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8月31日(金) またも始まったスキャンダルの暴露合戦 [スキャンダル]

 7~8月中に熱中症で、120人もの人が亡くなったそうです。私の方も、この暑さで頭がボーっとしてしまったようで、8月を昨日で終わらせてしまいました。
 8月は、もう1日あります。今日の31日が、本当の最後の日です。

 その昨日のブログに対して、書き込みがありました。民主党の姫井由美子参院議員の不倫スキャンダルについてコメントして欲しいと仰るのです。
 これは、30日発売の『週刊文春』が報じたもので、内容については書き込みをご覧下さい。民主党議員のスキャンダルとしては、「さくらパパ」こと横峯良郎参議院議員が『週刊新潮』で愛人問題や賭けゴルフの件などを報じられた前例があります。
 これに対して、横峯議員はいったんは大筋で認めたものの、その後、名誉を傷つけられたとして、新潮社などを相手取って5500万円の損害賠償や謝罪記事の掲載を求める訴えを東京地裁に起こしました。姫井さんの方は、今のところ黙殺というところでしょうか。

 このような男女関係についてのスキャンダルと政治資金に関わるスキャンダルとは、事柄の性格が異なります。政治家としてどちらが問題かと言えば、もちろん、後者でしょう。
 プライベートな問題であり、不倫が法に触れるというわけではありませんし、政治家だからといって聖人君子である必要もないでしょう。しかし、そうは言っても、社会的通念や規範に反する行動をとるような人が、国会議員として相応しいかどうかという問題は残ります。
 自民党議員でも、山崎拓元副総裁や、ついこの間まで幹事長だった中川秀直衆院議員の女性スキャンダルがありました。自民党ならダメで民主党なら良いというわけにもいきません。政治家としての品性が問われるという点では同じでしょう。

 ところで、この姫井議員のスキャンダルを暴露したのが『週刊文春』で、横峯議員の方は『週刊新潮』でした。右派系週刊誌が民主党に焦点をあててスキャンダルを暴露しているということなのかもしれません。
 「どっちもどっちだ」という雰囲気を作り出そうとしているのでしょう。これから明らかになるかもしれない与党議員のスキャンダルに対する「中和剤」を、あらかじめ散布しているということでしょうか。
 民主党も、議員候補者の選定に当たっては、もっと「身体検査」をきちっとやる必要があるようです。次の衆院選の候補者選定に当たっての教訓とするべきでしょう。

 このようなスキャンダルの暴露合戦によって、政治が貶められたり、政治家への不信感や失望が強まったりするのは困りものです。しかし、それ以上に、週刊誌に暴露されるようなスキャンダルのタネを抱えているということの方が、もっと大きな問題なのでしょうが……。


8月30日(木) テロ対策特措法審議で明らかにされるべき3つの疑問 [国会]

 今日で8月も終わりです。色々な意味で、暑い1ヵ月でした。それでも、秋の訪れを告げるかのように、昨日から涼しくなっています。

 昨日紹介した各社の世論調査では、テロ対策特措法に対する意見を聞いたものもありました。その結果は、以下のようになっています。

日経新聞:賛成30%、反対53%
朝日新聞:賛成35%、反対53%
共同通信:賛成38.6%、反対48.2%

 いずれの調査でも、テロ対策特措法の延長に反対の方が多くなっています。日経と朝日の調査が、ほぼ同じような結果になっていることも注目されます。
 このように、国民世論の動向は明らかです。臨時国会で延長をめざす与党よりも、反対を表明している民主党などの方に分があるということになるでしょう。
 このような世論を背景に、民主党は最後まで反対を貫き、自衛隊をインド洋から呼び戻してもらいたいと思います。もともと憲法第9条に違反する海外派兵だったのであり、「テロとの戦い」でも役に立っていないどころか、逆効果になっているのですから……。

 この民主党の対応について、今日の新聞では、相反する二つの報道がなされています。一つは朝日新聞のもので、「民主、テロ特措法に対案 アフガン民生支援 海自は撤退」という見出しになっています。もう一つは毎日新聞のもので、「テロ特措法:反対の民主党に対案なし 原則押し通す構え」という見出しの記事です。
 一方は「対案」、他方は「対案なし」ということで、全く逆の内容です。どちらが正しいかは、いずれ国会審議の中で明らかになっていくでしょう。
 民主党には、「対案」を出すということで、自民党と同じ土俵に乗らないよう注意してもらいたいものです。さし当たり、国会審議では以下のような点について疑問をただすことを優先するべきでしょう。

 それは、第1に、海上自衛隊の艦船は、インド洋のどこで、何をしているのか、ということです。インド洋といっても、その範囲はインド沿岸からアフリカ東岸まであります。
 自衛隊の艦船は、アフガニスタンに近い海域ではなく、実は東アフリカの沿岸で燃料を供給しているという指摘があります。そうなのでしょうか。
 軍事評論家の神浦元彰さんは、そのウェッブhttp://www.kamiura.com/new.htmlで、「多国籍軍の活動範囲(海域)」は「アフガン戦争とは無縁の海域」だとして、次のように書いていました。

 多国籍軍の活動範囲(海域)がパキスタンやアフガン(海に接していない)の沖合ではないということである。もともとはアフガンのアルカイダが海路で逃走したり、武器や弾薬が海路からアフガンに運び込まれることを阻止するために、海上でのパトロールは始まった。今でも日本人の多くがそのように想像していると思う。しかし実際の活動範囲はインド洋でもアラビア半島のイエメン沖や、アフリカのソマリア沖で活動している点である。海自の派遣先はアラビア半島の沖合から東アフリカの沖合ということを日本政府は隠し続けてきた。アフガン戦争とは無縁の海域である。

