政権の敵対的政策のためだと考える一方、日本では韓国の最高裁の日本製鉄強制徴用工訴訟の判決によって、日韓関係が悪化したという認識を持つようになったと聞きました。新首相が就任しても、根本的にこの問題が解決されなければ日韓関係は解決しないと考えている人が多いです。 この問題についてどのようなお考えでしょうか。 そして、どのような解決策があるのでしょうか。

 基本的な問題は自民党政治家の多くが戦前からの支配層の子孫や末裔で、東条英機内閣の閣僚だった岸信介の孫である安倍晋三のように2世・3世議員も多いという点にあります。そのために歴史を直視できず、過去の侵略戦争と植民地支配などへの反省がないという根本的な問題を抱えています。
 この戦前からの保守政治の流れを切断しなければ基本的な変化は生じず、歴史認識に関わる問題は繰り返されるにちがいありません。これを断ち切る形での政権交代が実現し、過去の歴史を直視でき加害責任を自覚できる質的に新しい政権を樹立する必要があります。日韓関係の改善と真の友好を実現するためにも、自民党政権に代わる新たな政権の樹立は不可欠になっています。

7.最近、韓国ではあまり注目しない日本の重要な現象を一つ指摘しなければなりません。 市民と野党の共闘を通じて安倍政権に対抗してきた民主勢力の存在です。候補一本化の失敗で、東京都知事選挙では結果を出せませんでしたが、日本の民主勢力はこれまで成長を重ねてきました。 実際に前回の参議院選挙では、自民党だけの支持率などを見ますと事実上の敗北に近い結果で、小選挙区制を頼りに延命したといっても過言ではないでしょう。 要は総理の解任でなくても、次の衆議院選挙で再び対決局面が形成されたというのが筆者の判断ですが、先生の見解はいかがでしょうか。

 市民と野党の共闘こそ、新たな政権樹立の可能性を生み出す力です。政権交代に向けての「活路は共闘にあり」ということです。外交問題をはじめ、積年の問題解決のカギは野党連合政権の樹立にあります。小選挙区制という制度は多数党に有利で、自民党はこの選挙制度に助けられてきました。この制度の下で勝利するためには、バラバラではなく候補を一本化しなければなりません。
 2015年の9月に日本共産党が国民連合政権を提唱し、翌16年の2月に参院選での選挙協力を約束した「5党合意」が結ばれました。その年の参院選では1人区で11人、3年後の2019年参院選でも1人区で10人の野党統一候補が当選し、2年前の衆院選では野党第一党である民進党の分裂と立憲民主党の誕生という混乱を乗り越えて野党共闘が成果を上げています。先の都知事選でも、立憲民主党と共産党を軸にした共闘が成立し、25の小選挙区の全てで市民選対が成立しました。これらの実績を生かして、次の総選挙で市民と野党の共闘が成立し、立憲野党の候補者を一本化できれば、真の政権選択の選挙になるでしょう。

8.それでもなお保守派が多数を占める自民党の雰囲気を見ますと、究極的な日本社会の変化は市民と野党の共闘の勝利によってはじめて可能になると思います。 しかし、問題は日本国外から見ますと、市民と野党の共闘は自民党に比べると依然として弱体に感じられるという点です。 第二の政権交代が実現する見通しはあるのでしょうか。

 過去2回、1993年と2009年に政権交代が生じ、自民党は野党になっています。次の総選挙でも市民と野党の共闘が成立すれば、自民党が過半数を失う可能性があります。この間、野党の側で注目すべき変化があったからです。
 それは、立憲民主党と国民民主党という野党第1党と第2党が共に解党し、他の二つの無所属グループと共に「大きな塊」となって新しい政党を結成するという動きです。最大の労働組合ナショナルセンターである連合がこれに協力し、政策的にも新自由主義からの脱却とコロナ禍による危機対応のための消費税率の引き下げなどを打ち出しました。これは過去の民主党の再生ではなく、共産党と連携するリベラルな共闘志向の全く新しい政党で、野党共闘が大きく前進する可能性が生まれています。

9.現在、コロナ禍は各国に(良い意味でも悪い意味でも)色んな様相の変化をもたらしています。日本も例外ではないと思いますが、このような環境の中で変化を望む市民の願いと行動も具体化していくのではないかと思います。 これから日本社会で起こる変化の流れについて先生のコメントをお願いいたします。

