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9月30日(日) 時津風親方を殺人罪で逮捕するべきだ  [社会]

 これほど、陰惨にして気の毒な事件はないでしょう。信頼していた親方に殺されるなんて……。

 「おまえらもやれ」。時津風親方は暴行をけしかけていたというではありませんか。飲み終わったビール瓶で、亡くなった斉藤さん(時太山)を数発殴り、額が割れて血が流れ出たあと、こう指示したといいます。
 翌日、「かわいがり」と呼ばれる集中的なぶつかりげいこが1時間以上続きました。通常の何倍もの長さで、これも「けいこ」に名を借りた暴行です。
 親方は「後はわしが面倒を見る。おまえらは風呂に入れ」と言って、けいこ場で斉藤さんと2人きりになりました。その間、「あー」という斉藤さんのうめき声が聞こえたそうです。信頼し、親とも頼む親方に裏切られ、暴力をふるわれた斉藤さんの怒りと悲しみが、この声に込められていたにちがいありません。

 斉藤さんは意識不明になり、お風呂で温めたりしても意識は戻りませんでした。このとき、適切な処置をしていれば、斉藤さんの命は助かったかもしれません。
 弟子たちは「救急車、救急車」と騒いだといいます。それなのに、親方は救急車を呼ぼうとしませんでした。
 斉藤さんが亡くなった後、親方は、以上のような経過について、弟子たちに口封じをしていました。そして他方で、「どうしてこうなったか分からない」などととぼけていたのです。

 許せません。ことの経過を見る限り、斉藤さんを殺したのは時津風親方自身です。殺人罪で逮捕するべきです。少なくとも、傷害致死罪で捕まえるべきでしょう。
 主犯は、時津風親方です。このような殺人者をのさばらせることは、相撲界の自滅に繋がります。もはや、どの部屋のどの親方にも、子どもを預けようとする親はいなくなるにちがいありません。
 いまでさえ、新弟子の志願者が急減しています。時津風親方を相撲界から追放しなければ、日本の伝統である大相撲は、やがて消滅することになるでしょう。

 なお、週刊『プレイボーイ』の10月8日号に、「『亡霊』自民党、消えてくれ!!」という特集で、私のインタビューをまとめたものが掲載されました。「亡霊3 失効するテロ特措法は野党のせいにして米国に謝る」という記事です。
 内容を紹介すればいいのですが、原稿執筆中で時間がありません。いささか横に広がった顔写真と共に、この雑誌を手にとってご笑覧いただければ幸いです。


9月29日(土) 港を出る前に沈没してしまいそうだ [内閣]

 しばらく、間が開いてしまいました。拙著『労働政策』の原稿を書いているからです。それに、福田政権になって、安倍前政権ほどの危機感がなくなってしまったということもあるかもしれません。安倍さんは、「マジやばい」という感じでしたから……。

 福田さんは幸せです。何しろ、安倍さんというトンデモナイ内閣の後ですから、何をやっても、安倍さんに比べればまともに見えてしまいます。
 福田内閣に対する支持率が軒並み5割台になって、論議を呼んでいます。でも、それも当然でしょう。
 あれほど総スカンを食った安倍さんの後ですから、誰が何をやっても安倍さんよりはましに見えます。安倍さんよりましに見えたということで1割かさ上げされ、新政権発足への「ご祝儀」で1割プラスということでいえば、本当の福田内閣の支持率は3割台だということになるでしょう。

 発足したばかりの福田政権は、直ちに難問を抱え込むことになりました。ミャンマーでの軍事独裁政権による僧侶のデモに対する弾圧です。
 日本人のジャーナリストが命を落とすという痛ましい事件が発生しました。外国人による報道を嫌った独裁政権によって、彼は狙われたのです。
 この独裁政権を甘やかし、経済援助を与えてきたのが日本でした。自国の国民が殺されたのに、断固とした制裁に出ることができないというのは、情けない限りです。

 もう一つ、福田政権を揺るがす問題が持ち上がっています。「政治とカネ」の問題です。福田首相みずから不明朗な会計処理が明らかになったのをはじめ、石破防衛相、渡海文科相、町村官房長官、渡辺行革相、冬柴国交相など、枚挙にいとまがありません。
 このような問題が生ずるのは、政治資金にまつわる疑惑が構造的なものになっているからです。検査が問題なのではありません。
 それ以前に、政治資金の処理自体に問題があるのです。「政治とカネ」の問題は、自民党という政党の構造的な腐敗から生じているのです。

 ということで、出発したばかりの福田政権は、所信表明演説を行う前から多くの問題を抱えこむことになりました。「貧乏くじかもしれないよ」という福田さんの言は、ますます真実性を帯びることになりそうです。

 
 


9月25日(火) 派閥ボスが勢揃いした「背水の陣」内閣 [内閣]

 「もう、若い者には任せておけない」ということなのでしょう。今まで、陰に隠れてあれこれと指図していた派閥のボスが、前面に出てきて勢揃いしました。

 自民党役員に、伊吹、谷垣、二階、古賀の4人。内閣に、町村、高村の2人。それに、津島派会長代理の額賀さんを入れれば7人になります。入らなかったのは、福田さんと争って破れ、入閣を断った麻生さんと山崎さんだけです。
 昔の自民党の復活と言って良いでしょう。危機に瀕した自民党は、派閥ボスが先頭に立って総力戦を挑もうとしているようです。
 重厚にして手堅い布陣だと言えるでしょう。でも、この間のイメージチェンジのための努力は、全て水泡に帰すことになりました。

 この福田政権の発足によって、総選挙という国民の審判を受けていない政権が2代続くことになります。民主政治の基本、国民主権という憲法原理から言って、この状態は好ましくありません。
 早々に、総選挙を実施するべきです。福田さんは、総選挙によって、新政権の是非を国民に問うべきでしょう。
 総裁選期間中の発言では、福田さんは野党との「話し合い解散」を目指すような口ぶりでした。おそらく来年の春、解散・総選挙の実施と予算の円満な成立とを取引しようと考えているのでしょう。