 第2に、多国籍軍による海上での活動が、「テロとの戦い」でどの程度の効果を上げているのか、ということです。これまでの実績の詳細を明らかにするべきです。
 海上自衛隊は01年12月以来、“テロ勢力の海上移動阻止”を掲げた「海上阻止行動」(MSO)に参加する米軍など5カ国の艦船に燃料や水などを提供してきました。
 しかし、給油量は現在、月あたり2000~3000キロリットルにすぎません。MSOの成果としては麻薬の押収などが挙げられていますが、テロリストの拘束はなく、不審船舶に対する無線照会件数も04年の4万1000件から、06年には9000件に激減しています(『しんぶん赤旗』2007年8月26日付)。
 テロ活動の防止という点で、海上自衛隊の活動に実質的な意味があるのでしょうか。この点についても、神浦さんは次のように書いています。

 多国籍軍が01年から6年間もインド洋海上で警戒・監視の警戒活動を行っているが、海路で移動するテロリストの拘束、あるいは武器や弾薬などの押収量が少ないことである。ほとんど麻薬などの密輸(海上輸送)を摘発する程度で、テロとの戦いをしているという大義名分にほど遠いのが現状である。海自・幹部はインド洋で多国籍軍がパトロールをしていることで、テロリストのヒト、モノの海上移動を抑止していると説明するが、なぜインド洋にこだわるのかという疑問には説得力に乏しい気がする。アフガン戦争はタリバン復活など別の色合いが濃くなってきたのに、新たな情勢に対応することなく、相変わらずブッシュ政権の始めた戦争を支持するためにインド洋にダラダラと派遣を続けている。

 第3に、海上自衛隊が燃料を供給している艦船の活動対象がアフガニスタンだけに限られているのか、という問題もあります。燃料の供給を受けた米空母から発進した艦載機が、アフガニスタンだけでなく、イラクやアフリカの国々を空爆するというようなことはなかったのでしょうか。
 もし、海上自衛隊から燃料や水の供給を受けた艦船が、アフガニスタン以外の国々に対する作戦行動に参加していたとすれば、テロ対策特措法違反になります。このような法律違反を犯していないかどうかも、綿密に検証される必要があるでしょう。
 また、自衛隊によって提供された燃料が横流しされ、関係者の私腹を肥やしているとの噂もあります。その真偽も明らかにされなければなりません。

 テロ対策特措法に対する対応として、民主党は参院で審議を行わず、時間切れを狙うと見られています。法律の延長阻止というだけなら、そのような対応もあり得ると思いますが、それだけでは不十分なのではないでしょうか。
 この法律に基づいて海上自衛隊はインド洋でどのような活動を行ってきたのか、アメリカなどの多国籍軍の艦船は何をやっているのか、その活動実態を参院審議の中で明らかにすることは極めて大きな意味があります。シーファー駐日米大使は機密情報の提供まで民主党に申し出たわけですから、絶好のチャンスではありませんか。それらも活用して、「対テロ戦争」の実態を暴くことが必要でしょう。
 アメリカが行っている不正義の戦争の実状を明らかにし、公明党や自民党の一部議員が賛成できない状況を作り出したうえで否決し、衆院に送って与党の決断を迫るというやり方を取るべきです。参院での審議で、簡単には賛成できないような状況を生み出すことができれば、衆院での再可決をめぐって与党は窮地に陥ることになります。

 「吊し」戦術によって、審議せずに時間切れを狙うというのでは消極的すぎます。「テロとの戦い」とは、本当はどのようなものなのか――アメリカが勝手に始めた「戦争」の実態を暴露し、その過ちを明白にするために、是非、参院での審議を全面的に活用していただきたいものです。
 そうすることで初めて、「ねじれ国会」の真価を発揮することができるのではないでしょうか。


8月29日 新内閣への「ご祝儀」は約1割の支持率上昇 [内閣]

 安倍改造内閣に対する世論調査の結果が、各紙で報道されています。それは、以下のようになっていました。
 内閣支持率の高い順に並べました。結果的に、安倍内閣に近い順になっているような気がします。

読売新聞:内閣支持率44.2%(12.5ポイント上昇)、不支持率36.1%(23.8ポイント減少)
日経新聞:内閣支持率41%(13ポイント上昇)、不支持率40%(23ポイント減少)
共同通信:内閣支持率40.5%(11.5ポイント上昇)、不支持率45.5%(13.5ポイント減少)
毎日新聞:内閣支持率33%(11ポイント上昇)、不支持率52%(13ポイント減少)
朝日新聞:内閣支持率33%(7ポイント上昇)、不支持率53%(7ポイント減少)

 安倍改造内閣への支持率は、33%から44.2%まで、約10ポイントの開きがあります。支持率では日経新聞と共同通信がほぼ41%、毎日新聞と朝日新聞が33%で同じになっています。また、読売と日経の調査では、不支持率が支持率を上回る“逆転”状態が解消されました。
 しかし、各紙の調査での支持率の上昇は7ポイントから13ポイントとなっており、それほど大きな差ではありません。内閣改造による支持率の上昇は約1割で、上下3ポイントほどの開きがあります。
 安倍改造内閣に対する「ご祝儀」は、約1割の支持率上昇だったということになるでしょう。これについて日経新聞は、「新体制での急回復が目立つといっても、あくまで『久間、赤城ショック』の前に戻ったにすぎない」と指摘しています。

