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11月30日(金) 職権による憲法審査会の開催強行は安倍首相の焦りの現れだ [国会]

 9条改憲を狙う安倍首相は追い詰められ、焦りを露わにしました。それが如実に示されたのが、職権による衆院憲法審査会の強行開催でした。
 これまで与野党の合意の下で運営されてきた憲法審査会が、「職権」によって一方的に開催されたのは初めてのことです。反発した6野党・会派は態度を硬化させて溝が深まり、今後の運営についての見通しが立たなくなりました。

 安倍首相は臨時国会の開催前から、相当焦っていたのではないでしょうか。総裁選で圧勝するはずが党員票の絶対得票率では34%しか得られず、第4次改造内閣は発足したものの支持率は横ばいか低下し、沖縄の県知事選などで3連敗してしまいましたから。
 誤算に次ぐ誤算です。それでも、改憲への野望と執念をたぎらせた安倍首相は、政治的中立が何よりも求められる実力組織である自衛隊の高級幹部会同や観閲式で改憲を呼号して機運を盛り上げようとし、施政方針演説や国会答弁でも憲法審査会の運営に口出ししたり野党に改正案を示せと挑発したりして、立法府への不当な介入だ、三権分立を蹂躙するなとの批判を浴びました。
 自民党役員の人事では下村博文改憲本部長や新藤義孝衆院憲法審査会筆頭理事という盟友や側近を起用して「改憲シフト」を組み、強行突破に向けての「陣立て」を完成させました。首相の意向を忖度した下村氏は意気込み、自民党小選挙区支部での改憲本部設置の方針を打ち出して草の根からの本格的な改憲攻勢に出ようとしました。

 しかし、このような積極姿勢も人事も意気込みも、全て空回りし逆効果に終わりました。安倍首相が前のめりになればなるほど、国民や野党の腰が引け、警戒感が高まったからです。
 第4次安倍改造内閣が発足して以降の世論調査では、臨時国会での改憲案提示に反対の方が多くなりました。与党の中でも、公明党はもちろん、自民内でも中谷氏や船田氏、伊吹氏など、安倍首相の強硬姿勢に異論を唱える人々がいます。
 安倍氏の盟友で本部長に就任した下村氏でさえ、このような状況に直面して「安倍色の払拭」を口にせざるを得なくなりました。そのうえ、事態の膠着状態にいらだった下村氏は、思わず「職場放棄だ」と野党を批判してしまいました。
 これは野党の大きな反発を生んだだけでなく、自民党内からも批判を浴び、慌てた下村氏は就任予定の衆院憲法審査会の幹事や委員の辞退に追い込まれます。これも、下村氏自身はもとより、安倍首相にとっては大きな誤算だったでしょう。

 それでも、安倍首相は今国会で自民党の改憲4項目を提示し、審議が始まったという体裁をとって来年の通常国会に向けての足掛かりを作っておきたいと考えたにちがいありません。そのためには、何としても憲法審査会を開く必要があります。
 与党だけではないという粉飾を凝らすために、野党の希望の党や未来日本という、わずか2人しかいない「微小政党」や会派に憲法審査会の枠を譲りました。野党が同調しないのであれば、同調する野党を作ればよいというわけです。
 こうして与党だけではないという粉飾を凝らしたうえで強行したのが、昨日の衆院憲法審査会の開催でした。森英介会長の職権で開かれた会議には、自民党の思惑通り、自民・公明党の与党だけでなく、維新の会、希望の党、未来日本(会派)の「野党」も出席しましたが、与野党合意の慣例を破ったと反発する野党6党・会派は欠席し、討議や審査などは行わず、幹事の選任だけで2分足らずで閉会しています。

 自民党の森山国対委員長は「国対の力が及ばなかった」と謝罪したそうです。国対の上の方からの「力」によって勝手に動かされてしまったということでしょうか。
 安倍首相の執念とそれへの忖度によって、強行された審査会だったと思われます。審査会を開いたという実績を残して次への足掛かりを作っておきたいという狙いだったのかもしれません。
 しかし、これも逆効果で、焦りが生み出した大きな誤算となったように見えます。国民投票法の改正をちらつかせて国民民主党を惹きつけ、野党を分断しようという目論見まで潰えてしまったのですから。

 次の定例日である12月6日の審査会も6野党・会派は欠席を決めています。臨時国会での改憲発議の可能性は、憲法審査会の開催を焦った自民党自身の手によって失われたと言って良いでしょう。
 しかし、安倍首相には常識が通用せず、民主的な運営や人の迷惑など顧みない独裁者です。何をやり出すか分かったものではありませんから、これからも十分な警戒が必要です。

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11月28日(水) 問題点だらけの欠陥法案である入管法改定案は廃案にするべきだ [国会]

 国会を無視するにもほどがあります。これでは何のための議会審議なのか分かりません。
 強権的な暴走を越えて、議会審議を形式化した独裁そのものではありませんか。こんな形で、日本の社会のあり方を変えてしまって良いのでしょうか。

 昨日の夜、外国人労働者の受け入れを拡大する入管法改正案が衆院本会議で、自民、公明の与党と日本維新の会などの賛成多数で可決されました。またもや与党が暴走しただけではなく、維新の会が裏切って、この暴走を手助けしました。
 衆院法務委員会でも与党は、野党の反対を押し切って採決を強行しています。これまでも国会終盤に何度も見てきた光景ですが、今回はとりわけひどいものです。
 与党内からも「乱暴だ」という声が上がっているそうですが、それも当然でしょう。誰が見たって「乱暴」そのものなのですから。

 この入管法改定案の柱は二つあります。一つは一定の知識や経験を要する「特定技能1号」(通算5年まで)と、もう一つは熟練した技能が条件で家族帯同を認める「特定技能2号」(在留期間更新可)という新たな資格を設けることです。
 ただし、受け入れ分野や5年間の受け入れ上限数は改正案に明記されていません。法務省が年内にも策定する「分野別運用方針」などに委ねているからです。
 このために、野党は「内容がすかすかで問題だらけの白紙委任法案だ」(国民民主党の山井和則氏)と批判してきました。問題点だらけの欠陥法案なのです。

 自民党の平沢勝栄衆院法務委員会理事は、強行採決について「この問題は議論したらきりがないんです。いくらでも問題点が出てくるんです」と弁解していました。「きりがない」というほど、議論したのでしょうか。
 審議時間は17時間15分にすぎないではありませんか。東京新聞では、15時間45分だったとされ、このうち野党の議員が出席しなかった「から回し」の時間が2時間45分でしたから、それを除けば実質13時間にすぎません。
 「いくらでも問題点が出てくる」ような欠陥法案を、これほどの短時間で強権的に採決するようなことは断じて許されません。そのような「問題点」を一つ一つ検討して解決するためにこそ、国会での審議があるのではありませんか。

 しかも。野党は基本的に外国から労働者が入ってくることに反対しているわけではありません。受け入れるなら、すでに入ってきている外国人の技能実習生の賃金や労働条件の実態をきちんと把握し、改善したうえで新たな労働者の受け入れと共生・定住の制度設計を綿密に行うべきだと主張しているのです。
 しかし、政府はきちんとした資料を出さず、改善したり捏造したり、虚偽答弁を行ったりしてきました。議論の前提を掘り崩してきたのは野党ではなく、政府・与党の側でした。
 「外国人材」というとらえ方に示されているように、外国人労働者を「人間」として見ていないのではないでしょうか。これらの人々は労働者として働くだけでなく、地域で生活し社会を構成する一員となるわけですから、そのための住居、教育、医療、社会保障などの制度的なバックアップを政府の責任できちんと整備するべきでしょう。

 安倍首相は「移民ではない」と強調していますが、外国人材確保のために入管法をちょっと変えて少し受け入れを増やすだけだから本格的な制度設計は必要ないと言いたいようです。このような矮小化にこそ、最大の問題があります。
 このような態度をとっているのは、一方で「人手不足」を解消して農業や介護、建設業などの産業界の要請にこたえて参院選でアピールしたいという思惑があり、他方で本格的な「移民」政策への転換ということになれば、強固な支持基盤である極右層の支持を失うのではないかと恐れているからだと思われます。
 だから、拙速であることは十分に分かっていても、あまり時間をかけずに臨時国会で成立させ、参院選前の来年4月から施行したいのでしょう。ただし、注意しなければならないのは、「人手不足」というのも一種のまやかしで、「不足」しているのは雇用の調整弁となるような低賃金で使い勝手がよい「人材」にすぎないということです。