 そうなれば、解散・総選挙は4月か5月になります。これは、現在想定され得る最も遅い場合ということになるのではないでしょうか。
 福田政権はそれまで持つのか、というのが大きな問題です。今秋の臨時国会と来年の通常国会前半という二度の国会を乗り切らなければならない福田政権に、それほどの耐久力があるのでしょうか。
 すでに、臨時国会に向けて、野党は政府・与党追及の材料を集め、戦略・戦術を練り上げたはずです。そのための時間は、十分すぎるほどありました。

 とりわけ注目されるのは、安倍前政権の命取りとなったインド洋での給油活動の問題です。安倍さんが慶応大学病院に逃げ込んでしまった後も、重要な事実が明らかになりました。
 第一に、国連でのアフガニスタンの国際治安支援部隊(ISAF)の延長決議に、それとは異質な米国主導の「不朽の自由作戦(OEF)」への謝意を挿入させるという工作が明らかになるという外交上の失敗です。政府や外務省は日本の貢献が認められたと牽強付会の主張を行っていますが、このような裏工作が国際社会の足並みを乱したことは明らかで、日本の面汚しだと言わざるを得ないでしょう。

 第二に、このような工作を行ったこと自体、海上給油に協力している「不朽の自由作戦(OEF)」には、小沢さんの言うように、国連のお墨付きがないということを示しています。そのことを自覚しているから、わざわざ「感謝決議」という形でお墨付きをもらおうと工作したわけです。
 しかし、それがかえって仇になりました。決議に賛成しなかったロシアは、はっきりと国際治安支援部隊(ISAF)の活動と「不朽の自由作戦(OEF)」とが異なっていること、前者は国連の活動だが後者はアメリカとそれに追随する諸国が勝手に始めたものにすぎないことを、明確に指摘したからです。
 結局、国連の活動ではない「不朽の自由作戦(OEF)」に協力するのは、筋が通らないという民主党の主張が裏付けられた形になりました。

 第三に、こうして、この二つの軍事作戦、つまり、アフガン国内で国連が実施しているISAFと、インド洋でアメリカなどが行っているOEFとが全く異なるものであることが明らかになっただけではありません。現地では、アメリカ主導のOEFは、国連主導のISAFを妨害する役割を果たしているということも明瞭になりました。
 このことは、すでに『毎日新聞』に掲載されたアフガニスタン武装解除日本政府特別代表などを務めた伊勢崎賢治東京外語大教授の発言を引用して、9月20日のブログ「『従米』のために日本の評判を傷つけた『害務省』」http://blog.so-net.ne.jp/igajin/2007-09-20で指摘しました。この座談会で、伊勢崎さんは、「今、現地では『不朽の自由作戦』の空爆による2次被害が深刻です」「イギリスやカナダ、ドイツは地方復興を真剣にやっている。そこで人心掌握に成功し始めているのに米国が空爆をして、また憎悪が増す。だから、『不朽の自由作戦』は自分たちの地域ではやるなと苦情を言っています。この問題はこれからさらに大きくなるでしょう。日本がインド洋で支援しているのは、一般人を殺しているこの作戦です」と語っています。
 このような「一般人を殺しているこの作戦」は直ちにやめるべきです。日本の給油停止は、そのための重要なきっかけになることでしょう。

 第四に、もし、給油が停止されインド洋での米軍の作戦が停止されれば、OEFの一環として実施され、「空爆による2次被害」に苦しめられているアフガンの人々だけでなく、イラクの人々をも救うことになります。というのは、給油された燃料がイラク攻撃にも使われていたことは、ほぼ確実だからです。
 これは明瞭な特措法違反ですが、ある意味では当然でしょう。アメリカにとって、アフガン攻撃もイラク攻撃も、ともに「テロとの戦い」であり、両者はほとんど区別されていません。
 作戦も一体ですから、艦船や航空機が両国の作戦に従事しているからといって、「それがどうした?」という気持ちなのでしょう。ペルシャ湾に展開する米空母エンタープライズのロナルド・ホートン艦長が朝日新聞記者のインタビューに応じて、05年当時、米軍揚陸艦ジュノーの艦長として「イラクの自由作戦(OIF)」の一環として、沖縄に駐留する海兵隊をイラク国内に投入するためペルシャ湾北部に展開した間、海自の補給艦から3回にわたって燃料、食料の補給を受けたと証言したのは、その良い例です。

 第四に、このようなイラク特措法違反の行為を隠蔽するために、国民に嘘の説明をしていた疑いも浮上してきました。その説明をしたのは、誰あろう、今回首相に選ばれた福田さんでした。
 03年2月、対イラク戦争開始直前の米空母キティホークに海上自衛隊の補給艦が間接的に給油していた問題で、防衛省は当初20万ガロンと国会答弁などで説明していた燃料の供給量を80万ガロンに訂正しました。これについて、当時の福田官房長官は会見で「キティホークの燃料消費は1日20万ガロンで、ほとんど瞬間的に消費してしまう。イラク関係に使われることはあり得ない」と述べていたのです。
 しかし、実際にはその4倍の80万ガロンもあり、「ほとんど瞬間的に消費してしまう」ような量ではありません。対イラク作戦に参加していた米空母キティホークへの給油を過小に見せるために、福田さんは「嘘」をついていたのでしょうか。

 以上の問題は、民主党など野党が追及するであろう材料のほんの一部にすぎません。年金問題や政治とカネなど、追求の範囲や矛先はさらに広く、多くなるにちがいありません。
 新しい役員や閣僚に「政治とカネ」の問題が出てこないように、代表質問への答弁で立ち往生して福田さんまで「俺も辞めたい」などと言い出さないように、自民党としては、祈るような気持ちでしょう。ボロ船で船出した「福田船長」のお手並み拝見というところです。


9月24日(月) 利と理-戦後保守政治の相克 [論攷]

 何という分かり易い人事でしょうか。福田さんの自民党の役員人事です。
 「古い自民党の復活だ」などという人がいますが、「古い人」が「古いやり方」を選んだだけであって、何の不思議もありません。福田さんらしい安定した、安心できる「論功行賞型」の派閥人事だと言えるでしょう。