 他方、不支持率の方は、36%から53%まで17ポイントもの大きな開きが生じています。減少幅も、7ポイントから24ポイントまで、17ポイントになりました。
 新聞社の調査や質問の仕方の違い、立場の違いなどが反映されているのかもしれません。とりわけ、読売新聞調査や日経新聞調査における不支持率の減少幅の大きさが注目されます。
 その読売新聞調査でも、内閣改造や自民党役員人事で、「安倍首相の政治手法がこれまでと変わった」という印象を持ったか否かでは、「持たなかった」が48%で、「持った」の39%を上回っています。また、日経新聞調査では、参院選後に首相が続投した判断については「反対」が49%で、「賛成」の40%を上回っています。「首相の政権運営に対する有権者の厳しい視線が変わったわけではな」いと、日経新聞が書いているとおりです。

 それでも支持率が約1割回復したのは、派閥の領袖を自民党の役員や閣僚として取り込んだ手法が功を奏したためでしょう。安心感を抱いた自民党の支持者が戻ってきたのかもしれません。
 派閥の「親分」を党や内閣の執行部に入れてしまえば、「子分」は文句を言えません。さし当たり執行部批判を回避する最善の策を取ったということになります。
 「政治とカネ」で問題を抱える伊吹文明文科相を留任させたのも、伊吹派の会長だからです。たとえ“時限爆弾”かもしれなくても、保身のためなら抱え込むのを厭わなかったということでしょう。

 改造内閣の人事では、安倍首相に批判を浴びせていた舛添要一厚生労働相と、「改革派」知事として知られた増田寛也総務相の起用が注目されました。ここにも、安倍首相の計算がうかがえます。
 地方や生活重視に切り替えたと見せかけて、実は「美しい国」づくり、「戦後レジーム」からの脱却路線を密かに押し進めようというわけです。安倍首相の「本音」はいささかも変わっていないのです。

 こうして、内閣を改造し、建前と本音を使い分けながら、「美しい国」づくり、「戦後レジーム」からの脱却という当初からの目標を追及しようというのが、安倍首相の目論見でしょう。いずれ、臨時国会での野党の追及によって、その化けの皮が剥がれるにちがいありません。
 


8月28日(火) 「自民党レジーム」の「終わり」の終わり? [内閣]

 安倍改造内閣の姿が明らかになりました。「トカゲのしっぽ切り」どころか、「トカゲの胴体切り」によって頭だけしか残らない新しい内閣の出発です。
 とはいえ、18人の閣僚のうち、留任したのは安倍首相を含めて6人いました。新任は7人にすぎません。残りの5人は再任で、「人身一新」というわけにはいきませんでした。

 この安倍内閣の改造を、各紙は次のように報じています。

読売新聞:政権浮揚へ重厚布陣
朝日新聞:延命へ改革路線修正
毎日新聞:派閥・世論配慮の「挙党」
東京新聞:重鎮起用 地方格差も重視
産経新聞:安倍改造内閣、重厚な布陣に 挙党態勢の構築目指す
日経新聞:「挙党」掲げ重鎮起用

 この朝刊各紙の見出しには、安倍改造内閣に対する見方や評価が明瞭に反映されています。「重厚」や「重鎮」というのは、昨日のブログでも指摘したように、派閥のトップや幹部が相次いで党役員や閣僚に就任したからです。
 また、「挙党」にカッコが付いているのは、これらの「重鎮」を各派からかき集めたにもかかわらず、谷垣派からの入閣者は一人もいなかったからです。安倍首相は、一方では、派閥や世論を配慮して「挙党」をめざしながらも、他方では、さりげなく谷垣、古賀、福田などの「反安倍」を排除していたのです。
 とはいえ、「改造内閣の陣容については、『重厚な布陣』という評価の一方で、『挙党態勢という名の派閥均衡』との批判もあろう」(特別編集委員橋本五郎『読売新聞』8月28日付)との評もあるように、基本的には「挙党態勢という名の派閥均衡」というべきものになっています。旧態依然とした古い姿への復帰と言って良いでしょう。

 ところで、自民党が長期政権を維持してきた秘密は、端的に言えば、「振り子の論理」に基づく「疑似政権交代」の演出にありました。毛色の異なった派閥間での政権のキャッチボールに国民は騙され、それがあたかも政権交代であるかのような幻想を抱いてしまったのです。
 その結果、新しい政治が始まるのではないかと期待し、新政権への支持率が上がります。これが、新政権発足への「ご祝儀」でした。
 このような「ご祝儀」が、安倍改造内閣に与えられるのでしょうか。改造後の内閣支持率が注目されます。

 このように、「自民党レジーム」を支えてきた「振り子の論理」ですが、次第に錆び付き、やがて機能しなくなります。その上、「派閥」の弊害が目立ち、「派閥の解消」や「派閥政治」からの脱却が掲げられるようになりました。
 内閣の構成でも「派閥均衡」は否定され、小泉前首相は派閥による入閣候補者の推薦を拒否しました。小選挙区比例代表並立制の導入という「政治改革」や省庁の再編・統合による官邸機能の強化という「行政改革」もあって首相の権限が強まり、竹中治堅さん言うところの「首相支配」が成立します。
 「自民党をぶっ壊す」と言って「構造改革」を進めた小泉さんに国民は惹き付けられ、郵政選挙での圧勝によって、結果的に自民党は息を吹き返したように見えました。しかし、それは、そう見えただけで、実際には「自民党レジーム」の崩壊は進行していたのです。

 その結果が、今回の参院選でした。幹事長に就任した麻生さんが、「(自民党を)ぶっ壊すと言った人(小泉純一郎前首相)を選び、事実ぶっ壊された。ぶっ壊された後の自民党をどう立て直すのかが三役に与えられた仕事」だと語ったように、小泉さんは「構造改革」によって自民党の支持基盤に打撃を与え、「自民党をぶっ壊す」という「公約」を実行したのです。
 その後を引き受けた安倍さんは、小泉さんが駆使した武器を利用できませんでした。「首相支配」が可能であるような構造が存在したにもかかわらず、「支配」する能力も経験も無かったからです。
 今回の自民党役員・閣僚人事は、このことをさらに明瞭にしました。各所に「重鎮」を配したため、実際には「挙党態勢という名の派閥均衡」の復活となったからです。人事において、安倍さんが「首相支配」を貫徹できなかっただけでなく、今後もそのようなことは不可能でしょう。