 世界中でコロナ禍は現代社会が抱えている問題点を浮き彫りにし、可視化しました。分断され、貧困化が進み、格差が拡大し、医療や福祉が貧弱で少数派が報われないような社会はコロナ禍に対して極めて脆弱だということを分かり易く示したのです。儲け本位で経済恐慌と貧困化を生み出し、開発と市場の拡大、環境破壊を制御できない資本主義の限界や、効率最優先で規制緩和を進め、公共的なセイフティーネットを破壊して自己責任論を拡大してきた新自由主義の過ちも明らかになりました。
 ポストコロナの社会は「新しい生活様式」を求めていますが、同時にこのような現代社会の脆弱性を克服して新自由主義の過ちを是正できるような「新しい政治様式」も必要とされています。コロナ対策に失敗して行き詰まり、政権を投げ出した安倍なき「安倍政治」では、このような政治は実現できません。
 世界を見渡せば、アメリカでの人種差別問題(BLM)を契機に、過去の奴隷貿易や植民地支配の歴史に対する見直しも始まっています。自由と人権が守られ、平等で差別のない民主的な社会を生み出すことは、新たな世界の潮流となりました。日本も、歴史修正主義の誤りを克服して過去の侵略と植民地支配の歴史を見直し、差別やヘイトのない社会をめざす必要があります。市民と野党の共闘による新しい連合政権の樹立こそ、その出発点になるでしょう。安倍首相の退陣は、戦後長く続いた日本における保守支配の終わりの始まりになるでしょうし、そうしなければなりません。

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9月13日(日) 韓国のウェブメディア《NEWSTOF》に掲載されたインタビュー(その1) [論攷]

〔以下のメール・インタビューは、韓国のウェブメディア《NEWSTOF》2020年9月8日付に掲載されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕

Homepage: http://www.newstof.com/news/articleView.html?idxno=11259
【NEWSTOF緊急対談】 日本の進歩学者 五十嵐仁教授が見た「ポスト安倍」

「安倍総理の退陣は日本保守終末の始発点になる」

1.まずは基本的な内容についての質問です。韓国国民にとって日本の議員内閣制はとても理解し難いシステムです。 安倍首相の辞任後、首相職はどのような手続で継承されるのでしょうか。

 首相は国会の衆参両院での投票によって選出されます。そのための臨時国会は9月16日に召集されます。国会では多数を占める与党(自民党と公明党)の代表が選ばれて首相になりますから、自民党の後継総裁選びが事実上の首相選出を意味します。自民党の総裁選出には、国会議員(394票)と地方選出の代表(394票)が同数となる正式な投票と、国会議員(394票)と各都道府県連3票(合計141票)で選出する略式の投票があります。今回は緊急時だから時間をかけないという理由で後者が採用されました。この方式は、地方に人気の高い石破茂元幹事長を不利に、国会議員の多数に支持されている菅義偉官房長官を有利にするために採用されたと見られています。

2.安倍首相辞任直後の8月30日、《ニューヨークタイムズ》に非常に興味深い文章が掲載されました。 安倍首相の実質的な辞任の理由はスキャンダルのもみ消しのためかもしれないと上智大学の中野晃一先生が寄稿されていましたが、そういえば安倍首相の辞任はコロナ禍の対応が「無策」と批判され、支持率が大幅下落していた時点でのことでした。 先生のご意見はいかがでしょうか。

 第1次政権の時と同様、今回も持病の悪化が辞任の理由とされていますが、首相臨時代理を置く必要のない程度の病状で、安倍首相は執務を続けています。辞任の本当の理由は別にあるのではないかとの見方も根拠がないわけではありません。実際には、長年の悪政のツケが溜まり、コロナ禍対策も上手くいかず、支持率も下がり政権運営に行き詰まって投げ出したのではないでしょうか。第1次政権の時も直前の参院選で敗北し、野党が多数となって政権運営が難しくなったために逃げ出したのかもしれません。もしそうだとすれば、いずれの場合も持病が口実として利用されたことになります。
 もちろん、森友学園疑惑に関して公文書を書き換えさせられて自死した財務省職員の遺族による裁判や河井克行夫妻への選挙資金1憶5000万円還流疑惑などのスキャンダルで自らに火の粉が降りかかる危険性もあり、それを危惧して早めに身を引いたという可能性もあります。