 自民党の福田新総裁は、党役員人事で、幹事長に伊吹文明文部科学相、政調会長に谷垣禎一元財務相の起用を決めました。また、選挙対策の要となる選挙対策総局長を党四役扱いの「選挙対策委員長」に昇格させて古賀誠幹事長を充て、総務会長の二階俊博さん、幹事長代理の細田博之さん、国会対策委員長の大島理森さんの3人を再任しました。
 今回の党総裁選では、党内9派閥のうち8派が福田さんを支持しました。党役員人事では、このうち、伊吹、谷垣、古賀、二階の4派閥の会長を処遇したことになります。
 残った4人のほとんども閣僚になるでしょう。そして、恐らく9人目の派閥の会長である麻生さんも……。

 ところで、今日の『毎日新聞』の一面に、小松浩政治部編集委員の署名論説「『理念過剰政治』脱却を」という署名論説が掲載されていました。この論説で小松さんは、「抽象より具体を、理念より政策を、福田新総裁には語ってもらいたい」と書いていました。
 『朝日新聞』一面の西村陽一政治エディターの論説「リアリズムの復権を」も、「熱を帯びた理想主義者」ではない、「小泉時代の直情や安倍時代のちぐはぐな目線とは違うリアリズムの視線」を福田政権に求めています。期せずして、両者は似たような主張を行いました。
「理念」ではなく「具体を」。「理想」ではなく「リアリズム」をというわけです。

 かつて私は、拙著『概説 現代政治』(法律文化社、1999年)で、「理念政治」と「利益政治」という切り口で戦後の内閣史を描いたことがあります。この二つの論説を読んで、このことを思い出しました。
 安保反対闘争で退陣した岸内閣から池田内閣への交代を、「理念政治から利益政治へ」という見出しで、私は記述しています(拙著、82頁)。このような「利益政治の典型」はいうまでもなく田中政治です(拙著、89頁)。
 しかし、このような「利益政治」は破綻し、その後、中曽根時代になって「理念政治による修正」がなされます(拙著、98頁)。その後を継いだ竹下政権は「ふるさと型」利益政治で、この後は「利益政治と理念政治の重層」が続くとして、小渕政権で拙著の記述は終わっています(拙著、105頁)。

 このような分析視覚をその後に伸ばせばどうなるでしょうか。「利益政治と理念政治の重層」は森政権で終わり、小泉政権では「理念政治」が復活します。
 それは安倍政権で受け継がれるとともに、明確に破綻してしまいました。その結果が、参院選での与党惨敗であり、安倍首相の突然の辞任でした。「『理念過剰政治』脱却を」「リアリズムの復権を」という論説は、「理念政治」からの脱却を呼びかけるものだと言えるでしょう。

 もう一つ、今日の新聞記事で注目すべきものがありました。『東京新聞』の「特報」版にあった「30年の時越え“政治的遺伝子”衝突」「福田vs小沢『新・角福』開戦」という記事です。
 「角」つまり田中元首相は、拙著でも書いたように「利益政治の典型」です。対する福田元首相は岸さんの「理念政治」の継承者で、福田さんはその息子です。
 戦後保守政治の相克を生み出した利益政治と理念政治との対決は、「角福戦争」で頂点を迎えました。その相克は、福田さんの息子である福田康夫さんと、田中角栄の「秘蔵っ子」であった小沢さんとによって、「30年の時越え」、今また、クライマックスを迎えようとしているかのようです。

 つまり、この「新・角福戦争」は、実は、利益政治と理念政治との争いなのです。それはもはや自民党の枠内には収まらず、与野党の対決として展開されようとしています。
 しかも、理念政治の破綻は明らかです。だからこそ、期せずして、そこからの脱却を勧める論説が新聞の第一面に掲載されたわけです。
 ということであれば、その勝敗は明らかでしょう。理念政治的手法は、安倍さんと共に、政治の表舞台から姿を消すことになります。

 『東京新聞』の論説には、「攻める民主 防戦の自民 勝敗握るのは世論?」という見出しも出ていました。「世論」が問題となる限り、福田さんに勝ち目はないでしょう。
 そうすると、理念政治から利益政治への復帰が生ずるというとになるのでしょうか。いずれにせよ、雌雄を決するのが、次の総選挙だということだけは間違いありません。


9月23日(日) こんな老朽船で嵐の海を乗り切れるのか  [論攷]

  「これで自民党は終わりだな」と、思いました。福田康夫自民党総裁が誕生したテレビ画面を見ていたときです。

 福田さんは、「負けるが勝ち」になったわけです。昨年の総裁選挙では、安倍さんに負けたわけですから……。
 あの時、圧倒的な差を付けて勝った安倍首相は入院中で姿さえ見せず、立候補できずに敗退した福田さんが後継の新総裁に選ばれました。まことに、人生とは分からないものです。

 総裁選の結果は、投票総数528票、無効票1票(多分、安倍さん)、有効票527票、福田330票(63%)、麻生197票(37%)でした。議員票は、福田さん254票で麻生さんが197票、地方票は福田さんが76票で麻生さんが65票です。
 福田さんは6割以上を得票しましたが、派閥の圧倒的支持や事前の7割という予測に比べれば、少ないように思われます。麻生さんの善戦と言いたいところですが、先のことを考えて、あまり差が付かないように調整した派閥があったのかもしれません。
 というのは、麻生さんの得票のうち、議員票が予想よりも多く、地方票が予想ほどではなかったからです。したがって、麻生さんの「善戦」は、地方票によるものではなく、圧倒的に不利と見られていた議員票で巻き返した結果でした。

 それにしても、「この10日間はいったい何だったのか」と言いたくなります。投票を受け付けたその日に勝敗が決まっており、そして、結果もまたその通りになったのですから……。
 選挙期間は3日もあれば十分だったでしょう。国会を開店休業にしてまで、これほど長くやる意味がどこにあったのでしょうか。
 次の総選挙の顔として福田さんを売り込みたいという計算が見え見えです。マスコミを占領して、少しでも自民党の宣伝に利用したいという思惑に振り回されてしまったような、苦い思いが残ります。