 こうして、自民党は「振り子の論理」を働かせることも、「首相支配」を貫徹することもできなくなりました。そのために、安倍改造内閣は、最後の自民党政権になるかもしれないという哀感を漂わせながらの出発となっています。
 こうして、「自民党レジーム」は黄昏時を迎えることになりました。それは、小泉前首相と安倍現首相の共同作業の結果にほかなりません。
 小泉前首相によって「自民党レジーム」の「終わり」が始まりました。今、安倍首相によって、その「終わり」が終わろうとしているのではないでしょうか。

 国民生活のためには、このような「政治の移行期」は、可能な限り早く終わった方が良いでしょう。そのためにも、一日も早く解散・総選挙が実施され、本格的な政権交代が実現されなければなりません。


8月27日(月) 「お仲間」と「派閥領袖」のゴッタ煮内閣 [内閣]

 やっぱり、「密約」があったんですね。麻生さんを幹事長にするという約束が……。参院選投票日に密かに首相官邸を訪れ、安倍首相の続投を支持した見返りが幹事長職ですか。

 自民党役員と安倍改造内閣の人事が明らかになりました。自民党三役には、幹事長に麻生太郎外相(麻生派)、政調会長に石原伸晃幹事長代理(無派閥)、総務会長に二階俊博国会対策委員長(二階派)が起用されています。
 このほか、幹事長代理には細田博之経理局長(町村派)、国対委員長には大島理森元農林水産相(高村派)、選対総局長には菅義偉総務相(古賀派)、衆院議院運営委員長には笹川尭党紀委員長(津島派)が就任しました。
 いずれも、安倍さんに近い人ばかりです。自民党の役員人事は、前回同様、「お仲間」をかき集めたというところでしょうか。

 午後から、安倍首相は官邸で内閣改造に着手し、官房長官に与謝野馨元政調会長(無派閥)、外相に町村信孝前外相(町村派)、財務相に額賀福志郎元政調会長(津島派)、厚生労働相に舛添要一参院政審会長(無派閥)、防衛相に高村正彦元外相(高村派)、総務省に増田寛也前岩手県知事などの入閣が固まりました。また、伊吹文明文部科学相と的場順三官房副長官、甘利明経産相、大田弘子経済財政担当相の留任なども決まりました。
 就任した17人の大臣のうち、新しくなった人が7人、留任が5人、再任が5人となっています。人身一新という割りには、新人が少ないと言えるでしょう。

 さし当たり、2点だけ指摘しておきます。第一に、自民党三役はいずれも党役員や大臣からの横滑りだったということです。
 幹事長の麻生さんは外相から、政調会長の石原さんは幹事長代理から、総務会長の二階山は国対委員長からの横滑りです。中でも注目されるのは石原さんです。
 幹事長の中川さんは、参院選敗北の責任を取って辞任しました。それなのに、幹事長代理だった石原さんは責任を取らないどころか、政調会長に“出世”しました。安倍さんとの友達関係が幸いしたというところでしょうか。

 第二に、派閥領袖の勢揃いです。自民党には、現在、9つの派閥がありますが、そのうちの5つの派閥の領袖が党役員と閣僚に就任しました。
 具体的には、麻生派の麻生会長が幹事長、二階派の二階会長が総務会長、町村派の町村会長が外相、高村派の高村会長が防衛相、伊吹派の伊吹会長が文科相という具合です。額賀財務相は津島派の会長ではありませんが、会長代理を努める幹部です。
 谷垣派が排除されていますので、派閥領袖の勢揃いとはなりませんでした。しかし、これだけ派閥の幹部をかき集めたのは異例だと言うべきでしょう。「昔の名前で出ている」人ばかりで、古い自民党の姿を彷彿とさせます。

 結局は、「お仲間」と「派閥領袖」のゴッタ煮内閣になってしまったというところでしょう。安倍さんは、党執行部を気心の知れた「お仲間」に任せ、内閣は「実力者」と呼ばれるベテランの力に頼ったわけです。
 ただでさえ、指導力に問題があると言われている安倍首相です。「船頭」ばかり周りに集めて、上手くいくのでしょうか。また、行き詰まることはないのでしょうか。


8月24日(金) アベが小泉になれなかった4つの理由 [内閣]

 明日、安倍首相が訪問先のクアラルンプールから帰ってきます。政界の「夏休み」も終わり、27日とされている自民党役員と内閣の改造に向けて、政局は再び動き出そうとしています。

 ところで、22日のブログで紹介した竹中治堅『首相支配-日本政治の変貌』(中公新書、2006年)は大変興味深い本で、大いに勉強になりました。この本は、1994年以降、政治改革や行政改革を機に日本の政治の仕組みが変化し、その結果、「首相の権力が大幅に強まったこと」を論証しています。
 これが、竹中さんの言う「首相支配」です。このような「首相への権力一元化」は、首相の地位を強める省庁の再編と、それを効果的に行使することをめざす小泉純一郎首相が登場した2001年に成立しました(「2001年体制」の成立)。
 このようにして成立した「2001年体制」は、小泉首相の下で強化され、05年9月11日の「郵政選挙」によって「定着」します。「つまり、2001年4月から2005年9月までが2001年体制の定着過程であった」(前掲書、248頁)というのが、竹中さんの主張です。