3.突然の座長の失脚により、安倍首相が率いた自民党タカ派代表勢力の清和会も大きなダメージを受けたようです。 これが極右政治の萎縮につながる可能性もあるのでしょうか。

 清和会は現在では清和政策研究会(清和研)と名乗っており、その会長は細田博之元幹事長で安倍首相が「座長」というわけではありません。しかし、派閥出身の首相が退けば、影響力が低下することは避けられません。安倍首相は極右タカ派勢力にとっては「希望の星」でした。とりわけ、悲願としている憲法9条の改定に向けての期待が大きかったのは確かです。安倍首相はこの勢力の支持をつなぎとめるために改憲を最重要課題とし、その可能性が薄らいでも固執しました。
 改憲手続きを容易にするための96条改憲論や集団的自衛権の部分的容認へと解釈を変えた解釈改憲、9条への自衛隊明記など、手を変え、品を変えて改憲を訴えてきましたが、世論の警戒や反発も大きく発議することができませんでした。極右タカ派勢力にとっての打撃は大きく、その力の委縮につながる可能性はあると思います。

4.過去7年8ヶ月間、安倍政権が続く中、改憲推進による国民の不安、過度な新自由主義政策による国民分断など、日本社会が経験した弊害も大きいと思います。 先生の見解はいかがでしょうか。

 安倍首相は「体調不良」で辞任しましたが、日本社会も「統治不全」という大病にかかりました。アベノミクスによっても実質賃金は増えず、景気が回復して生活が豊かになったという実感はなく、2度の消費税率の引き上げとコロナ禍によって経済は破綻に瀕しています。得意とされた外交にしても、トランプ米大統領に追随し日本の首相でありながら「アメリカ第一」を貫いて貿易交渉で不利を強いられ、北朝鮮による拉致問題やロシアとの北方領土問題も解決できませんでした。安全保障面では軍事大国化を目指してアメリからの武器を大量に購入し、安保法制(戦争法)を制定して戦争に加担する危険性を高めました。
 憲法の敵視、立憲主義と民主主義の破壊、世論の分断と政治不信の増大、官僚機構の委縮と忖度、国会の軽視と独善などによって、日本の政治と社会は大きく傷つけられたのです。その結果、日本の国際的な地位や評価はかつてなく低下してしまいました。「負の遺産」ばかりで、在任期間の長さが最長だったということ以外、歴史に残るような「遺産」はありません。

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9月12日(土) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』9月11日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「国民は「安倍継承」を求めていない 自民党内だけの菅人気」

 「身内だけの菅人気」の傾向は他の調査からもうかがえる。4~6日実施の読売新聞の調査によると、次の首相にふさわしい人は菅46%、石破33%の順。これは全体の数字で、自民支持層は菅63%と石破22%を圧倒するが、無党派層に絞れば石破が39%、菅は33%と逆転を許している。

 安倍継承なんて身内の論理で、決して国民全般に受け入れられているわけではないのだ。

 「安倍政権下の世論調査では改憲や安保法制、年金、消費税など個別の政策の評価を聞くと、6~7割は支持してこなかった。モリカケ、桜、IR汚職、河井夫妻の選挙買収など安倍政治の『負の遺産』も、菅氏は継承することになりますが、これらの説明に国民の8割は納得していません。揚げ句がコロナ対策で、アベノマスクなどの愚策で世論の支持を失い、行き詰まったのが、安倍政治の実情です。その路線を引き継ぐことに、多くの国民は冷ややかです」(法大名誉教授・五十嵐仁氏=政治学)

 前出の五十嵐仁氏はこう言った。

 「党員・党友票を省いた総裁選が象徴的で、今の自民党は地方の課題や国民の多様な意見を聞く、かつての『国民政党』の姿を自ら放棄しています。菅氏の『安倍継承』とは人事を牛耳る官僚支配や疑惑隠し、メディア統制、身内びいきなど独善的な1強体制を引き継ぐことを意味し、さらなる分断と対立を招来させるのでしょう。ただ、異論や反対意見に不安を覚える1強体制はもろい。コロナ禍と米国の黒人差別反対運動で生じた協調と多様性を重んじる国際世論にも反しており、時代の要請に応えられない政権となるだけです」

 驚くほど国民意識と乖離した自民党の内輪の論理。こんな古い発想に支えられた菅が「新」政権を発足させるなんて、悪い冗談でしかない。




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