 それにしても、不毛な「勝負」でした。勝負というものは、思いもかけないサプライズによって予想を覆す結果になったとき、最も盛り上がるものです。
 そのような盛り上がりは、ダークホースの福田さんが立候補を表明し、本命だった麻生さんの優勢をあっと言う間に覆した最初の瞬間に訪れただけです。実は、私は最後の瞬間に「2度目のサプライズ」があり、再度の盛り上がりがあるのでは、と懸念していました。
 1回目は、麻生有利を覆すサプライズによって「古い自民党」に依拠する福田優勢を演出し、2回目は、その福田優勢を、麻生人気というもう一つのサプライズによって覆し、安倍路線を引き継ぐ麻生総裁を誕生させるのではないかと……。

 もし、そうなれば、もともと本命だった麻生さんが、そのまま当選することになります。しかも、「2度のサプライズ」によって、求められる指導者という新たな装いを凝らしながら麻生さんが登場することになります。
 そうなったら、自民党は手強い。まさか、それほどの策士はいないだろうけれど、しかし、小泉さんの例もあるからヒョッとして……。
 とまあ、チラリとそう思ったせいもありまして、9月17日のブログ「「政府の顔」と「選挙の顔」の選択」http://blog.so-net.ne.jp/igajin/2007-09-17に、「ヒョッとしたら、麻生さんの逆転もあるかもしれません」と書いたのです。

 しかし、そうはなりませんでした。「第2のサプライズ」はなく、平穏無事に、ということは、何のドラマもサプライズも、そして、盛り上がりもなく、当初の予想通り、福田さんが選ばれたというわけです。
 私の懸念はただの杞憂に終わりました。やはり、自民党は小泉前の古くて凡庸な政党に戻ったようです。
 福田さんを選んだ自民党は、「2度目のサプライズ」を演出する知恵もエネルギーも持ち合わせてはいませんでした。これなら大丈夫です。野党にとっては、付け入る隙だらけの攻撃しやすい自民党の復活ということになるでしょう。

 新しい自民党への改革路線という「劇薬」に懲り、さりとて、古い自民党に戻りきることもできないというのが、今の自民党の姿です。突然の安倍辞任による総スカンという悪印象を振り払い、党内の団結を回復することだけを最優先に、安定感と安心感を求めた結果が、今回の福田選出でした。
 福田・麻生の対決とはいっても、同じ世襲議員で元首相直系の親族、臨時国会での最大の焦点であるインド洋での給油活動の継続問題でも、「政治とカネ」や小泉改革の継承問題でも、争点を明確にできませんでした。同じ穴のムジナが争っても、「キャラが立っているか」「キャラが寝ているか」という程度の違いしかありません。
 その結果、選ばれたのが、高齢で健康不安を抱え、「もう、年も年だし」と言っていた福田さんです。まるで、使い古した老朽船で嵐の海にこぎ出そうとするようなものではないでしょうか。

 今日の『日経新聞』には、「自民党にとってはかつてない厳しい時代。今までのように派閥で総裁を決めていたら先はない」という、「東京都世田谷区の自営業の男性(60)」の「党員の声」が紹介されていました。今回の福田さんの選出は、結果的には、「派閥で総裁を決めていた」通りになりました。
 つまり、自民党に「先はない」ということになります。


9月20日(木) 「従米」のために日本の評判を傷つけた「害務省」 [省庁]

「古い自民党」の福田候補と「安倍亜流」の麻生候補との不毛の総裁選が続いています。結果の分かった勝負をいつまで続けるつもりなのでしょうか。
 『東京新聞』の報道では、「首相臨時代理も置かずに、国会を『開店休業』とした結果、毎日、3億円近く、計約37億円が無駄になる」そうです。このお金、自民党は損害賠償として国庫に納めるべきでしょう。
 マスコミも、いい加減に自民党のPRの手伝いを辞めるべきです。誰が船長になっても、「泥船」は沈む運命なのですから……。

 その「泥船」をもっと早く沈めたいということなのでしょうか。外務省が、また馬鹿なことをやりました。あまりにも姑息で愚かな行為です。
 国連安全保障理事会での決議を日本の国内政治に利用しようというのですから、呆れてものが言えません。アメリカに対する給油継続のためには手段を選ばずというわけです。
 外国の意に沿うために、自国の名誉を傷つけるような行為をも「外交」と呼ぶべきなのでしょうか。このような自国に害を与える役所は、「害務省」と呼ぶべきではありませんか。

 国連の安保理でアフガニスタンに展開する国際治安支援部隊(ISAF)の任務を1年間延長する決議が採択されました。そこには、日本が海上阻止行動に参加する米軍主導の「不朽の自由」作戦(OEF)参加国への「謝意」が初めて盛り込まれましたが、これは外務省の働きかけによるものです。
 そのために、決議案は賛成14、棄権1(ロシア)で採択されました。2001年の米中枢同時テロ以後のアフガニスタン情勢をめぐる決議で、全会一致とならなかったのは今回が初めてです。

 ロシアのチュルキン国連大使は、決議の本来の目的である国際治安支援部隊(ISAF)の任務延長を米国主導の対テロ作戦「不朽の自由」(OEF)からはっきり区別して「(OEFの有志)連合の活動は国連の枠外のものだ」と言い切り、「過去のISAFの任期延長決議に盛り込まれなかったOEFに言及する理由が不明確」と棄権の理由を述べました。
 「安保理の一員でもない特定の国」(チュルキン大使)の国内事情を、安保理決議に持ち込んだ米国への反発があるとのことですが、この「特定の国」というのは、日本のことです。
 ということは、日本の働きかけによる「これまでなかった海上阻止活動への言及」が全会一致が崩れた原因なのは明らかで、各国は「分裂は日本のせいだ」と見ているそうです。ロシアの協力を取り付ける時間が与えられないまま、不完全な成果と日本への反感だけが残ったといいます。