 「定着」したというのであれば、このような構造はその後も維持・継続されていることになります。しかし、小泉前首相とは異なって、安倍現首相はこのような「2001年体制」の恩恵をこうむることなく、「首相支配」を貫徹していないように見えます。
 それは、何故なのでしょうか。その答えは、小泉前首相と安倍現首相とを分ける4つの理由があるからだと思われます。

 第1に、人的配置の失敗です。小泉内閣ではゼロだった閣僚の交代が、安倍内閣では4人に上りました。
 失言や暴言、政治とカネの問題で名前が挙がった閣僚なども沢山いました。任命権者としての安倍さんの人物評価の甘さの故でしょうか。この点が、小泉さんとの大きな違いです。また、小泉さんを補佐した竹中大臣や飯島秘書官のような存在がなく、「チーム安倍」を作りはしたがほとんど機能しなかったという問題もありました。
 「首相支配」の構造に変化はなかったにしても、それを機能させる人的配置に失敗したという点が決定的です。内閣や首相の権限を強めても、それを生かせるような陣立てに失敗したというのが安倍さんの蹉跌を生み出した原因ではないでしょうか。

 第2に、政策課題の誤りです。小泉内閣の郵政民営化という目標は、安倍内閣では改憲と「戦後レジーム」からの脱却に変わりました。
 もともと、安倍さんは経済政策に対しては無能であり、関心もありません。首相に際して出版した『美しい国へ』では、経済・財政政策には何も触れていませんでした。代わって提起されたイデオロギー的な政策課題の突出こそが、安倍首相の特長であり、持ち味です。
 そして、小泉首相時代に大きな力を発揮した経済・財政諮問会議は、このようなイデオロギー的な政策課題ではその役割を発揮できないという問題がありました。代わりに、教育再生会議などを設置しましたが、戦略的課題設定と首相のイニシアチブという点では大きくトーンダウンしています。

 第3は、世論の反転です。当初、7割台もあった内閣支持率は、今では2割台を維持するのが精一杯で、逆に、不支持率は2割以下から7割台に近づいてしまいました。この点は、4割台を前後する支持率を維持し続け、退陣直前でも支持率が5割を超えていた小泉前内閣との大きな違いです。
 前掲の著書で、竹中治堅さんは「首相支配」にとって世論からの支持がいかに重要であるか、を繰り返し指摘しています。「首相の地位を獲得・維持する条件として重要なのは世論から支持を得ること」であり、「世論からの支持が、首相が権力を存分に行使できるかどうかを左右するようになっている」(前掲書、241頁)というのです。
 この決定的とも言える条件を、安倍首相はクリアーすることができませんでした。これは、2年前の総選挙と今回の参院選との違いを生んだ主たる要因でもあります。

 そして、第4は、首相自身の資質や経験不足を背景としたリーダーシップの問題です。これは、以上に挙げた3つの理由のそれぞれにも深く関わっています。
 派閥の関与を排して「仲間」を自民党の役員や内閣に配置する陣立てという点では、安倍さんも小泉さんも変わりません。しかし、誰を、どの様な基準で選び、どう配置するかという点や、問題が生じた場合の対処方法という点で失敗したのは、安倍さん自身の問題です。
 「美しい国」というスローガンの下で、一体、安倍さんが何をやろうとしているのかがはっきりしないという点でも、政治のリーダーシップが問われてきました。しかし、これは日本国憲法の下で営々と築かれてきた平和で民主的な「戦後レジーム」をひっくり返そうというものですから、一種の「政治的クーデター」にほかなりません。
 それを国民にはっきりと示すことができないのは当然であり、このような公表できない目標を密かに掲げたのが間違いなのです。ここに、安倍さん自身の問題があります。今日の日本において目指してはならず、所詮、達成不可能な目標だったからです。

 いずれにせよ、安倍さんと小泉さんとの違いにおいて、内閣支持率の動向が大きな要素を占めていることが分かります。それは、過去においてだけでなく、今後の推移を予測するうえでも、大きな意味をもっています。
 安倍さんにとっては、自民党役員改選・内閣改造後の内閣支持率の推移がポイントになるでしょう。今後、解散・総選挙含みで政局が動いていくということになれば、自民党政治家は世論動向に応じて自らの態度を決めることになるからです。
 この点に関連して、竹中治堅さんは著書の中で、注目すべき指摘をしています。「強化された権力を首相が存分に使えるかどうかは、首相自身が世論から支持を獲得できるかどうかにかかっている」として、次のように書かれています。

 ……党首は「選挙の顔」として重要な役割を演じる。自民党の場合、選挙戦での各政治家の命運は党を代表する総裁=首相の人気に大きく左右される。このため、自民党の政治家は、首相に対する世論の支持に敏感になっており、世論の動向を睨みながら、どの程度、首相に従うか決めるのである。
 仮に首相の人気が低迷し、自らの選挙に悪い影響を及ぼすことが予想される場合、自民党の政治家は首相を支持しないことはもちろん、首相を退陣に追い込む可能性もある。こうなれば、首相は権力を行使するどころの話ではなくなってしまうのは、言うまでもない。(前掲書、247頁)

 竹中さんは、「仮に」ということで、こう書いています。しかし、それは「仮」の話なのでしょうか。
 内閣改造後の安倍内閣に対する支持率が注目されます。その動向次第では、「首相を支持しないことはもちろん、首相を退陣に追い込む可能性」も生まれてくるに違いないでしょうから


8月22日(水) 強まりつつある「自民党レジーム」からの脱却の可能性 [内閣]

