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8月24日(金) アベが小泉になれなかった4つの理由 [内閣]

 明日、安倍首相が訪問先のクアラルンプールから帰ってきます。政界の「夏休み」も終わり、27日とされている自民党役員と内閣の改造に向けて、政局は再び動き出そうとしています。

 ところで、22日のブログで紹介した竹中治堅『首相支配-日本政治の変貌』(中公新書、2006年)は大変興味深い本で、大いに勉強になりました。この本は、1994年以降、政治改革や行政改革を機に日本の政治の仕組みが変化し、その結果、「首相の権力が大幅に強まったこと」を論証しています。
 これが、竹中さんの言う「首相支配」です。このような「首相への権力一元化」は、首相の地位を強める省庁の再編と、それを効果的に行使することをめざす小泉純一郎首相が登場した2001年に成立しました(「2001年体制」の成立)。
 このようにして成立した「2001年体制」は、小泉首相の下で強化され、05年9月11日の「郵政選挙」によって「定着」します。「つまり、2001年4月から2005年9月までが2001年体制の定着過程であった」(前掲書、248頁)というのが、竹中さんの主張です。

 「定着」したというのであれば、このような構造はその後も維持・継続されていることになります。しかし、小泉前首相とは異なって、安倍現首相はこのような「2001年体制」の恩恵をこうむることなく、「首相支配」を貫徹していないように見えます。
 それは、何故なのでしょうか。その答えは、小泉前首相と安倍現首相とを分ける4つの理由があるからだと思われます。

 第1に、人的配置の失敗です。小泉内閣ではゼロだった閣僚の交代が、安倍内閣では4人に上りました。
 失言や暴言、政治とカネの問題で名前が挙がった閣僚なども沢山いました。任命権者としての安倍さんの人物評価の甘さの故でしょうか。この点が、小泉さんとの大きな違いです。また、小泉さんを補佐した竹中大臣や飯島秘書官のような存在がなく、「チーム安倍」を作りはしたがほとんど機能しなかったという問題もありました。
 「首相支配」の構造に変化はなかったにしても、それを機能させる人的配置に失敗したという点が決定的です。内閣や首相の権限を強めても、それを生かせるような陣立てに失敗したというのが安倍さんの蹉跌を生み出した原因ではないでしょうか。

 第2に、政策課題の誤りです。小泉内閣の郵政民営化という目標は、安倍内閣では改憲と「戦後レジーム」からの脱却に変わりました。
 もともと、安倍さんは経済政策に対しては無能であり、関心もありません。首相に際して出版した『美しい国へ』では、経済・財政政策には何も触れていませんでした。代わって提起されたイデオロギー的な政策課題の突出こそが、安倍首相の特長であり、持ち味です。
 そして、小泉首相時代に大きな力を発揮した経済・財政諮問会議は、このようなイデオロギー的な政策課題ではその役割を発揮できないという問題がありました。代わりに、教育再生会議などを設置しましたが、戦略的課題設定と首相のイニシアチブという点では大きくトーンダウンしています。

 第3は、世論の反転です。当初、7割台もあった内閣支持率は、今では2割台を維持するのが精一杯で、逆に、不支持率は2割以下から7割台に近づいてしまいました。この点は、4割台を前後する支持率を維持し続け、退陣直前でも支持率が5割を超えていた小泉前内閣との大きな違いです。
 前掲の著書で、竹中治堅さんは「首相支配」にとって世論からの支持がいかに重要であるか、を繰り返し指摘しています。「首相の地位を獲得・維持する条件として重要なのは世論から支持を得ること」であり、「世論からの支持が、首相が権力を存分に行使できるかどうかを左右するようになっている」(前掲書、241頁)というのです。
 この決定的とも言える条件を、安倍首相はクリアーすることができませんでした。これは、2年前の総選挙と今回の参院選との違いを生んだ主たる要因でもあります。

 そして、第4は、首相自身の資質や経験不足を背景としたリーダーシップの問題です。これは、以上に挙げた3つの理由のそれぞれにも深く関わっています。
 派閥の関与を排して「仲間」を自民党の役員や内閣に配置する陣立てという点では、安倍さんも小泉さんも変わりません。しかし、誰を、どの様な基準で選び、どう配置するかという点や、問題が生じた場合の対処方法という点で失敗したのは、安倍さん自身の問題です。
 「美しい国」というスローガンの下で、一体、安倍さんが何をやろうとしているのかがはっきりしないという点でも、政治のリーダーシップが問われてきました。しかし、これは日本国憲法の下で営々と築かれてきた平和で民主的な「戦後レジーム」をひっくり返そうというものですから、一種の「政治的クーデター」にほかなりません。
 それを国民にはっきりと示すことができないのは当然であり、このような公表できない目標を密かに掲げたのが間違いなのです。ここに、安倍さん自身の問題があります。今日の日本において目指してはならず、所詮、達成不可能な目標だったからです。

 いずれにせよ、安倍さんと小泉さんとの違いにおいて、内閣支持率の動向が大きな要素を占めていることが分かります。それは、過去においてだけでなく、今後の推移を予測するうえでも、大きな意味をもっています。
 安倍さんにとっては、自民党役員改選・内閣改造後の内閣支持率の推移がポイントになるでしょう。今後、解散・総選挙含みで政局が動いていくということになれば、自民党政治家は世論動向に応じて自らの態度を決めることになるからです。
 この点に関連して、竹中治堅さんは著書の中で、注目すべき指摘をしています。「強化された権力を首相が存分に使えるかどうかは、首相自身が世論から支持を獲得できるかどうかにかかっている」として、次のように書かれています。

 ……党首は「選挙の顔」として重要な役割を演じる。自民党の場合、選挙戦での各政治家の命運は党を代表する総裁=首相の人気に大きく左右される。このため、自民党の政治家は、首相に対する世論の支持に敏感になっており、世論の動向を睨みながら、どの程度、首相に従うか決めるのである。
 仮に首相の人気が低迷し、自らの選挙に悪い影響を及ぼすことが予想される場合、自民党の政治家は首相を支持しないことはもちろん、首相を退陣に追い込む可能性もある。こうなれば、首相は権力を行使するどころの話ではなくなってしまうのは、言うまでもない。(前掲書、247頁)

 竹中さんは、「仮に」ということで、こう書いています。しかし、それは「仮」の話なのでしょうか。
 内閣改造後の安倍内閣に対する支持率が注目されます。その動向次第では、「首相を支持しないことはもちろん、首相を退陣に追い込む可能性」も生まれてくるに違いないでしょうから