 法案はこれから参議院に回ります。外国に出かける日程を優先した安倍首相の「自己都合」によって衆院での審議時間が切り縮められてしまいましたが、そのようなことが参院であってはなりません。
 熟議の院としての参院の存在価値が問われることになります。信頼できる資料や答弁を基にした十分な審議を行うことによって、技能実習生の実態を踏まえた制度の改善や共生に向けての綿密な制度設計を行うべきです。
 少なくとも、拙速を避け十分な審議時間を確保するということで今国会での成立を避けるべきです。欠陥だらけのこのような入管法改定法案は、廃案にしなければなりません。

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11月25日(日) 安倍政権と同様の忖度、隠ぺい、私物化の病理を明るみに出した日産のゴーン会長逮捕 [企業]

 突然の逮捕でした。日産のカルロス・ゴーン会長です。
 「コストカッター」として日産に乗り込み、「V字回復」を実現した人物の「A字転落」だったと言うべきでしょうか。

 驚いたのは、逮捕されたことではありません。こんなに沢山もらっていたのかということの方です。
 しかも、不正行為によって隠蔽された額がいくらになるかはっきりしていません。今のところ、80億円だとされていますが、もっと増える可能性があります。
 私的に流用されたお金の使い道は、驚くというより呆れるのものでした。世界に何カ所も豪華な私邸を持っていたというのですから。

 このような不正行為に対して、日産自動車は今年の春ごろから極秘チームを結成して社内調査を進めていたそうです。財務担当の役員が交代したために、不適切な支出が確認されたといいます。
 もし、役員が交代していなければ、分からなかったというのでしょうか。これほどの不正が長年の間、発覚せずに続いてきたことにも驚きます。
 内部でチェックするシステムがなく、報酬の分配などもゴーン会長とその側近に任されていたと言います。ゴーン会長の「手腕」に幻惑され、その意向を汲んで「忖度」が働いていたということでしょうか。

 しかし、その「手腕」というのは大量の首切りではありませんか。2万人以上の従業員の職を奪って路頭に迷わせた挙句、多額の報酬をせしめてその大半を隠ぺいしたということです。
 会社を自分のものであるかのように支配し、利己的な蓄財のために不正を積み重ねてきたわけです。これは独裁的な経営者による会社の私物化にほかなりません。
 ゴーン逮捕で明るみに出たのは、忖度、隠蔽、私物化の数々でした。まるで、森友・加計学園疑惑で問題とされた安倍政権の病理と同じではありませんか。

 逮捕の背景には、フランス自動車大手ルノー主導による経営統合にたいする日産側の警戒と抵抗があったようです。当初、統合に慎重だったゴーン会長が積極的な姿勢に変わったために、会長解任を急いだというのです。
 これが本当だとすれば、日産とルノーの統合は不可能になるでしょう。三菱自動車との三社体制にもヒビが入るかもしれません。
 日仏関係だけでなく世界経済にも微妙な影響を与えることは避けられないように見えます。トランプ米大統領による貿易戦争の開始に続いて、世界経済は大きな難題を抱え込んだことになるかもしれません。

 森友・加計学園疑惑やゴーン逮捕が明るみに出したことは、日本の政治も経済もその土台が腐食し、トップリーダーが病理に冒されているという深刻な事態です。日産は内部調査によってゴーン会長を排除するという自浄行為に出たようですが、政治の土台をぶっ壊してしまった安倍首相は権力の座に居座ったままです。
 ゴーン逮捕を「他山の石」として、一刻も早く自浄行為に出るべきでしょう。隠蔽と私物化の罪は、安倍首相も同等かそれ以上なのですから。

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11月21日(水) 国民の支持なき安倍政権―暗雲漂う3選後の船出(その3) [論攷]

 〔以下の論攷は、社会主義協会が発行する『研究資料』No.39、2018年11月号、に掲載されたものです。3回に分けて、アップさせていただきます。〕

3、改憲阻止と安倍政権打倒に向けて

 改憲ガチンコ勝負の始まり

 安倍首相による改憲強行の狙いは「改憲シフト」人事に示されています。司令塔である党の憲法改正推進本部長を穏健派とされる細田博之氏から強引なやり方をためらわない腹心の下村博文氏に変え、これをバックアップするために重鎮でもない加藤勝信前厚労相を総務会長に抜擢しました。早速、下村本部長は自民党の小選挙区支部に改憲本部の設置を指示しています。
 同時に、改憲論議の主戦場となる衆院憲法審査会の幹事を入れ替え、野党との交渉を担う与党の筆頭幹事に首相に近く超タカ派の新藤義孝氏を起用し、下村本部長が自ら幹事に就任しました。これまで与野党の協調路線を進めてきた中谷元与党筆頭幹事と野党人脈の強い船田元幹事は外されています。
 また、これまで公明党とのパイプ役を果たしてきた高村正彦前副総裁を後ろに引っ込め、必ずしも公明党との了解を前提としないという姿勢を示しました。自民党だけでも改憲に向けて突っ走ることができるような態勢を、とりあえず人事面で固めておいたというのが今回の改造が示しているポイントです。
 安倍首相はこれまで臨時国会での条文案の「提出」に意欲を示してきましたが、最近になって「説明」するだけでも構わないと言い出しました。総裁選後は思い通りにいかなくなったため、「提出」から「説明」へとトーンダウンしたと伝えられています。
 しかし、騙されてはなりません。このような形で印象を操作することが、安倍首相一流の「高等作戦」である可能性が高いからです。当面、「説明」だからと言って世論と野党を油断させ、維新などの一部の野党を巻き込んで憲法審査会を開き、改憲発議を強行するチャンスをうかがうということが十分にあり得るからです。こんなことは常識的には考えられませんが、そのような常識の通用しないのが安倍首相です。
 抵抗や批判もいとわず強行すれば、野党や世論の大きな反発を買うことは目に見えています。統一地方選を控えている地方議員や参院選で立候補を予定している候補者も動揺するでしょう。
 そこで意味を持ってくるのが「選挙シフト」です。今回の改造で選挙に向けての体制を格段に強化したからです。選対委員長に総裁選で選対事務総長を務めた甘利明氏、総裁特別補佐兼筆頭副幹事長に安倍首相の秘蔵っ子と言われている稲田朋美氏を起用し、幹事長代行には総裁特別補佐や官房副長官として仕えてきた側近の萩生田光一氏を再任するなど、安倍首相の盟友や側近を起用して万全の構えが取られました。
 安倍首相は、この改造によって大きな賭けに出たということでしょう。改憲を自分の手でやり遂げるために参院選の前に隙あらば改憲発議を強行したい、それで混乱しても参院選で勝てるようにしたい、発議に失敗しても参院選で何としても勝ち抜きたいという執念がにじみ出ているような布陣です。
 このような執念をしっかりと見抜き、油断することなく対応しなければなりません。トーンダウンしたとされている首相の「死んだふり」に騙されてはいけません。さし当り、「説明」のための憲法審査会の開催には断固として反対する必要があります。
 同時に、閣僚の資質・適格性や消費増税、捏造したとされる「TAG」問題をはじめ日米貿易交渉などについての追及を強めることが必要です。安倍政権の「死に体(レームダック)」化を促進することによって改憲発議の余裕を与えないようにすることが、臨時国会での獲得目標となるでしょう。