 この国連安保理決議案について、与謝野官房長官は「日本は安保理のメンバーではないので、働きかけということではなく、(理事国に)日本の置かれている現状や活動、国会の見通しなどを説明した」と釈明しました。しかし、複数の安保理筋は「日本政府の意見も考慮した」と話しているそうですから、「日本政府の意見」が伝えられたことは明らかです。
 日本政府・与党内には「そういう決議が出てくれば国民の理解をいただける」(大島理森自民党国対委員長)などと、民主党が補給活動延長に反対しにくくなるとの期待感もあったそうです。そのために国連を利用しようとしたわけで、何とも浅はかな行為というしかありません。
 しかし、民主党の鳩山由紀夫幹事長は「党の考えは変わらない」として、「日本から感謝しろと強要するのは茶番だ。国民の失笑を買う。むしろ厳しく追及する」と語ったそうです。このような「茶番決議」に惑わされず、最後まで反対を貫いてもらいたいものです。

 ところで、アフガン情勢と給油活動の継続問題について、今日の『毎日新聞』に注目すべき特集が組まれていました。そのなかでも、注目すべきは、アフガニスタン武装解除日本政府特別代表などを務めた伊勢崎賢治東京外語大教授の発言です。
 伊勢崎さんは、次のよう述べています。

 これまでアフガニスタンの「治安分野改革」で成功したのは、日本の武装解除だけです。なぜか。現場の私たちは「美しい誤解」という言葉を使いました。アフガン人はテロ特措法など知りません。日本は軍事行動をしていないという「美しい誤解」が、疑心暗鬼の武将たちに信頼醸成させた。……
 ……日本がなすべきは「美しい誤解」を崩すことではない。それは米国の国益にもならない。米国は日本がやった武装解除のお陰でアフガンに新しい国軍を作り、それが「不朽の自由作戦」の最前線で闘っているのです。
 ……結局、日本特有の役割をこれからの発揮するために、テロ特措法はあまり目立たないまま消えていってほしい。
 ……今、現地では「不朽の自由作戦」の空爆による2次被害が深刻です。
 ……イギリスやカナダ、ドイツは地方復興を真剣にやっている。そこで人心掌握に成功し始めているのに米国が空爆をして、また憎悪が増す。だから、「不朽の自由作戦」は自分たちの地域ではやるなと苦情を言っています。この問題はこれからさらに大きくなるでしょう。日本がインド洋で支援しているのは、一般人を殺しているこの作戦です。

 この最後の指摘が最も重要な点です。「一般人を殺しているこの作戦」への「支援」を継続するかどうかが、インド洋での給油継続問題で問われている最大のポイントだからです。
 伊勢崎さんは、日本は軍事行動をしていないという「美しい誤解」を崩さないために、「テロ特措法はあまり目立たないまま消えていってほしい」と訴えています。それが、日本だけでなく、米国の国益にもなるのだとも……。
 イギリスやカナダ、ドイツなどにも「苦情」を言われるような作戦は直ちに止めるべきです。海上給油を中止すれば、このような誤った作戦を止めさせることに、一歩、近づくことができるのではないでしょうか。

 ところで、この対談を最後まで読んで、私は目を丸くしてしまいました。岩間陽子政策研究大学院大准教授が、次のように発言していたからです。

 岩間 今のご指摘は重要です。「不朽の自由作戦」は必ずしも現場で支持されていない面がある。イラク政策でも、米国は大きく間違った。そこから、日本が米国の同盟国であるとはどういうことなのかを考えないといけません。

 これが、どうして目を丸くするようなものなのか、お知りになりたい方は、『毎日新聞』に掲載されたそれまでの彼女の発言をお読み下さい。岩間さんが、首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」のメンバーで、「日本が今、戦後積み重ねてきた安全保障観をもう一段階乗り越えなくてはならないところに来ているのは確かでしょう」と発言していることも、付け加えておきましょう。
 このとき、岩間さんは、ご自分がどのような発言をしていたのか、気づいていたのでしょうか。自らの発言の論理的整合性を、どう考えておられるのでしょうか。


9月18日(火) 過ちをただす絶好のチャンスではないのか  [国会]

 研究所で、珍しい(と、言ったら悪いかもしれませんが)ところから取材を受けました。『週刊プレイボーイ』の記者の方です。取材のテーマは、テロ対策特措法の延長問題です。
 おそらく、『東京新聞』での私のコメントを読んだのでしょう。わざわざ、多摩キャンパスの研究所まで足を運んで下さいました。

 安倍首相の突然の退陣に伴うどさくさで、臨時国会の審議時間が大幅に削られてしまいました。自民党新総裁の選出は23日で、新しい総理が決まるのは今日から1週間後の25日(火)の予定です。
 もう、テロ対策特措法の延長は無理でしょう。期限が切れる11月1日まで1ヵ月ほどしかありませんから。
 もし、インド洋での給油を継続するというのであれば、新法しかありません。もともと、テロ対策特措法は期間を限定した特別措置法で、延長を繰り返すのは好ましくありませんから、そうするのが当然でしょう。

 記者の方からはいろいろと質問されました。国会審議で何が明らかにされるべきかについては、すでに8月30日付けのこのブログ「テロ対策特措法審議で明らかにされるべき3つの疑問」http://blog.so-net.ne.jp/igajin/2007-08-30で書きました。
 今日の取材では、それ以外にもいくつか強調した点があります。その一つは議論の前提に関するものです。
 「テロとの戦い」には、私を含めて誰も反対していない。したがって、テロ対策特措法の延長反対や海上給油の継続への反対は、「テロとの戦い」に反対することを意味しないということです。これが混同されてはなりません。

 争点は、テロと戦うか否かではなく、いかにしてテロと戦うかということです。海上給油の是非も「アフガン戦争」への協力も、この観点から判断されなければなりません。
 これらの取り組みが、テロをなくすために役立っているのかということです。逆に、テロ組織の勢力増大を引き起こしているとすれば、それは「テロとの戦い」ではなく、テロの幇助ということになります。
 アフガンの現状はどうなのでしょうか。給油活動や海上警備行動の実際は、テロの防止になっているのでしょうか。

 これに対する答えは明らかです。アフガニスタンではタリバンが勢力を盛り返し、イラクでも米軍は泥沼にあえいでいます。
 軍事力ではテロを平定することができないからです。誤爆や肉親の被害は、人々の胸に怒りや恨みの火をともし、テロ活動の温床を拡大しています。
 アフガンやイラクで、アメリカはこのような過ちを犯してきました。中東全域で反米勢力が力を強めているのは、ブッシュ米大統領の政策的誤りによる「成果」にほかなりません。