 暑さのせいで、ボーッとしていたのでしょう。昨日のブログの日付を間違えてしまいました。正しくは、21日です。22日は今日の分です。

 ということで、早速、本題に入らせていただきます。安倍首相の掲げていた目標は改憲と「戦後レジーム」からの脱却でした。そのための教育改革や集団的自衛権の解釈見直しなどが、具体的な課題とされていました。
 しかし、この間の経過をみれば、安倍首相の実績はまったく逆になっています。改憲についての警戒感を高め、参院選での与党敗北の一因を生み出しました。
 「戦後レジーム」についても同様です。安倍さんの“失策”によって、強まったのは「自民党レジーム」から脱却する可能性でした。教育改革や集団的自衛権の解釈見直しについても、頓挫しそうです。

 安倍首相がさっさと辞任していれば、「自民党レジーム」から脱却する可能性は低下していたかもしれません。しかし、首相の地位に固執して居座ったために、反安倍の気分は自民党そのものを見限るようなムードに変わりつつあります。
 選挙での敗北が明らかになったとき、すっぱりと辞めていれば良かったのです。そうすれば、国民のフラストレーションはそれなりに収まったかもしれません。
 しかし、安倍さんはそうできませんでした。自らの進退について決断する力がなかったのです。そのために、いつまで経っても国民の欲求不満は解消されず、その矛先は「自民党レジーム」自体に向かい始めています。

 夏休み中にも、防衛省の次官人事をめぐるゴタゴタ、塩崎官房長官事務所での領収書の二重計上、参院新潟選挙区で当選した塚田一郎議員の運動員の買収容疑での逮捕、それに『週刊ポスト』が報じた安倍首相の「隠し子」騒動などが続いています。安倍首相にとっては、“泣きっ面に蜂”というところでしょう。
 安倍首相自身も、インド訪問で問題を引き起こす可能性があります。この機会に、故パール判事やチャンドラ・ボースの遺族と面会するからです。
 このような行動に、「先の戦争は悪くない」と考えている安倍さんの過った歴史認識が明瞭に示されています。アジア周辺諸国やアメリカなど諸外国のマスコミは、これをどう受け取るでしょうか。

 竹中治堅『首相支配-日本政治の変貌』(中公新書、2006年)が詳細に分析しているように、この間、自民党総裁・総理としての首相の力が強まりました。しかし、その力をどう使うかは、首相自身の資質によって左右されます。
 強大化し一元化された権力を効果的に行使する能力を、安倍さんは持っていません。「船頭多くして……」になったのは、中心にいる安倍首相が「船頭」になれなかったからです。この点だけからしても、安倍さんに首相を続ける資格はないというべきでしょう。


8月22日(火) 新潟から帰ってきました [日常]

 昨夕、新潟から、猛暑の東京に帰ってきました。新潟も暑かったですが、朝晩は涼しく、17日の夕方には雨がぱらつきました。

 心配していた中越沖地震の影響ですが、上越市では柏崎に近い吉川区を除いて大きな被害はなかったようです。松代の芝峠温泉「雲海」http://www.shibatouge.com/に行きましたが、その行き帰りでも地震の被害を目にすることはほとんどありませんでした。
 ふる里の上越市頸城区は、大きな被害があった柏崎と長野県北部の間に位置しています。それなのに被害が少なかったのは、地盤の関係によるのかもしれません。
 柏崎の皆さんはお気の毒ですが、頸城区が大きな被害を免れたのは不幸中の幸いでした。ふる里の無事な姿をこの目で見て、私も大いに安心しました。

 新潟での夏休みは、いつものように、墓参りに行ったり、買い物をしたり、友人に会ったり、温泉に行ったり、夏祭りに顔を出したり、畑でもぎ物をしたりしました。のんびり本でも読む、というわけには、なかなかいきません。
 特に印象に残ったのは、上越市三和区神田の「清風亭」http://odekake.jalan.net/spt_15550fc3560116980.htmlという料理屋に行ったことです。池の畔にある小さな建物で、看板が出ていなければ分からないでしょう。
 ここは鯉料理の専門店ですが、ナマズやフナの料理などもあります。鯉の洗いや鯉こく、甘煮という定番料理だけでなく、鯉の刺身、鯉の塩焼き、鯉の唐揚げなど、他では食べられない珍しい料理も味わいました。料理は美味しく、料金は安く、大満足です。

 この後、「岩の原葡萄園」 http://www.iwanohara.sgn.ne.jp/に行き、試飲して気に入ったワインを5本ほど買い込み、さらに新井道の駅http://www.hrr.mlit.go.jp/road/miti_eki/each_folder/arai/arai.htmlの日本海鮮魚センターに立ち寄り、刺身や浜焼きなどを買いました。
 地震の風評被害で物が売れなくなっていると聞きましたので、私なりに景気拡大に貢献したというわけです。少しは役に立ちましたでしょうか。

 新潟からの帰りに、白馬温泉で一泊してきました。姉の還暦祝いです。
 遙か昔、八方尾根から唐松岳に登り、不帰ノ嶮、天狗ノ頭、白馬三山と縦走し、蓮華温泉まで下って露天風呂に入ったことがありました。ところが、今回、八方池の第3ケルンまで行く元気が無く、第2ケルンで引き返すという体たらくです。
 雲行きが怪しくなったということもありますが、体力もそれだけ衰えたということでしょう。でも、この二日間で、鑓ガ岳、杓子岳、白馬岳の三山や唐松岳、大黒岳、五竜岳などがきれいに見えましたから、それで良しとしましょう。
 なお、この期間、白馬では「花三昧」というキャンペーンをやっており、バスで「いわたけ百合の園」と「五竜アルプス山野草園」を訪れました。百合は盛りを過ぎていましたが、山野草園ではコマクサがかろうじて咲いていました。

