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10月2日(月) 現代史のなかでの岸田政権をどう見るか(その2) [論攷]

〔以下の論攷は『学習の友』No.842、2023年10月号に掲載されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕

 人権と民主主義への逆行

 岸田首相は「法の支配」「自由で開かれたインド太平洋」「先進国との価値観の共有」を口にしています。これも全てウソばかりです。法の土台である憲法を無視し、メディアを規制し、人権と民主主義に逆行し、国連や他のG7サミット参加国から問題点を指摘され、改善を迫られているではありませんか。
 5月のG7広島サミットを前に、6か国とEUの駐日大使は連名で岸田首相に性的少数者(LGBTQ)の人権を守る法整備を促す書簡を送りました。サミット参加国のうち日本だけが時代に逆行し、価値観を共有していなかったからです。
 7月には、国連の人権理事会作業部会が日本に調査団を派遣し、ジャニーズ事務所をめぐる性加害問題を取り上げて注目されました。しかし、その調査内容は女性、性的少数者、障害者、アイヌなどの先住民族、被差別部落、労働組合など200項目を超え、ジャニーズ問題は5項目にすぎません。難民や技能実習生などを含めて、これらの人々が人権侵害のリスクにさらされているからです。
 先の通常国会では改定難民認定法や性的少数者に対する理解増進法が成立しました。しかし、これらも難民の人権を侵害し、性的少数者への差別を助長する内容でした。ジェンダー平等の点でも日本は146か国中125位という有様です。
 報道の自由度でも日本は26位でG7参加国では最低です。テレビ放送については総務省の内部文書が明らかになり、放送法の解釈変更によってメディア支配を強めようとしていた実態が暴露されました。マスメディアの権力監視や政権批判も弱体化する一方です。
 このほか、マイナンバーカードの導入やマイナ保険証への切り替え、福島第1原発「処理水」の海洋放出、消費税インボイス制度の実施、大阪での万博やカジノの推進、沖縄・辺野古での基地建設など、岸田政権は反対の多い施策を次々と強行してきました。「聞く力」は「聞き流す力」にすぎず、民意に寄り添う姿勢は全く見られません。

 続発するスキャンダルと辞任

 岸田政権はスキャンダルまみれで閣僚などの辞任が相次いでいる点でも特徴的です。昨年10月に山際大志郎経済再生担当相が世界平和統一家庭連合(統一協会)との癒着を批判されて辞任し、11月には葉梨康弘法務相が度重なる失言で辞任しました。また、寺田稔総務相も政治資金の不適切な処理などで辞任しています、
 12月には秋葉賢也復興相が事務所経費をめぐる問題で辞任し、杉田水脈総務政務官も女性や性的少数者などへの差別発言で辞任に追い込まれました。差別発言では、荒井勝喜総理秘書官も更迭されています。
 その後も更迭や辞任は続きました。岸田首相の息子である翔太郎首相秘書官が公私混同による不祥事で更迭され、木原誠二官房副長官も警察捜査への介入などの疑惑が報じられています。また、自民党女性局のパリ研修旅行でも不適切な実態や写真の投稿などが批判され、松川るい女性局長が辞任に追い込まれました。
 同じ8月には、秋本真利外務政務官が日本風力開発から多額の資金提供を受けた収賄の疑いで辞任し、自民党も離党しています。一時、大きな批判を浴びた統一協会との癒着やその深い闇の解明も放置されたままです。
 これらのスキャンダルの要因は本人の資質や常識・倫理感の欠如などによるものですが、それを任命した岸田首相にも大きな責任があります。同時に、構造的な背景にも注目しなければなりません。それは小選挙区制という選挙制度です。大政党有利で政治の固定化と世襲議員を生み出し、女性の進出を阻み、緊張感を失わせて政権に「あぐら」をかくことを可能にしているからです。

 諸悪の根源は小選挙区制にあり
 活路は野党共闘、労働組合への期待

 歴史を振りかえってみれば、自民党が試みたあらゆる改革は失敗の連続でした。構造改革はリストラと規制緩和を進め、行政改革は官の役割を後退させ、財政改革は国債の増大を招き、税制改革は企業減税と消費税の増税をもたらし、労働改革は非正規労働者を増大させました。年金改革は支給額を減らすだけで、社会保障改革も保険料の増加と福祉サービスを低下させ、大学改革や教育改革は教員の負担の増加と研究力・教育力の衰退を生み出しています。
 なかでも最も失敗したのが政治改革です。小選挙区制が4割台の得票率で7割台の議席をもたらし独裁体制を築くことは当初から明らかでした。私は1993年の拙著『一目でわかる小選挙区慰霊代表並立制』(労働旬報社)で「『死票』がゴマンと出る」「政党と議員の固定化がすすむ」「投票率が低下する」などを指摘しましたが、その後30年の経過はこれを裏付けるものとなりました。
 自民党に好き勝手を許している諸悪の根源は小選挙区制にあり、野党の分断はそれに手を貸す結果となっています。日本の政治をまともなものにするために選挙制度の改革は急務ですが、現状では野党の選挙共闘によって政権交代にむけての可能性を探るしかありません。活路は共闘にしかないのですから。どの野党も単独での政権獲得は不可能で、維新は共闘を拒否しています。
 野党共闘の再建に向けては、職場での労働組合の共同闘争や草の根での様々な市民団体・政党などの共同行動の積み重ねが重要です。そのうえで、中央段階で選挙共闘に向けて合意し政策協定を結ばなければなりません。形だけの候補者調整ではなく、「本気の共闘」が不可欠です。
 2021年の前回総選挙では野党共闘が実現し、小選挙区での統一候補の当選が62、惜敗率80%以上は54、1万票以内が31という成果を収めました。しかし、共闘が不調に終われば「30選挙区で当選ラインを下回る可能性がある」と『東京新聞』(23年8月27日付)は報じています。共闘しなければ現状維持すら難しい、というわけです。
 連合や傘下組合に対しては、共産を含む共闘に反対しないよう、イデオロギー的な偏見を捨て、労働者の利益になるかどうかで判断するよう働きかけることが必要です。実質賃金や最低賃金の引き上げ、労働条件の改善、働く者の人権の重視という点で共通しているのですから。
 一時、立憲民主党の泉代表は共産党を含めて選挙協力せずと発言しましたが、実情に応じて柔軟に対応するとの姿勢に変わりました。笹森事務局長時代の連合と全労連は、労働基準法改定反対の「花束共闘」、春闘リレー集会での舞台共用、法政大学大原社会問題研究所主催のシンポジウム「労働の規制緩和と労働組合」での同席など、接近の動きがありました。
 しかし、労働の規制緩和に歯止めをかけるには不十分で、非正規労働の拡大や雇用の不安定化、賃金の低迷をストップさせることができませんでした。この歴史の教訓に学び、労働運動における共同の再建と選挙共闘の確立を両輪に、労働者の要求実現と政権交代をめざして労働組合が大きな役割を果たすことを期待したいと思います。


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