 給油活動の継続に関して事実上問われているのは、このような過った「反テロ」活動を継続するのか否かという問題なのです。ブッシュ大統領の誤った政策を手助けするのかどうかという問題です。
 日本は、給油活動を継続せず、海上自衛隊をインド洋から引き上げるべきです。そうすることによって、平和国家としての日本の対外イメージを回復し、ブッシュ大統領に誤りを悟らせなければなりません。
 給油活動の中止は、日本の政策転換を世界中に明らかにし、過った「対テロ戦争」の泥沼からブッシュ米大統領を救い出すことができる絶好のチャンスを意味します。このようにして、日本外交の独自性を明示するチャンスでもあるでしょう。

 世界の流れは、「対テロ戦争」の誤りを是正する方向にあります。イラクのバスラからはイギリス軍が撤退し、アフガンからは今年中に韓国軍が引き揚げます。
 ブッシュ大統領の「対テロ戦争」に同調したイタリアのベルルスコーニ首相は総選挙で敗れ、ブッシュの「プードル」と揶揄されたイギリスのブレア首相もその地位を去りました。
 アメリカでも、「対テロ戦争」を主導したネオコン勢力は政権を去り、ブッシュ大統領は孤立しています。昨年の中間選挙での大敗に続いて、来るべき大統領選挙での敗北は避けられないでしょう。

 そして、この日本です。最後までブッシュ大統領をサポートしようとした安倍首相は、突然、政権を投げ出して慶応病院に逃げ込んでしまいました。
 日本と共にブッシュに付き従っていたオーストラリアのハワード首相も、年内に行われると見られている総選挙を前に支持率低下にあえいでいます。おそらく、ここでも政権交代が起きるでしょう。
 このように見てくれば、「対テロ戦争」の勝敗は明らかです。「テロとの戦い」という大義名分を掲げて間違った「戦争」に突っ走ったブッシュ大統領と、それに無批判に付き従った各国の指導者たちは、全て「敗北」したのです。

 それでもなお、日本は「テロとの戦い」という虚構にしがみつこうというのでしょうか。日本外交の間違いを正し、ブッシュ大統領に過ちを悟らせる絶好のチャンスを棒に振ろうというのでしょうか。


9月17日(月) 「政府の顔」と「選挙の顔」の選択 [総裁選]

 「本当に病気なのか?」という疑いを抱かせたまま、朝青龍はモンゴルに帰っちゃうし、安倍晋三は慶応病院に逃げ込んじゃうし、「一体どうなっているのか?」という声をよそに、あれよあれよという間に自民党の総裁選挙が始まり、始まった途端にもう勝敗が決まってしまい、「消化試合じゃないか」という声も無視してマスコミだけははしゃぎ回っている。本当に、一体どうなっているんでしょうか。

 相も変わらずマスコミは福田対麻生の対決を演出し、総裁選挙を盛り上げようと躍起です。しかし、この二人しかでてこないというところに、もはや“自民党に明日はない”ということが象徴的に示されています。
 人材が、完全に払底してしまったということでしょう。自民党の生命力の枯渇と言っても良いと思います。
 この二人なら、どちらがなっても50歩100歩です。たとえは良くないですが、目クソ鼻クソの争いにすぎません。

 この二人に、全く違いがないとは申しません。麻生さんは若くて派手、福田さんは年配で地味、麻生さんは安倍執行部の一員で今回の“退陣騒動”に責任があるが、福田さんはそうではありません。
 外交路線では、中国や韓国との友好を重視し、靖国神社への参拝を行わないことを明言している福田さんに対し、中国包囲網づくりのための外交路線を押し進め、靖国参拝について「適切に判断する」としか言わない麻生さんという違いがあります。北朝鮮の拉致問題でも、麻生さんは圧力を強めようとし、福田さんは対話を重視しています。
 政治路線では、麻生さんはタカ派で福田さんはハト派と見られています。安倍前政権との関わりでいえば、麻生さんはその一員であり、福田さんはそうではありませんでした。

 しかし、これらの違いは、目クソが目から、鼻クソが鼻から出るという程度の違いにすぎません。目と鼻のどちらから出るにしても、「クソ」は「クソ」です。たとえが汚くて済みません。
 福田さんは福田赳夫元首相の息子で、麻生さんは吉田茂元首相の孫です。二人とも、世襲議員であるという点、それも元首相の血を引くエリートであるという点では同じです。
 小泉さんの進めた構造改革路線についても、修正や是正をいっていますが、二人ともその転換ではなく継承を掲げています。「政治とカネ」の問題でも消費税率の引き上げでも、この二人に違いはありません。
 麻生さんは安倍さんに近く、福田さんは遠いのかというとそれは誤解です。小泉、安倍、福田の3人は、いずれも旧森派の一員で、福田さんは森内閣と小泉内閣の官房長官でした。

 臨時国会の最大の焦点と見られているテロ特措法問題ですが、これについても二人の姿勢に違いはありません。二人とも、インド洋での給油活動を継続する方針です。
 法案が参院で否決された場合の対応でも同じです。二人とも、3分の2の多数で再議決する意向を示しています。
 派閥との関係でも、麻生さんは「派閥政治」の復活を批判しています。しかし、自分自身が麻生派を率いる領袖であるという事実をどう考えているのでしょうか。

 つまり、自民党の総裁選挙に立候補した二人には、言われているほどの違いはないということです。二人の相違や対決は、総裁選挙を盛り上げたい自民党の演出であり、それに乗っかって視聴率を稼ごうとするマスコミの画策にすぎないのです。
 このような“賑やかし”は23日の投票日まで続くでしょう。しかし、国民にとっては不毛の選択です。
 どちらが選ばれても、局面を打開するのは困難でしょう。どちらも、帯に短したすきに長し、だからです。