 ということで、目一杯、ふる里で英気を養ってきました。今日は1日、貯まった新聞を読み、明日は研究所に出勤します。
 これで、私の夏休みは終わりました。明日からまた、喧噪に満ちた日常が始まります。


8月11日(土) 誰が「身体検査」をクリアできるのか  [内閣]

 安倍首相は、緒戦において大きな敗北を喫したということになります。秋の臨時国会の開会が、当初予定していた8月31日ではなく、9月にずれ込むことがはっきりしたからです。

 今日のマスコミ報道によれば、自民党の衛藤征士郎元防衛庁長官の政治資金管理団体などが、2004~05年分の政治資金収支報告書に同じ領収書の写しを添付するなどして、政治活動費計98万7060円を二重計上していたことが分かりました。同事務所は「事務処理ミス」として、両団体の収支報告書の訂正を総務省に届け出たそうです。
 二重計上といえば、赤城徳彦前農相の方が先輩です。赤城さんが代表を務める自民党茨城県第1選挙区支部の収支報告書の03年分の記載で、政治団体「赤城徳彦後援会」と郵送代計19万円余を二重計上していたことが既に発覚し、報告書の訂正を行いました。
 ところが、最近になって、自民党茨城県第1選挙区支部の05年分の政治資金収支報告書と、同年の衆院選で赤城さんが茨城県選管に提出した選挙運動費用収支報告書に、印刷代など272万9631円が二重計上されていたことも判明しました。また、出てきたというわけです。

 この赤城さんが辞任し、後任の農林水産相を兼任したのが若林環境相ですが、この若林さんにも問題が持ち上がっています。若林さんを支援する政治団体「東京正風会」が、緑資源機構の受注業者3法人と、受注業者らでつくる政治団体から05、06両年にパーティー券代として計22万円を受け取っており、農水相兼任後の今月3日に全額を返還したことがわかったからです。
緑資源機構と言えば、青木幹雄参院議員会長との関係が注目されます。検察が動き出したとの噂があるからです。
 緑資源が青木さんの地元・島根で総事業費120億円にも及ぶ「特定中山間保全整備事業」を進めていることは、すでに何回か書いてきました。青木さんは、このビッグプロジェクトの受注業者7社から05年までの3年間で計642万円の献金を受け取っており、参院選での惨敗を見極めてこれについての捜査が再開されたのではないかというわけです。

 このほか、臨時国会開催中に訪米し、内閣改造に向けての残留運動を行って批判された小池百合子防衛相についても、環境相時代に、同省主催の国際シンポジウムを随意契約で受注した企業から100万円の献金を受け取っていたことが判明しています。献金は、一昨年の総選挙の公示直前で、公共事業受注企業からの「選挙に関する」寄付を禁止した公職選挙法199条、200条(特定寄付の禁止)に違反する疑いがあります。

 8月27日とされている内閣・自民党役員人事に向けて、安倍首相は頭を抱えていることでしょう。「身体検査」を行い、「政治とカネ」の問題を抱えていないかどうかを調べている最中に、次から次へと問題が出てきているからです。
 このように、いくら「身体検査」しても無駄です。今の自民党の有力者の中で、「政治とカネ」の問題を抱えていない議員など、存在していないからです。皆さん、多かれ少なかれ、表に出せないお金の出し入れがあるのではないでしょうか。
 事務所費は、領収書がもらえないお金を処理するために、便利に使われてきたのではないかと思われます。それが過去において広く一般的に行われてきたが故に、調べられれば色々な問題が出てきてしまうのでしょう。

 つまり、誰でも、過去においては「スネに傷」を抱えています。「身体検査」をすれば、このような「傷」の一つや二つ、すぐに見つかってしまうところに深刻な問題があります。
 その結果、「身体検査」をクリアできた人が誰もいなかったなどということになったら、どうするのでしょうか。安倍首相が抱えている悩みは、「身体検査」が不十分だということではなく、閣僚候補に健康体の人がほとんどいないということなのではないでしょうか。

 なお、世間は「お盆休み」に入りましたので、私もこのブログを基本的にお休みすることにします。「基本的に」ということは、書きたくなった場合には書く、ということです。
 いずれにしましても、15日(水)から20日(月)まで、ふる里の新潟に帰省しますので、この期間は書けません。ご了承いただければ幸いです。
 8月21日(火)に再開します。それまで、お元気で。ご機嫌よう。


8月9日(木) 「ノー」と言える小沢 [政党]

 小沢さん、なかなかやるじゃありませんか。シーファー駐日米大使との会談です。
 外交的手腕もなかなかのものです。見直しました。

 まず、会談の開かれ方が注目されます。いったん会談を断ったと、報道されていたからです。
 実際にそうだったかどうかは分かりませんが、もし相手が申し込んできた会談に難色を示せば、相手は譲歩します。会談が開かれる前から、イニシアチブは小沢さんの手に渡っていたということになるでしょう。
 しかも、会談は民主党本部で、マスコミに公開する形で行われました。民主党の外交路線をアピールする場として最も効果的なやり方であり、米側がそれを飲まされたのはイニシアチブを小沢さんに握られてしまったからです。

 会談の内容も重要です。小沢さんは、アメリカの言いなりにならない「タフネゴシエーター」としての姿を印象づけることに成功しました。
 アメリカの言うことなら何でもそのまま受け入れている安倍自民党との違いを鮮明にし、「ノー」と言える小沢をアピールしたわけです。このところ高まりつつあるナショナリズムや「反米右翼」への共鳴を計算していたのかもしれません。
 外交路線における自民党と民主党との違いを見せつけたという点でも、小沢さんは得点を稼ぎました。アメリカと対等にやり合う姿は、細川首相以来のものだと言って良いでしょう。