 参院選での自民党敗北と安倍政権打倒の展望

 来年の参院選で自民党を敗北させ、安倍政権打倒の可能性を切り開かなければなりません。それは十分に可能だと思います。
 第1は、自民党役員人事と内閣改造の失敗です。これによって内閣支持率を高め、勢いをつけて臨時国会を乗り切るという「スタートダッシュ」を決められず、国民の不信と自民党関係者の不安を引きずったまま政権運営を続けなければならなくなりました。
 しかも、安倍首相にとっては最後の任期で先がなく、後継者争いが始まって早晩「死に体(レームダック)」化することが避けられません。すでに、禅譲を狙う岸田政調会長が福井で後援会を立ち上げるなどの動きが始まっています。
 第2は、「公明党神話」の崩壊です。これまで自民党は連立相手である公明党やその支持基盤である創価学会に助けられて選挙を闘ってきましたが、公明党支持者の3割前後がデニー候補に投票した沖縄県知事選挙に見られたように、創価学会に対する締め付けが効かなくなってきました。
 『週刊ダイヤモンド』編集部の「『最強教団』創価学会の焦燥、進む内部崩壊の実態」というレポートは「実は全国各地で今、……幹部から『査問』を受けたり、役職を解かれたりする会員が急増している」と伝えています。公明党は昨年の総選挙において小選挙区で1人落選させ、比例代表で初めて700万票を下回るなど苦戦しました。来年の統一地方選挙や参院選を前に安倍首相に追随していると見られれば再び苦戦することは免れませんから、改憲問題で距離を取らざるを得ず自公の選挙協力にも陰りが生じています。
 第3は、「亥年現象」というジンクスです。12年に一度、統一地方選挙と一緒の年に戦われる参院選で、選挙を終えた地方議員の「選挙マシン」が作動せず自民党が苦戦するという結果が繰り返されてきました。1959年は唯一の例外ですが、71年、83年、95年に議席を減らしてきました。
 特に、第1次安倍政権の下で実施された2007年参院選では自民党の獲得議席が37議席の歴史的惨敗となり、60議席と躍進した民主党に初めて参院第1党の座を明け渡しました。このときの選挙では公明党も大敗し、神奈川県、埼玉県、愛知県で現職議員が落選しています。
 第4は、2016年参院選の実績です。3年前の参院選では32ある1人区で野党共闘が成立し、11選挙区で勝利しました。これが繰り返されれば、与党は3分の2の改憲発議可能な議席を失います。
 このときは改選121議席のうち自民党が56議席で公明党が14議席と、与党が過半数を上回りました。しかし、改選議席121の57.9%で3分の2を下回っています。自民党は3年前の2013年参院選での当選65を9議席も減らしたのです。

 むすびに代えて―活路は共闘にあり

 来年7月の参院選まで9カ月あります。その時間を無駄にしてはなりません。野党間の共闘をどう強め、参院選をどう闘うのか、前提条件なしで、相互支援に向けて具体的な協議を始めてもらいたいものです。
 国民民主党を含めて野党共闘に向けての態勢は整いつつあります。共産党の理論誌『前衛』の11月号に立憲民主、国民民主、衆院会派「無所属の会」、共産の野党4党派の国対委員長による座談会や臨時国会に向けての野党5党1会派の代表・委員長、幹事長・書紀局長会談など、共闘に向けての機運は高まってきています。
 内閣改造の不発と参院選での苦戦の予想が強まる中で、自民党内には来年の参院選で衆院選との「ダブル選挙」を行うべきだという声も出てきているようです。その可能性も視野に入れた準備を、今から始めなければなりません。
 前回16年参院選と同様に来年の参院選でも共闘を実現すれば、自民党の議席が減り与党全体として3分の2の改憲発議可能な議席に達しません。この時まで発議させなければ安倍首相の改憲野望を粉砕することができます。
 それだけでなく、与野党精力を逆転させて「ねじれ状態」を生み出すことができれば、安倍政権の命脈を断つことができます。解散・総選挙に追い込み、野党連合政権樹立への展望を切り開くことも可能になります。
 前回参院選での野党共闘は2月19日の「5党合意」から始まり、投票日まで40日しかない5月31日になってようやく1人区すべてで「1対1の構図」が確立しました。それよりもずっと早く準備が可能な今回は、さらに強力な野党共闘の力を発揮できるはずです。
 「活路は共闘にあり」ということは、この間の経験を通じてすでに明らかになっています。その活路を切り開くことによって、暗雲漂うなか船出した安倍首相に引導を渡し、国民の支持なき政権を打倒しようではありませんか。


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11月20日(火) 国民の支持なき安倍政権―暗雲漂う3選後の船出(その2) [論攷]

 〔以下の論攷は、社会主義協会が発行する『研究資料』No.39、2018年11月号、に掲載されたものです。3回に分けて、アップさせていただきます。〕

2、「総決算」を迫られる安倍長期政権

 終わっていない森友・加計学園疑惑

 10月7日、加計学園理事長が2度目の記者会見を開きました。しかし、アリバイ的な会見でしたから、疑惑が晴れたとは言い難いものです。森友・加計学園疑惑で共通しているのは、疑惑を指摘する側は具体的な文書や根拠、事実を示しているのに、それを否定する側は具体的な根拠を明らかにせず、ひたすら記憶に頼って言葉で言い逃れるだけだという点にあります。
 今回の加計学園理事長の会見での説明も同様です。証拠を示して指摘された疑惑について、具体的な根拠を明示して反駁することができていません。裁判であれば、もうこれだけで「有罪」を言い渡されても仕方がないような状況に追い込まれているのです。
 この会見によって「疑惑は晴れた」という人はたったの6%で、「疑惑は晴れていない」という人は82%にも上っています(『朝日新聞』10月13、14日調査)。森友・加計学園疑惑について安倍総理や政府のこれまでの説明に「納得できた」は11%にすぎず、「納得できなかった」と答えた人は80%にもなりました(JNN世論調査10月13、14日実施)。
 野党からの追及は止まず、その舞台は臨時国会に移ります。3選を実現したがために安倍氏は今も首相の座にあり、森友・加計学園疑惑追及の矢面に立つ資格を持ち続けているのですから。
 森友学園の国有地売却問題でも『朝日新聞』2018年10月11日付朝刊は、大幅値引きの根拠となった地下のごみの深さについて「3.8メートルまで」に存在する証拠とされた写真が、実際には「3メートルまで」を計測していた疑いを報じました。野党側は国土交通省に事実関係を確認するよう求め、「業者が撮影した調査の写真は不鮮明で、深さがわからない」と指摘しています。この問題も引き続き臨時国会で追及されるでしょう。
 公文書改ざん問題でも、9月25日にテレビ東京で「<森友公文書改ざん>自殺職員の父と財務省OBが決意の告白」という番組が放送されました。公文書の改ざんをさせられ自ら命を絶った近畿財務局の職員の父親が登場し、財務省の財務局OB職員6人が実名でカメラ取材に応じています。
 父親は、「上司に言われることを反対するわけにもいかないし、上司に言われた通りに書き換えたと遺書に書いてありました。7枚か8枚のレポート用紙に書いてありました」と話し、財務局OBは「彼が改ざんの仕事をやらされる中で100時間を超えるような残業。追い詰められて顔が変わってしまった」と証言しています。
 このように、森友学園疑惑も終わっていません。公文書改ざん問題では自殺者まで出ています。真相を明らかにし、麻生副総理兼財務相と安倍首相の政治責任を明らかにして断罪しなければ、改ざんを命じられて自ら命を絶った職員は浮かばれないでしょう。