 福田さんは、年配で落ち着いており、調整型で派手さがないという特徴があります。これが安心感を与えるということで、多くの派閥ボスに支持されました。
 この点では、麻生さんが言うように、「古い自民党」の復活です。ボスの威光が徹底しきれないという点では、復活も中途半端ですが、自民党よりも世論に依拠してきた小泉・安倍路線からの転換であることは明らかです。
 そしてここに、福田さんの弱点があります。一度は脱却が目指された「古い自民党」に頼らざるを得ず、幅広く世論に訴える「選挙の顔」としてのアピール力に決定的欠けるという点です。

 麻生さんは、若者受けする大衆性があり、演説も上手で「選挙の顔」としては、福田さんよりもましです。でも、安倍内閣での実績やこの間の党運営についての批判が強く、国会議員による支持では劣勢です。
 世論の支持を盛り上げて、これを逆転しようというのが、麻生さんの作戦です。小泉さんの時と同じように、地方票をテコに劣勢を跳ね返そうというわけです。
 そしてここに、麻生さんの弱点があります。「選挙の顔」としての人気に頼って選び、結局は失敗してしまった安倍首相の苦い教訓のあとに、同じような手法をとろうとしているからです。

 こうして自民党は、「政府の顔」としての福田さんを選ぶのか、「選挙の顔」としての麻生さんを選ぶのか、という選択に直面することになりました。問題は、この二つの「顔」が一致していないという点にあります。
 「政府の顔」としての福田さんは、「選挙の顔」としては役に立たないでしょう。かといって、「選挙の顔」としての麻生さんを選べば、安倍さんと同じような失敗を繰り返す恐れがあります。
 どちらを選んでも、「自民党レジーム」の維持には、黄信号が点るのではないでしょうか。とりわけ、苦手なパフォーマンスを求められ、「選挙の顔」を努めなければならない緊急事態に、「もう、年も年」である福田さんが耐えられるのでしょうか。

 野党にとって福田さんは、政策論争や国会論戦では手強い敵になるかもしれません。しかし、世論へのアピールや「選挙の顔」としては大きな弱点を抱えているのが福田さんです。
 これをどう判断するかが、総裁選の大きなポイントになるのではないでしょうか。ヒョッとしたら、麻生さんの逆転もあるかもしれません。


9月15日(土) 幻の「福田談合政権」構想の復活 [総裁選]

 始まった途端に終わってしまったようなものではないでしょうか。自民党の後継総裁選びです。
 今日、総裁選への立候補が受け付けられましたが、届け出たのは福田康夫元官房長官と麻生太郎自民党幹事長の二人です。このうち、福田さんは自民党の9派閥のうち、麻生派を除く全ての派閥からの支持を取り付け、圧倒的な優位に立ちました。
 麻生さんは地方票の獲得に力をれる方針だそうです。しかし、それでも福田さんの優位は動かないでしょう。
 昨年の総裁選挙で出馬を促され、「年も年だからね」と言って立候補を辞退した福田さんでした。それから1年経って、年を取るどころか若返ったようです。

 ところで、投票日の7月29日夕方、参院選での自民党敗北が避けられないとの見通しが強まる中で、二つの密談が開かれていました。一つは「国会に近いグランドプリンスホテル赤坂の一室」での「森喜朗元首相、青木幹雄参院議員会長、中川秀直幹事長森元首相」の3者会談で、もう一つは、首相官邸での安倍首相と麻生外相との会談です。
 3者会談では、「安倍首相の退陣を想定して、福田康夫元官房長官を後継首相に擁立する構想を具体的に話し合って」いたといいます。「暫定的な緊急避難措置」としての「福田選挙管理内閣」構想を伝えるために、中川幹事長が官邸を訪れたとき、すでに、もう一つの密談も終了していました。
 官邸での安倍・麻生会談の結論は「安倍続投」で、結局、安倍首相は辞任しませんでした。「続投」を支持した麻生さんは、おそらく安倍さんから「もし何かあったら、後を頼むよ」と言われていたのでしょう。

 以上の経緯については、私は8月4日付のブログ「消えたものには『福』がある」http://blog.so-net.ne.jp/igajin/archive/20070804で書いています。詳細は、そちらをご覧下さい。
 このとき、参院選大敗の責任を取って辞任していたら、安倍さんは今回のような醜態をさらすこともなく、戦後政治史に大きな汚点を残すこともなかったでしょう。今回のような異常事態にならなければ、また幹事長として事前に辞意を漏らされていなければ、麻生さんは安倍政権への責任を問われず、もう少し支持の広がりもあったでしょう。
 総理の椅子にしがみついてしまった安倍さんの未練であり、その安倍さんからの「禅譲」に期待をかけてしまった麻生さんの失敗でした。まことに、政治とは難しいものです。

 ということは、今回の総裁選で浮上した福田対麻生の対決構図は、実質的には、すでに7月29日の参院選投開票日にできていたということになります。このような対決は、1ヵ月以上も前に形成されていた水面下の構図が浮上したにすぎません。
 津島派の重鎮で参院議員を束ねる青木さんが「福田選挙管理内閣」構想を打ち出した3者会談に加わっていました。一度は手を挙げようとした津島派の額賀さんが、福田さんへの協力を約束して立候補を断念したのは、そのためでしょう。
 8派閥が福田支持を決めたのに対して、麻生さんは「派閥の談合だ」と批判していますが、7月29日の密談はどちらも談合でしょう。ただ、福田さんの場合には、それが派閥レベルに拡大したのに、麻生さんの場合には、安倍さんの辞め方やそれに対する麻生さん自身の責任への批判もあって、それだけの広がりにかけるというにすぎません。

 つまり、今回の自民党総裁選挙は、1ヵ月以上も前に打ち出された幻の「福田選挙管理内閣」構想を復活させる作業にすぎないのです。本来、意外性も新鮮味も全くない密室での「談合政権」だと言うべきでしょう。
 しかし、安倍辞任によって危機に陥っている自民党としては、それでは困る、ということになります。いかにして、このような水面下での動きを隠蔽し、来るべき“選挙の顔”としての粉飾をこらすかが、総裁選挙の課題にほかなりません。
 野党からすれば麻生さんの方が闘いやすいでしょう。とはいえ、自民党にとって福田さんの方が良いともかぎりません。福田さんで自民党の支持率がそれなりに回復すれば、政権交代含みの総選挙は早まるでしょうから……。