 もう一つ重要なのは、集団的自衛権と集団的安全保障との違いを明確にしたことです。シーファー米大使に、小沢さんは「アフガン戦争はブッシュ米大統領が『アメリカの戦争だ』と言って、国際社会のコンセンサス(意見の一致)を待たずに始めた。日本と直接関係ないところで、米国あるいは他国と共同作戦はできない」と述べ、「今年3月に採択されたアフガニスタンに関する国連安保理決議に、(活動部隊は)言及されている」との大使の指摘に対しても、「米軍中心の活動を、直接的に規定する国連安保理決議はない」と反論しました。
 つまり、一方では、「日本と直接関係ないところで、米国あるいは他国と共同作戦はできない」として集団的自衛権の行使を認めず、他方では、「国連安保理決議」があるかどうかを判断の基準にし、集団的安全保障への参加を認める意向を明らかにしているのです。
 PKOなどでの自衛隊の海外派兵については拒んでいないものの、多国籍軍型の派兵を拒絶した点は極めて重要でしょう。「専守防衛」の制約を踏み越えてアメリカと共に戦争できる国になろうとする安倍自民党の道を明確に拒絶しているからです。

 この小沢・シーファー会談によって、テロ対策特措法が臨時国会での最大の争点となることがはっきりしてきました。この問題をめぐって与野党が激突し、解散・総選挙となるかもしれません。
 そうなれば、日本の外交・安全保障をめぐっての大きな転換点となるだけではありません。在日米軍基地の将来や極東の国際情勢にも大きな影響を及ぼすことになるでしょう。
 この点でも、臨時国会でのテロ対策特措法についての審議が焦点になります。その際、さし当たり重要な問題は、以下の点でしょう。

 まず第1に、インド洋における海上自衛隊の活動実態が明らかにされなければなりません。海上自衛隊はインド洋で何をやっているのか、それにはどのような意味があるのかが明確にされる必要があります。
 少なくとも、どれだけの燃料が、どの国の艦船に提供され、どれほどの費用がかかっているのか、正確な情報が開示されなければなりません。シーファー大使は「(米英軍などは)テロに反対する国際的な活動部隊であり、日本の貢献は非常に重要だ。日本が燃料提供をやめたら、英国やパキスタンは参加できなくなる」と述べたそうですが、「テロに反対する国際的な活動」になっているのか、インド洋では日米英仏独パキスタンなど8か国の17隻が活動していますが、このうち米国以外の「英国やパキスタン」にどれだけの燃料が提供されているのかが分からなければ、この発言の正否すら判断できないでしょう。
 大使は「(小沢氏の)決断に必要な情報があれば、機密情報を含め、どんなものでも提供する準備がある」と述べたそうです。これまで秘匿されていた「機密情報を含め」、「必要な情報」の全てが明らかにされる必要があります。

 第2に、日本国憲法との関連について、このような自衛艦の派遣が許されるのかどうか、もう一度、原点から検討される必要があるでしょう。小沢代表は憲法9条で自衛隊派遣に制約があることを説明した上で、「ブッシュ大統領は国際社会の合意を待たずに米国独自で戦争を始めた。米軍を中心とした作戦には参加できない」と強調しました。
 憲法9条の制約や集団的自衛権行使との関連をどう考えるのか。これが、国会審議での焦点の一つです。
 与党が衆参両院で多数を占めていたため、この点についての十分な審議なしにテロ対策特措法が制定され、その延長も承認されてきました。この基本的な論点について、今一度、国会で深める必要があります。

 第3に、このような海上自衛隊の活動が、「対テロ戦争」に役立っているのかという論点もあります。アフガニスタンやイラクの現状は、ブッシュ大統領の掲げる「対テロ戦争」がいかに欺瞞に満ちたものであるかを明らかにしています。
 それはテロをなくすどころか、テロの温床を拡大し続けているからです。ブッシュ政権の行っている「対テロ戦争」は、目的と手段のミスマッチであり、テロの増殖と誘発をもたらすだけです。
 日本がそれに協力することは、テロの撲滅に役立っていません。石油などを依存している中東諸国との友好にもマイナスになるということをはっきりさせる必要があります。

 第4に、テロ特措法の延長を拒否すれば、「国際社会」から孤立し、「日米同盟」が破壊されるという主張もあります。それは本当でしょうか。
 「インド洋でのガソリンスタンド」役をやめれば、アメリカなどが困ることは明らかです。ただで燃料がもらえるのですから、これほど便利なものはありませんから。
 しかし、すでに「国際社会」の多くの国々はこのような活動から手を引いており、批判するのはアメリカに付き従う同盟国だけでしょう。日本が手を引くことでアメリカの「対テロ戦争」の遂行が不可能になれば、泥沼の戦争にあえいでいるアメリカ自身にとってもプラスになります。沈み始めている泥船・「ブッシュのアメリカ」に付き合うことをやめても、「日米同盟」が壊れることはないでしょう。

 秋の本格的な臨時国会の召集時期が8月31日になるかどうか、注目されています。この日にテロ対策特措法の延長案が出されれば、10月31日までの審議期間が61日間になるからです。
 参院で野党が法案審議を引き延ばせるのは60日です。そして、テロ特措法の期限は、11月1日になります。ギリギリの日程で、何とか法案を通したいというのが、「8月31日召集」という“秘策”なのです。
 しかし、8月27日の内閣改造直後で国会答弁の準備の時間が足りず、参院で野党が過半数を握り、慎重に検討すべきだとの主張が参院自民党や公明党などで広がっているといいます。31日の召集は可能なのでしょうか。

 もし、8月31日に召集できなかったら、安倍首相は緒戦で大きな打撃を被ることになります。秋の臨時国会での与野党の攻防は、すでにもう始まっているのです。