 アベノミクスの漂流と福祉への攻撃

 自民党の総裁選挙では、安倍首相の3選支持の大きな理由の一つが外交と共に経済政策にあったそうです。安倍首相自身もアベノミクスと称して経済政策を看板にし、それによって支持の拡大を図ってきました。
 しかし、それはテレビなどで報じられる外見にすぎません。安倍首相が行ってきたのは経済や景気の立て直しではなく、「やっているふり」「進んでいるポーズ」によって国民を欺くことでした。
 その「化けの皮」が剥がれつつあります。例えば、『東京新聞』2018年9月12日付は「アベノミクス成果大げさ? 計算方法変更 GDP急伸」という記事で、「経済指標が改善したのは、データのとり方を変えた影響が大きく、十分な説明をせず、成果を『誇張』しているとの指摘もある」として、次のように書いています。
 「急成長には『からくり』がある。政府は16年12月、GDPの計算方法を変更したのだ。『国際基準に合わせる』との理由で、それまで採用していなかった『研究開発投資』の項目を追加。このほか建設投資の金額を推計するために使っていたデータを入れ替えるなどの見直しを行った。この結果、15年度の名目GDPは32兆円近く増えて532兆2000億円に跳ね上がり、一気に600兆円に近づいた。」
 9月3日に財務省が発表した4~6月期の「法人企業統計」によれば、企業の経常利益は前年比17.9%増だったのに対し、人件費は前年比3.8%増にとどまりました。企業利益の増加より人件費の増加の方が14.1ポイントも低いのです。
 企業の内部留保が446兆円になるほど過去最高の利益を積み上げているのに、労働分配率は低下して人件費は低いままに抑えられてきました。個人消費は低迷が続き、マイナス金利などで金利収入はほぼ消滅し、世帯主が50代の世帯で無貯蓄が3割あるといいます。
 貯蓄もなく年金はじり貧で社会保険料や医療費の負担が高まる一方ですから、消費拡大に期待する方が無理というものでしょう。大企業や富裕層が富めばその富が低所得層に「滴り落ち」て国民全体に利益が及ぶとする「トリクルダウン理論」も、市場にマネーを供給して緩やかなインフレにすれば企業や家計のマインドが改善して設備投資や消費が活発になるという「リフレ論」も完全に破たんしています。
 10月から政府は生活保護基準の引き下げに踏み切りました。子どものいる世帯や母子世帯の生活保護費が削られるだけでなく、保護を受けていない低所得世帯も、これまでの就学援助や非課税対象がカットされるケースが出てきます。貧困層への税の分配をやめ、子どもの貧困をさらに増やすことになります。
 さらに、安倍首相は10月15日に臨時閣議を開き、来年10月1日からの消費税の10%への引き上げを決定しました。アベノミクスの下で国民の貧困化と格差の拡大が進み、日本経済は国民の低所得化によって内需が落ち込んでいます。この状態での消費税10%への引き上げは国民生活を破壊し、日本経済にとどめを刺すことになるでしょう。

 「安倍外交」がもたらした日本の孤立

 外交は経済と並んで安倍首相の強みだと言われてきました。しかし、アベノミクスとともに「安倍外交」も破たんし漂流を始めたようです。その外交で、これほど日本はのけ者にされているのかと思わせるような事態がまたもや生まれました。
 「またもや」というのは、5月24日に北朝鮮がプンゲリ(豊渓里)の核実験場を爆破して公開したとき、6カ国協議に参加している国の中で日本のメディアだけが除外され、代わりにイギリスの記者が招待されていたからです。
 今回も、6カ国協議に参加している国で日本だけが除外されました。モスクワからのロイター通信の報道によれば、「ロシア外務省は10月10日、朝鮮半島の緊張緩和のため、米国と韓国を交えた5カ国協議が必要だとの認識でロシア、中国、北朝鮮が一致したことを明らかにした」そうですから。
 同盟国のアメリカとの関係でも、日米貿易戦争の始まりによって暗雲が漂い始めたことは前述した通りです。ムニューシン米財務長官は10月13日、日本との新たな通商交渉で、為替介入をはじめとする意図的な通貨安誘導を阻止する「為替条項」の導入を要求すると表明しました。物品だけの交渉ではない新たな「火種」の登場であり、このような「攻勢」は今後も強まるにちがいありません。
 ロシアとの関係も予断を許さないものになっています。これまで安倍首相はプーチン大統領と22回も首脳会談を行って個人的な関係を築いてきましたが、北方領土問題を解決する点では何の役にも立たず、かえって経済開発のお手伝いをさせられ実効支配を強めてしまっています。プーチン大統領から前提条件なしでの平和条約締結を持ち掛けられても反論すらできませんでした。
 最近目立つのは軍事力の強化です。外務省によれば、ロシア政府から北方領土の択捉島の近海でロシア軍が射撃訓練を行うと日本側に通知があり、これに抗議したところ、ロシア外務省は「自国の領土であらゆる活動を行う権利がある」と主張し、「儀式のような抗議ではなくすでにある政府間対話の枠組みを通して解決すべきだ」と反発したといいます。慌てた外務省は年内に2回も日露首脳会談を開いて関係を改善しようと躍起になっています。
 こうして、窮地に陥った安倍首相が助けを求めようとしているのが中国です。10月25日から北京を訪問して習近平国家主席との首脳会談が行われました。友好関係が回復され日中関係が改善されるのは結構な話です。しかし、これまでの中国敵視政策や「中国包囲網の形成」政策との整合性をどのようにして取るつもりなのでしょうか。
 最近も、南シナ海での海上自衛隊の潜水艦訓練を公開し、米空軍の戦略爆撃機と航空自衛隊との共同訓練を行い、日本版海兵隊と言われる水陸機動団と米海兵隊との国内初の合同演習を種子島で実施しました。いずれも「仮想敵国」として想定されているのは中国です。
 「米中冷戦」の開始と言われるほど中国敵視を強めているトランプ政権や対中接近に警戒を高めている支持基盤の極右勢力に「言い訳」をしながら、握手の手を差し伸べようとしているようです。この点に「安倍外交」のジレンマとギクシャクぶりが象徴されています。

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11月19日(月) 国民の支持なき安倍政権―暗雲漂う3選後の船出(その1) [論攷]

 〔以下の論攷は、社会主義協会が発行する『研究資料』No.39、2018年11月号、に掲載されたものです。3回に分けて、アップさせていただきます。〕

 はじめに

 9月2日に第4次安倍改造内閣が船出しました。総裁任期は2期6年までとされていた自民党の党則をわざわざ変更して3選を実現し、3期9年への道を開いたうえでの出発です。
 そうまでして長くやってもらうほど、安倍首相への世論の支持は大きなものだったのでしょうか。実態は逆です。『毎日新聞』が行った世論調査(10月6、7日実施)では、安倍内閣支持率は37%で9月の前回調査から横ばい、不支持率は1ポイント減の40%で、3月の調査から7回連続で不支持が支持を上回っていました。
 つまり、安倍内閣は国民に支持されていません。支持されていないのに第4次までの長期政権を迎えることになりました。国民の支持なき安倍政権の長期化という異常事態が生まれたことになります。
 その原因は小選挙区制という選挙制度にあり、この制度に賢く対応することができなかった野党のふがいなさにあります。その結果、自民党は多数議席をかすめ取り、安倍首相は国会内と自民党内での二重の「一強体制」を実現することに成功しました。
 しかし、それは虚構の多数派にすぎません。個々の政策において国民の要求とのミスマッチは拡大しています。長期政権になればなるほど、「驕り」や「飽き」も生じてきます。しかも、今後3年間は最後の任期ですから自民党内での後継争いが激しくなり、安倍首相の「死に体(レームダック)」化は避けられません。
 憲政史上最長の在任期間を視野に入れて出発した安倍首相ですが、その前途には暗雲が垂れ込めています。国民の支持という推進力を欠いた政権にとって、これからの航海は「風任せ」の不安定なものとなるにちがいありません。