 福田さん優勢の報を聞いて麻生さんは悔しそうな顔をしていますが、内心では「ホッ」としているかもしれません。次期首相が重い荷物を担いで、「地雷原」を歩まなければならないのは明らかなのですから……。


9月14日(金) 安倍辞任はアメリカと官僚に見放されたため? [首相]

  突然、辞任した安倍首相は、慶応病院に逃げ込んでしまいました。1ヵ月前からおなかの調子が良くなかったそうです。
 それなら、もっと早く辞めているべきだったでしょう。どうせ、病院に入るなら、入院してから辞意を表明すれば良かったんじゃないでしょうか。
 そのどちらもやらなかった安倍さん。愚か者というのは、最悪のタイミングで最悪の選択を行うということでしょうね。

 その安倍さんですが、昨日書いた首相辞任の背景について、付け加えておきたいことがあります。安倍さんがここまで追い込まれたのは、アメリカと官僚に見放されたためではないかということです。

 もともと、安倍政権とアメリカとの関係には微妙なものがありました。安倍さんは単純なアメリカ追随ではなく、「反米」のための「従米」という側面があったからです。
 安倍政権が掲げていた改憲や「戦後レジームからの脱却」路線が、対米戦争の正当化やアメリカの占領政策に対する批判を含むものであることは明らかでした。アメリカからすれば、このような安倍さんの主張は「面白くない」ものであり、警戒すべきものだったでしょう。
 そのことは、安倍さんもよく知っていました。だからこそ、そのような警戒心を解くために、必要以上にアメリカにすり寄り、言うことを聞こうとしたのです。言ってみれば、安倍さんの特異な歴史認識に基づく過った政策のために、日本の国益が犯されたわけです。

 しかし、このような“努力”を行ったにもかかわらず、従軍慰安婦問題で米下院での決議が挙げられ、安倍さんの歴史認識に対する批判が高まりました。それだけではありません。頼みの綱であった北朝鮮問題でアメリカは北との和解を優先し、日本政府は“裏切られた”ような形になりました。
 このようなときに、テロ特措法の延長問題が生じたのです。これはブッシュ政権が最重要視している「テロとの戦い」の象徴的な問題でした。
 安倍さんにとって、インド洋での給油継続はブッシュ大統領の信頼をつなぎ止める“最後の綱”だと思われたのでしょう。安倍さんが、最後まで海上給油問題にこだわったのは、そのためだったと思われます。

 ところが、この給油継続は、それほど簡単なものではありません。いろいろと検討して、「これは無理だ」と思ったとき、安倍さんの内部で緊張の糸が切れたのではないでしょうか。
 昨日のブログで、民主党に申し込んだ党首会談に色よい返事をもらえなかったことについて書きました。安倍さんはこれを辞意表明の口実に利用したと指摘しましたが、それはかなり実質的な意味をもっていたのかもしれません。
 ブッシュ大統領に見放されることをおそれ、シドニーであれだけ強く約束してきた「国際公約」です。その実現が極めて困難であることが実感されるに及んで、安倍首相は絶望してしまったのではないでしょうか。

 もう一つの背景は、官僚との関係です。安倍内閣はこの問題でも微妙な立ち位置にありました。
 前任の小泉首相は、自民党だけでなく官僚も押さえ込むという手法をとりました。いわゆる「首相支配」です。
 後継の安倍首相もこれを受け継いで、自民党と官僚を押さえようとしましたが、安倍さん自身にはそのような力がありません。「官邸主導」を掲げたものの、それは次第に変質し、自民党の反発と抵抗は安倍首相の力を削いでいきました。

 結局、自民党の実力者を入閣させた内閣改造によって、安倍さんは党に屈服してしまいました。麻生幹事長と与謝野官房長官による“安倍はずし”がその典型です。
 このようにして自民党は復権し、「首相支配」は覆されました。他方、隠微な形で進んでいたのが、官僚の逆襲です。
 小泉時代、経済財政諮問会議によって予算編成権を奪われた財務相やトップダウン型政策決定に翻弄されてきた省庁は、じっと逆襲の機会をうかがっていました。公務員改革を引き継ぎ、官僚の再就職にまで口を出そうという安倍政権に対する反発も広がっていきます。

 こうして、逆襲の機会を待っていた官僚の最初の反撃は、本間正明さんの追い出しだったのではないでしょうか。原宿の国家公務員官舎は財務省の管轄下にあり、本間さんは財務省と対立していました。
 問題になった「北新地のホステス」についての情報は、財務省の官僚によって密かにリークされたのではないでしょうか。ちょっとでも示唆すれば、後はマスコミが追っかけて報道するでしょう。
 こうして、本間さんは政府税調会長を辞任せざるを得なくなりました。「追放作戦」の成功です。

 これに味をしめて、その後もこのような「追放作戦」が密かに遂行されていたと思われます。ターゲットは安倍内閣の閣僚です。
 安倍内閣では、5人もの閣僚が交代するという異常事態になりました。スキャンダルの数が増えたのでしょうか、マスコミの調査能力が向上したのでしょうか。
 どちらの可能性もありますが、もう一つ、考えられるのは官僚による情報リークです。大臣のスキャンダルについて、知り合いの記者にそっと耳打ちをした官僚はいなかったのでしょうか。

 内閣改造後も、閣僚や自民党役員の「政治とカネ」の問題はやまず、連日、報道されました。「身体検査」が十分になされていなかったのでは、との声もあいつぎました。
 いや、「身体検査」はきちんとなされていたのかもしれません。それが、「官邸」にちゃんと報告されていなかったということではないでしょうか。
 「身体検査」によって知り得た情報を「官邸」に伝えるか、組閣後、マスコミ関係者に漏らすかは、担当者の胸三寸です。これは、あくまでも私の想像にすぎませんが、あり得ないことではないでしょう。

 ということで、じわりじわりと安倍政権は追い込まれていきました。その影には、アメリカの安倍離れと官僚の逆襲があった、というのが私の仮説です。
 もし、そうだとしたら、それもまた異常なことだと言わなければなりません。日本は主権国家であり、主権者は国民なのですから……。