1、 誤算に満ちた第4次安倍改造内閣の船出

 支持率を下げて出発した改造内閣

 安倍改造内閣の第1の誤算は、自民党総裁選で獲得した党員票の少なさと改造内閣への国民の冷ややかな反応です。総裁選で獲得した党員票がたったの55%だったことは安倍首相にとって最初の躓きでした。投票率が62%でしたから、投票権のある党員の34%しか安倍首相に投票していなかったことになります。
 そのうえ、内閣が改造されれば多少の「ご祝儀」があって支持率が上がるのが普通ですが、今回は全くありません。10月2、3日に実施された世論調査すべてで、改造を「評価しない」が「評価する」を上回り、内閣支持率も前回調査から『日経新聞』で55%から50%に5ポイント、共同通信でも47.4%から46.5%に0.9ポイント下落し、『読売新聞』でさえ50%と横ばいでした。
 このような結果になった最大の原因は、改造された自民党役員と閣僚の顔ぶれにあります。本来ならとっくに辞めていなければならない麻生太郎副総理兼財務相の残留が大きな批判を浴びましたが、安倍首相にとっては党内第2派閥のサポートを確実にするための選択だったと思われます。
 新入閣組が12人と多くなったのは、応援してもらった派閥に「恩返し」するためです。女性の入閣者は片山さつき地方創生担当相だけで、過去の言動やスキャンダルが問題になりそうな面々がそろい、衆院当選7回以上のベテランなのに初入閣が7人もいます。
 こうなったのは「待機組」を派閥の推薦通りに受け入れたからです。ここに安倍首相の力の弱体化を見ることができます。初入閣が多ければ大臣としての手腕や国会での答弁、普段からの言動などに不安が生じますが、早速、柴山昌彦文科相が「アレンジした形で、今の道徳などに使える分野があり、普遍性を持っている部分がある」などと教育勅語を評価して追及を受けました。
 今回の改造の特徴の第1は、閣僚の多くを極右勢力が占めている点にあります。改憲右翼団体と連携する神道政治連盟国会議員懇談会には公明党の石井啓二国交相以外の19人全員が加盟歴を持ち、日本会議国会議員懇談会には15人が加盟しています。安倍首相に「右を向け」と言われなくても初めから右を向いているような人ばかりです。
 第2の特徴は「改憲シフト」です。臨時国会での改憲発議のための布陣として、盟友の下村博文自民党憲法改正推進本部長と加藤勝信総務会長、衆院憲法審査会に新藤義孝与党筆頭幹事を新任しました。
 第3の特徴は来年春の統一地方選挙と参院選に備えた「選挙シフト」です。甘利明選対委員長、稲田朋美総裁特別補佐兼筆頭副幹事長、萩生田光一内閣官房副長官という側近を起用しています。受託収賄の疑いや自衛隊日報隠蔽問題などで辞任した甘利氏と稲田氏、加計学園疑惑で名前が出た萩生田氏などの側近の起用も世論の反発を高める結果になったと思われます。

 沖縄県知事選挙での予想外の大敗

 安倍首相にとっての第2の誤算は、沖縄県知事選での予想を越えた大敗です。佐喜間候補が当選できなかったことも誤算だったでしょうが、それ以上に8万票という大差の衝撃の方が大きかったのではないでしょうか。
 安倍政権が菅官房長官、二階幹事長、小泉進次郎議員などを総動員し、連立相手の公明党が原田創価学会会長はじめ6000人とも言われた学会員を送り込んでも勝てませんでした。この民意を尊重することこそ民主主義のあるべき姿にほかなりません。沖縄への敵視政策を改めて、辺野古での新基地建設は直ちにストップするべきです。
 今回の知事選では、民主的な選挙のあり方も問われました。「辺野古での新基地建設の是非」という最も重要な争点についての政策を示さず、ひたすら当選を目指す「争点隠し選挙」自体が有権者の審判を受けたという点も重要です。
 安倍政権はカネと利益で誘導し、徹底した組織戦で締め上げながら期日前投票で囲い込めば勝てると考えたのでしょう。しかし、力で屈服させようという強引な選挙戦術はかえって県民の反発を買い、逆効果になりました。
 こんなやり方は、もう通用しません。「争点隠し」と「利益誘導」によって組織戦を展開し、期日前投票に動員するという「勝利の方程式」は「敗北の方程式」に変わってしまったのです。政権側は選挙戦術の見直しを迫られることになるでしょう。
 逆に、野党側は市民と野党との共闘こそ真の「勝利の方程式」であり、大きな威力を発揮できるということを学びました。辺野古新基地建設反対と普天間飛行場の即時閉鎖・返還という最大の争点を前面に掲げて「オール沖縄」を野党共闘が支え、一部の保守や創価学会、7割もの無党派層の支持を集める闘い方こそ、市民と野党の側にとっての「勝利の方程式」だということが再び証明されたのです。

 2国間交渉に引きずり込まれた日米貿易問題

 第3の誤算は、日米貿易交渉におけるアメリカの対応です。これも、トランプ米大統領との親密な個人的関係を自慢していた安倍首相にとっては、大いなる誤算だったにちがいありません。日本にとっては不利になるから受け入れないとしていた2国間交渉に早々と引きずり込まれてしまったからです。
 日米共同声明についての改ざん疑惑も生じています。在日米国大使館の日本語訳では「物品、またサービスを含むその他重要分野における日米貿易協定の交渉を開始する」とされ、ハガティ駐日米大使も「われわれはTAGという用語を使っていない。……物品と同様にサービスを含む主要領域となっている」と発言しています。
 ところが、外務省の日本語訳では「日米物品貿易協定(TAG)」の交渉を開始するとなっています。物品だけの交渉であるかのような用語をねつ造して「包括的なFTAとは、全く異なる」という安倍首相の発言との整合性を図ろうとしたのかもしれません。
 森友学園疑惑で安倍首相の発言とつじつまを合わせるために公文書が改ざんされた構図と極めて似通っています。アメリカのペンス副大統領は10月4日の演説で「日本と歴史的な自由貿易交渉(Free Trade Deal)をまもなく始める」と述べ、パーデュー米農務長官も日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)などを上回る農林水産品の関税引き下げを求める考えを示唆して強硬姿勢を鮮明にしました。日本政府のウソがばれるのもそれほど先のことではないでしょう。

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11月16日(金) 北方領土をめぐる日ロ交渉について安倍政権がついた3つの嘘 [国際]

 一昨日の14日、シンガポールで安倍首相とロシアのプーチン大統領による首脳会談が行われました。そこで両首脳は1956年の日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉を加速させることで合意しました。
 この56年宣言は平和条約締結後に歯舞群島と色丹島の2島を引き渡すと明記しています。従来、日本政府は国後と択捉の2島も含めた四島の一括返還を求めていましたが、安倍首相はこれを変更し、2島先行返還論に転換したように見えます。
 この方針転換と日露両首脳の合意は北方領土問題を前に進めたのでしょうか。それとも後退させてしまったのでしょうか。

 第1に、安倍首相の提案がこれまでの日本政府の方針を大きく転換したものであることは明らかです。15日に記者会見した菅官房長官は「実際の返還時期、態様、条件に付いて柔軟に対応する方針を堅持してきた」と述べ、国後と択捉が「後回し」になったとしても、従来の方針とは変わっていないと説明していますが、これは嘘です。
 今回の合意で安倍首相は「4島の帰属」については言及せず、北方4島の名前を列記し、その帰属問題を解決して平和条約を結ぶことを約束した93年の「東京宣言」も、4島の帰属の問題を解決して平和条約を締結することを確認した2001年の「イルクーツク声明」も無視されてしまいました。「1956年の共同宣言を基礎として、平和条約交渉を加速させる。本日そのことでプーチン大統領と合意した」ということですから、93年や01年の合意から56年の合意へと後退してしまったことになります。
 元外務次官の竹内行夫氏は、『朝日新聞』11月16日付の談話で「今回の合意は、日本の外交努力や成果を後戻りさせるものだ」と指摘している通りです。安倍首相が行ったのは「新たな提案」ではなく「古い提案」であり、領土問題についての合意を大きく後退させてしまったのです。

 第2に、これは「2島先行返還」論であり、しかもそれは「2島+α」だと説明されています。これも嘘で、「2島先行」に引き続いてさらに残された2島が返還されることはあり得ません。
 実際には「2島限定」の返還であり、場合によっては「2島上限」の返還ということになるでしょう。前掲の『朝日新聞』に「2島先行ではない。『2島ぽっきり』だ。首相もちゃんとわかっている」という「日ロ関係筋」の見方が紹介されている通り、残りの2島が返ってくる可能性は、今回の合意によってほぼ潰えたと言って良いのではないでしょうか。
 また、プーチン大統領は「56年宣言はすべてが明確なわけではない。2島を引き渡すが、どちらの主権になるのかは触れていない」と強調しています。「主権」抜きの「引き渡し」もあり得るということであり、そうなれば「2島+α」ではなく「2島-α」ということになります。

 第3に、安倍首相は歯舞と色丹の2島が日本に引き渡された後にも、日米安保条約に基づいて米軍基地を島に置くことはないと伝えていたそうです。これも嘘になるでしょう。
 外務省は日米安保条約や地位協定について、「米軍はどこにでも基地を置くことを求められるが、日本が同意するかどうかは別だ」(幹部)と解釈しているそうですが(前掲『朝日新聞』)、その解釈に基づいて断ることができるのでしょうか。もし、そうできるのであれば、沖縄の辺野古での米軍新基地建設も断ることができたはずではありませんか。
 沖縄ではできないのに北方領土ではできる、というダブルスタンダードでごまかそうとしているのが安倍政権です。沖縄県民がこぞって反対している辺野古での新基地建設すら断れない日本政府が、米軍基地を島に置くことはないという約束を守れるはずがありません。

 このような問題があるにもかかわらず、すぐに分かるような嘘までついて、安倍首相はなぜ今回のような提案を行ったのでしょうか。それは残された任期中に大きな業績を残したいと焦っているためだと思われます。
 北方領土返還と拉致問題の解決は、改憲とともに、歴史に名を残す格好のテーマです。あと3年の任期内に、これらの問題の一つでも決着させて大きな業績を残したいと焦っているのではないでしょうか。
 領土問題では、来年1月の訪ロと6月のG20サミットでの日ロ首相会談を通じて成果らしきものをあげ、国民に幻想を与えたうえで衆参同日選挙に打って出るということを考えているのかもしれません。

 この安倍首相の焦りと目論見にプーチン大統領が付け込んだのが、今回の合意だったのではないでしょうか。そのことを国民に知られないようにするために大きな嘘をついているということなるでしょう。
 「思い出づくり」ならぬ「業績づくり」のために、憲法や領土、拉致問題などが利用されるようなことを許してはなりません。安倍首相の個人的な野望の犠牲となって苦しむのは国民であり、当事者たちなのですから。

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11月14日(水) 『日刊ゲンダイ』11月10日付巻頭特集「入管法改正紛糾 極右の首相が“移民”旗振りのいかがわしさ」へのコメントと若干の補足 [コメント]

 〔以下のコメントは、『日刊ゲンダイ』11月10日付巻頭特集「入管法改正紛糾 極右の首相が“移民”旗振りのいかがわしさ」内に掲載されたものです。〕

 「政府は来年4月から施行させたいと時限を区切り、今国会で必ず成立させる方針です。なぜ、そんなに急ぐ必要があるのか。まずは時間をかけて、外国人労働者の受け入れ体制を整備するべきです。すでに、技能実習生や留学生として来日し、就労している外国人労働者数は128万人に達していますが、その待遇はひどく、毎年、数千人の技能実習生が失踪している。こういう問題を放置したまま、新たな受け入れ制度を設けて、ダブルスタンダードでやっていくのか。制度設計が生煮えのまま、数の力にモノを言わせて強行採決すれば、将来に禍根を残すだけです」(政治学者の五十嵐仁氏)

 昨日から、改正入管法の審議が始まりました。現在、日本にはすでに実習生などとして働いている外国人が128万人おり、その家族などを含めた在留外国人は2倍の256万人に上ります。
 今後、望むと望まないとにかかわらず、これらの在留外国人は増え続けるでしょう。少子化が進んで日本人社会の縮小が避けられず、人手不足も深刻になるなかで現代の「鎖国」は不可能だからです。
 問題は、これらの人々をどのような形で受け入れ、共生していくかという点にあります。この問題を考えるうえで、さし当り以下のような点が重要ではないでしょうか。

 第1に、すでに受け入れてきた技能実習生の賃金や労働条件の改善です。野党による技能実習生を対象にした合同ヒアリングでは低賃金や長時間労働への不満が続出しました。
 この実態解明や待遇改善が、まず優先的になされる必要があります。すでに受け入れている労働者の待遇が貧弱なまま新たに多くの労働者を受け入れれば、問題や不満が拡大するばかりです。
 野党は審議の前提として、すでに就労している実習生や失踪した実習生の実態調査結果を示すよう求めていますが、それは当然の要求です。今回の改正内容が、これまで受け入れてこなかった、いわゆる単純労働者も対象としていますから、なおさら待遇改善に向けての具体的な方策が求められることになります。

 第2に、外国人労働者との共生に向けての制度設計が必要です。外国からやってくる労働者は人間であり、地域社会に居住し生活する構成員となるからです。
 日本で生活するための医療や年金、日本語教育や住環境の整備なども必要になります。入管法をちょっと直して、少し受け入れ枠を拡大するだけだから「移民」ではないと問題を矮小化することで、このような制度設計を回避しようとしてはなりません。
 拙速であってはならないというのは、このような制度設計をきちんと行わないで受け入れてはならないからです。これまでは受け入れ環境の整備を地方自治体やNPO法人などに丸投げしてきましたが、受け入れを大きく拡大する以上、各省庁の対策を総動員して国が責任を負う体制をきちんと整備しなければなりません。

 第3に、ヘイトスピーチやヘイトアクションなどに示されている排外主義の克服です。一方で外国人労働者の受け入れを拡大しながら、他方で「外国人は出ていけ」と叫ぶデモや集会を放置することは許されません。
 多くの外国人を隣人として受け入れ、共に人間とし尊重し助け合うことのできる多文化共生の開かれた社会になっていくことが必要です。そのために、政治がリーダーシップを取らなければなりません。
 ヘイトスピーチやヘイトアクションを取り締まるための法制度の整備だけでなく、排除ではなく共生や多様性を大切にする社会づくりに努力しなければなりません。民族や人種、宗教や文化の違いを尊重し、外国人を敵視したり排斥したりすることのない社会にならなければ、外国の人びとに選ばれる国になることは不可能なのですから。

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11月12日(月) 安倍異常政権の深層を衝く―3選されても嵐の中の船出となった安倍首相(その3) [論攷]

 〔以下の論攷は、治安維持法犠牲者国家賠償要求同盟が発行している『治安維持法と現代』2018年秋季号、に掲載されたものです。3回に分けて、アップさせていただきます。〕

3、安倍首相の野望を打ち砕く力はどこに

 自民党総裁選の真実

 安倍首相が総裁選挙で3選されたのは事実ですが、必ずしも安定した支持によって支えられているわけではありません。自民党総裁選挙の中身を子細に分析すれば、「安倍一強」の脆弱性が明らかになります。
 総裁選で石破氏の254票に対して安倍首相は553票を獲得し、圧勝したように見えます。しかし、「党員票」の状況を見れば、全く違った光景に出会います。安倍首相の得票は55%で、石破氏の得票は45%と肉薄していたからです。7割を獲得するという安倍首相陣営の目標からすれば驚愕する結果であり、石破氏が善戦したことは疑いありません。
 しかも、総裁選の有権者である自民党員の中には、かつて犬や猫の名前まであり代理投票などもありました。選挙自体も公職選挙法の規制を受けず、金をばらまいたり飲ませたり食わせたり、何でもありです。今回の選挙の途中でも、石破支持の地方議員や国会議員に圧力がかけられていたことが明らかになりました。
 そのような懐柔や締め付けが横行する下での選挙結果でも、石破氏は半分近い支持を集めました。投票率が62%でしたから、安倍首相の55%という得票は自民党員の34%にすぎません。つまり、安倍首相は自民党員の3分の1にしか支持されていないということになります。これが、総裁選で示された真実だったのです。

 内閣改造と暗雲漂う臨時国会

 10月2日に自民党役員と内閣の改造が行われ、第4次安倍改造内閣が発足しました。安倍異常政権にふさわしい、最低最悪で異常な内閣になっています。「土台」とされている菅官房長官や麻生太郎副総理兼財務相は留任し、その周りを側近や「お友達」の議員が固め、過去最多となった新入閣者は派閥均衡・滞貨一掃の古手がほとんどという顔ぶれです。
 唯一の女性となった片山さつき地方創生担当相は西日本豪雨災害の最中に「赤坂自民亭」で宴会をしていた様子や貧困家庭の子どもを中傷するようなツィートをして問題になりました。原田義明環境相は学歴詐称問題で副文科相を辞任したり、「南京大虐殺」についての政府見解の見直しを求めたりしたことがあります。桜田義孝五輪担当相も「慰安婦はビジネスだ」との発言を批判されて撤回した過去がありました。
 失言や暴言のリスクが高い「ガラクタ」ばかりをかき集めたようなものです。早速、柴山昌彦文科相が教育勅語を評価するような発言をして批判を浴びました。しかも、公明党出身の石井国交相を除く19人の閣僚全員が改憲右翼団体と連携する「神道政治連盟国会議員懇談会」に所属し、「日本会議国会議員懇談会」にも14人が加盟しています。
 改憲・右翼的志向の強さは、自民党役員人事で一層明瞭になっています。憲法改正推進本部長に下村博文氏、総務会長に加藤勝信氏、選対委員長に甘利明氏、筆頭副幹事長に稲田朋美氏など安倍首相の盟友や側近が起用され、露骨な「改憲シフト」が敷かれました。臨時国会で改憲発議をゴリ押しする狙いが明瞭です。
 しかし、改憲に向けての視界は不明瞭で、このような前のめり人事は逆効果になりかねません。安倍首相が改憲発議に本腰を入れようとしているのも成算があってのことではなく、求心力を維持して「死に体(レームダック)」化を避けるために改憲を振りかざさざるを得ないからです。
 秋の臨時国会では日米貿易協議や消費税の10%への再引き上げ問題などの難問が待ち構えています。安倍首相が最重要課題としている改憲問題では、石破氏など自民党内でさえ慎重論があり、公明党の消極姿勢や立憲野党の反対、急ぐべきではないという世論などの「壁」があります。
 公文書改ざんやセクハラ問題、暴言などでとっくの昔に辞任していなければならないのに無理やり続投させた麻生氏、政治とカネの問題を抱えている甘利氏や下村氏、岩屋氏など、野党の追及や世論の批判によっていつ爆発するか知れない「地雷」を組み込んだ新体制で、このような暗雲漂う臨時国会を乗り切れるのでしょうか。

 野党共闘の威力と「亥年現象」

 第4次安倍改造内閣の前途には、もう一つ大きな試練が待っています。それは選挙です。2019年は春に統一地方選挙があり、夏に参院選があります。「選挙の顔」として勝ち抜くことができなければ、安倍首相には未来がありません。
 安倍政権が選挙で勝ち続けてきたのは確かですが、有権者内での得票率(絶対得票率)はそれほど高くありません。参院選の選挙区や衆院選の小選挙区での絶対得票率は25%前後で、比例代表での絶対得票率は16~17%ほどにすぎません。それなのに自民党が勝利してきた秘密は、野党の分断と投票率の低さにあります。
 逆に言えば、現状のままでも、野党が共闘してまとまり投票率が1割ほど高くなって野党に入れば勝つことができます。そのためには、何としても野党共闘を実現しなければなりません。共闘できれば勝利の展望が見えてきます。諦めていた有権者も、投票所に足を運んで野党候補を後押しする可能性が高まります。
 しかも、来年の参院選挙は統一地方選挙と一緒に戦われます。この12年に一度の亥年の参院選では自民党が苦戦するという「亥年現象」が繰り返されてきました。1959年を唯一の例外にして、71年、83年、95年の参院選では自民党が議席を減らしています。
 とりわけ、前回の2007年参院選は第1次安倍政権の下で実施され、自民党の獲得議席は37議席と89年参院選以来の歴史的惨敗となり、60議席を獲得した民主党に初めて参院第1党の座を明け渡しました。ちなみに、この選挙では公明党も大敗し、神奈川県、埼玉県、愛知県の選挙区で現職議員が落ちています。
 市民と野党との共闘によって、この07年参院選を再現させることができれば、安倍政権を打倒することができます。そうすれば、解散・総選挙に向けての展望を切り開くことも可能になるでしょう。

 むすび―国賠同盟・運動への期待

 安倍政権はすでに「賞味期限」が切れています。安倍首相が掲げてきた「3本の矢」「地方創生」「女性活躍」「一億総活躍社会」「人づくり革命」「働き方改革」などの目玉政策もスローガン倒れに終わっています。歴代自民党政権が取り組んで来た「政治改革」「行政改革」「構造改革」「雇用改革」「教育改革」「大学改革」「司法改革」「税と社会保障の一体改革」「農業改革」などの「改革」路線も失敗の連続です。
 それなのに安倍首相は自民党総裁として3選され、さらに3年間続投することになりました。国政選挙で連勝し、内閣支持率も上下しながらそれなりに安定しているからです。その背景と要因は、小選挙区制を導入した政治改革や官邸支配を強化して官僚の人事権を握った行政改革など、制度「改革」の一部が国会と自民党内での「一強」を生み出す点で有利に働いたからです。
 教育とマスメディアに対する支配と統制の強化も、安倍内閣を支える装置となりました。社会や国民意識の変容と右傾化は安倍内閣支持を安定させる背景の一つでした。安倍長期政権の深層には、右傾化する日本社会の存在があったのです。
 安倍首相は「(戦前の)日本を取り戻す」という野望を実現するために、このような社会の変容を促進するとともに政治的に利用してきました。ときには、意識的なフェイク(虚偽)情報を流すことさえためらいませんでした。こうして、安倍政権は社会の底辺で蘇生しつつある草の根の「戦前」によって支えられてきたのです。
 フェイク(虚偽)にはファクト(事実)で対抗しなければなりません。戦前の日本社会の実像を明らかにし、そのおぞましさと恐ろしさをいつまでも伝え続けていかなければ、いつかは忘れられてしまいます。忘却こそ、戦前回帰への始まりなのです。
 治安維持法という戦前最悪の弾圧法の実態を明らかにし、その被害者を救済することによって国の責任を問うことは、忘却への最善の抵抗手段にほかなりません。安倍政権が社会の底辺に蘇りつつある草の根の「戦前」によって支えられている以上、それを草の根で掘り崩す国賠同盟の存在と運動は、いつまでも現代的な意義を失うことはないでしょう。

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11月11日(日) 安倍異常政権の深層を衝く―3選されても嵐の中の船出となった安倍首相(その2) [論攷]

 〔以下の論攷は、治安維持法犠牲者国家賠償要求同盟が発行している『治安維持法と現代』2018年秋季号、に掲載されたものです。3回に分けて、アップさせていただきます。〕

2、「安倍一強」を生み出した背景と要因

 制度改革の「成功」と「失敗」

 安倍政権の異常性はますます明瞭になり、日本が取り組んで解決すべき課題とのミスマッチは拡大し、民意との乖離も増大しています。それなのに国政選挙で勝利し続け、内閣支持率は上下しながらも急落することを免れています。それは何故でしょうか。
 そこには「安倍一強」を生み出した背景と要因があるからです。制度改革の「成功」と「失敗」、支配装置としての教育とマスコミ、社会や国民意識の変容と右傾化という3つの側面から、これについて検討してみることにしましょう。
 まず、歴史的に取り組まれてきた各種の「改革」によって生じた政治的な機能について指摘する必要があります。とりわけ、「一強」体制を生み出した要因として「政治改革」「行政改革」「構造改革」が重要です。
 第一の政治改革によって小選挙区制が導入され、自民党は選挙区で4割台の得票率で7割台の議席を占め、国会内で「一強」体制を確立しました。自民党内でも派閥が力を弱めて多元的な柔構造が失われ、候補者の擁立や資金の分配などに関する権限を執行部が握り、党の中央集権化がすすみます。
 2つ目の行政改革では、2001年の省庁の再編によって内閣府が登場し、官邸機能や首相権限が強められました。2014年には内閣人事局が発足し、官僚に対する官邸の支配力が格段に強化されています。
 3つ目は構造改革です。法形成のルールを緩めて国会を通さずに「政治主導」を貫くことをめざして経済財政諮問会議や規制改革会議、ワーキンググループなどが設置されました。加計学園問題では、国家戦略特区諮問会議によって岡山理科大学の獣医学部新設が認められています。このような仕組みこそ、政治や行政の私物化、忖度が蔓延する状況を生み出す制度的な背景にほかなりません。
 これ以外にも、安倍政権が取り組んで来た「改革」は「やってる感」を国民に与え、内閣支持率の安定に寄与してきました。しかし、実際には効果を上げていません。「安倍一強」を生み出したという点では「成功」したかもしれませんが、日本が直面している問題を解決して状況を改善するという点では完全に「失敗」に終わっています。
 詳述する余裕はありませんが、非正規労働者を増大させた「雇用改革」、教育と教科書の内容に介入し管理・統制を強めて現場を荒廃させてきた「教育改革」、予算を減らして研究能力を低下させてきた「大学改革」、弁護士の数を増やして処遇を低下させた「司法改革」、社会保障サービスを切り捨てて消費税を引き上げるための口実にすぎなかった「税と社会保障の一体改革」など、惨憺たるものです。これに、前述した「農業改革」を加えれば、死屍累々たる姿が浮かび上がります。まさに「改革」失敗のオンパレードではありませんか。

 支配装置としての教育とマスメディア

 安倍内閣への支持調達においてとりわけ重要な役割を果たしているのは、教育とマスメディアです。安倍首相にとっては「(戦前の)日本を取り戻す」ための社会的な仕組みだと言っても良いでしょう。特に、若者の内閣支持率を高めるうえで大きな役割を担っています。
 戦後民主教育と日教組に対する敵視と介入は、自民党の伝統的な施策の一つでした。それをバージョンアップしたのが安倍首相です。第1次安倍内閣で教育基本法と関連3法を改定して愛国心という言葉を盛り込み、内閣府直属の教育再生会議を舞台に教育への介入を強めようとしました。
 第2次安倍内閣もこの流れを引き継ぎ、教育再生実行会議を発足させて教育への介入と管理を強めてきました。教科書検定の強化と内容への介入、道徳の教科化と愛国心教育の重視、労働強化による先生の疲弊と教師集団の分断、教職員会議の形骸化、労組攻撃による教職員組合の組織率低下など、教育内容と教育現場の荒廃が急速に進んでいます。
 その結果、正しい歴史認識を持たず、権力に従順で空気を読みすぎる過剰な同調性を身に着けた若者が生まれました。若者と高齢者との政治・社会意識の対立は世代間の格差ではなく、戦後民主教育で育った高齢者と安倍教育改革によって取り込まれた若者との違いから生じています。
 自民党による長年の日教組や全教への攻撃と安倍教育改革による介入と管理強化は、森友学園でなされていた教育勅語を暗唱させるような国粋主義的戦前教育の復活をめざしていました。だからこそ、それを目にした安倍首相夫人の昭恵氏が感激し、森友学園の小学校用地取得のために一肌脱ごうとしたのではないでしょうか。
 戦前の軍国主義教育によって多くの若者が洗脳され自ら進んで戦地に赴きました。今また、教育の変質によってある種のマインドコントロールがなされ、希望や展望をもたない若者は変革への意欲を失い、現状は変わらないものと思い込んで諦めてしまっているように見えます。
 戦前において猛威を振るった教育の恐ろしさはよく分かっていたはずです。安倍首相も教育の持つ力を十分に理解していたのでしょう。だからこそ、「(戦前の)日本を取り戻す」方策の手始めとして教育改革に取り組み、今になってその「成果」が徐々に出てきたということではないでしょうか。
 もう一つの安倍内閣への支持調達の手段は、マスメディアに対する懐柔と統制です。その結果、新聞やテレビ報道は大きく変容してしまいました。一部の報道は権力への監視や批判というジャーナリズムの役割を忘れ、安倍首相の御用新聞、御用チャンネルになっています。
 事実がきちんと報道されない、安倍首相が過度に美化されている、政権に不利になるような報道は手控えるというような忖度や配慮が日常的に行われています。大手全国紙のスタンスは「親安倍」と「反安倍」に分かれ、テレビではNHKの政権寄りの姿勢が目立つようになりました。その結果、政権にとって不利にならないような情報環境が拡大してきています。
 しかも、若者はこのような新聞やテレビさえ視聴している人が減っています。情報入手の手段はインターネットやSNSで、フェイスブックやツイッターによる場合が大半です。そして、このような手段を通じて流布されるものには、多くのフェイクニュース(虚偽情報)も含まれています。
 フェイク(虚偽)に打ち勝つ力はファクト(事実)です。情報を見極める「リテラシー(読解力)」が必要であり、そのような力は教育によって培われます。現場での教員の奮闘が求められますが、それを包み込むような父母による運動や安倍「教育改革」を阻止する政策転換を急がなければなりません。

 社会や国民意識の変容と右傾化

 社会や国民意識の変容と右傾化も内閣支持を安定させている背景の一つです。いわば、社会の底辺で蘇生しつつある草の根の「戦前」が、安倍首相を支えているということになります。このことを、最近話題になっている『新潮45』の休刊問題を例に考えてみることにしましょう。
 『新潮45』は8月号に杉田水脈衆院議員の「『LGBT』支援の度が過ぎる」という論文を掲載し、批判が殺到すると10月号で特別企画「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」を組み、さらに大きな批判を招いて休刊に追い込まれました。その背景には出版不況があり、「炎上」も辞さない覚悟で「右寄り」の紙面づくりを行ったと言います。つまり、「右寄り」にすれば売れるという判断があったことになります。
 「LGBTは生産性がない」という差別論文や「偏見と認識不足に満ちた」(佐藤隆信新潮社社長)反論特集であっても、読者を増やすことができると考えたわけです。実際、中高年向けの雑誌は「右寄り」のものが売れているようです。「安倍晋三圧勝の秘密」「中国を叩き潰せ」などという記事を載せている『WiLL』11月号や「安倍総理 新たなるたたかいへ」「朝日新聞は国民の敵だ」などの記事がある『月刊HANADA』は、全国紙に大きな広告を出し書店で平積みされています。
 この両誌に登場しているケント・ギルバート弁護士は『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』という本を講談社という大手出版社から出して47万部も売れました。昨年の新書・ノンフィクション部門で最多の発行部数となり、2月には続編も出ています。中韓の人について「『禽獣以下』の社会道徳」などと差別的な記述のある本が売れているということは、それを歓迎する読者がいるということです。
 これらは一例にすぎませんが、ここに日本社会の醜い一面が示されています。安倍首相を持ち上げ、気に入らない対象を侮蔑し卑下することによって留飲を下げようとする人々が確実に存在するという事実です。これらの人々が、強固な支持者となって安倍政権を支えていることは明らかです。
 しかも、これらの右翼的な意識を持つ人々と安倍首相は同じ側に立ち、ある面では繋がっています。「安倍さんがやっぱりね、『杉田さんは素晴らしい!』って言うので、萩生田(光一・自民党副幹事長)さんが一生懸命になってお誘いして、もうちゃんと話をして、(杉田氏は)『自民党、このしっかりした政党から出たい』と」と、櫻井よしこ氏が語っているように、杉田氏を自民党の候補者として衆院中国ブロック名簿の上位に押し込んだ経緯に安倍首相が深くかかわっていました。だから、安倍首相は杉田氏を批判できないのです。
 反論特集に登場し杉田論文を擁護して大きな批判を浴びた自称文芸評論家の小川榮太郎氏も安倍首相と深いかかわりがあります。小川氏は安倍首相のブレーンである長谷川三千子埼玉大学名誉教授の弟子にあたり、2012年に『約束の日 安倍晋三試論』(幻冬舎)という本でデビューした人です。
 この本は最初から安倍氏を再び総理大臣にしようという運動のなかで出版されたもので、2012年の自民党総裁選の直前、「安倍晋三総理大臣を求める民間人有志の会」の事務局的な役割をしていた小川氏が評論家の三宅久之氏の指導で執筆し、安倍応援団の見城徹社長の幻冬舎から出されました。それがベストセラーになって売り切れになったりしたために話題になりましたが、それは安倍氏の資金管理団体「晋和会」が700万円以上も出して4000部も購入したからです。


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