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9月7日(水) 政治改革の失敗によって自縄自縛となった日本政治 [政局]

 昨日のブログで、日本の政治はどうしてかくも劣化してしまったのでしょうか、と問題を提起しました。色々な回答が可能でしょうが、その要因の最たるものは政治改革の失敗だったと思います。
 企業・団体献金を禁止せずに政党助成金を導入し、小選挙区制を中心とする選挙制度に変えたために、日本の政治は「改革」どころか「解体」の危機に瀕し、自縄自縛に陥ってしまいました。細川内閣によってなされたのは「政治改革」ではなく、「政治解体」だったのです。

 第1に、政治改革が主たる目的としていた「政治とカネ」の問題は全く解決されませんでした。それどころか、今もなお、日本の政治を混乱させている大きな要因の一つであり続けています。
 民主党を悩ませ混乱させている「小沢問題」、鳩山元首相の巨額な「子供手当」、前原元外相の在日韓国人からの献金問題など、いずれも「政治とカネ」に関わる問題です。野田新首相や新閣僚などについても、このようなスキャンダルの影がちらついていることは、すでに報道されているとおりです。
 一体、いつになったら、日本政治はこのような問題から抜け出すことができるのでしょうか。政治改革が取り組まれたとき、きっぱりと企業・団体献金を禁止していれば、このような問題は起きなかったのではないでしょうか。

 第2に、小選挙区制の害悪も明瞭になっています。2大政党化による小政党の排除、理念・政策に基づかない政党の登場、2大政党の政策的な接近、短期間による多数派政党の入れ替わりとねじれ現象、大連立や翼賛化への誘惑、連立・連携の困難さなどは、全て小選挙区制という選挙制度によってもたらされたものです。
 これらの問題について、もう少し細かく見ていくことにしましょう。

 まず、2大政党化による小政党の排除という問題です。小選挙区比例代表並立制が導入されて以降、自民党ともう一つの政党(新進党や新・旧民主党)による2大政党化と、その他の中小政党の弱体化が進行してきました。
 このような2大政党化は、有権者の選択肢を狭めることになります。その結果、新自由主義や市場原理主義への疑念、普天間基地の国外移設、消費税増税への反対、TPPへの抵抗、脱原発方針など、国会の中での議論にはほとんど反映されなくなってしまいました。
 このようななかで、まやかしの選択肢を提起する「みんなの党」などの新党も誕生してきました。しかし、多様な選択肢の提起という点では、これらの新党も充分な役割を果たしてはいません。

 次に、理念・政策に基づかない政党の誕生という問題です。これは特に民主党に顕著に表れています。
 民主党は綱領をもたない珍しい政党ですが、それは理念・政策に基づくことなく結集している政党だからです。それに代わるものが選挙でのマニフェストでしたが、これも「見直し」によってあいまいにされようとしています。
 民主党には、小選挙区で現職に対抗して立候補するために加わったような人が少なくありません。1人しか当選できない小選挙区制では現職以外の政党を選ぶ必要があり、野党時代の民主党はそのための選挙互助会でしたから、理念・政策が二の次となるのも当然でしょう。

 第3に、2大政党の政策的な接近という問題があります。民主党と自民党も、このような傾向を強めてきました。
 小選挙区制では、有権者の半分以上の支持獲得を目標にしなければなりません。そのために、2大政党の間に位置する有権者の奪い合いが始まります。
 相手の支持者の引きはがしも必要になり、知らず知らずのうちに相互の政策が似通ったものになるのはそのためです。野田首相の自民党への接近の背景には、このような事情があると言って良いでしょう。

 第4に、短期間による多数派政党の入れ替わりとねじれ現象の発生という問題があります。現在の日本政治を悩ませているこの問題も、小選挙区制に遠因があります。
 小選挙区制には、少しでも相手を上回ればその差が拡大されるという「膨らまし粉効果」があります。しかも、マスコミ報道などもあって有権者の支持態度は、短期間に大きく変化するようになってきています。
選挙になると、小選挙区制によってこの変化が増幅され、短期間に多数派政党が入れ替わるという特徴が出ます。参院選でも1人区などの奇数区で小選挙区と同様の現象が現れますから、衆院選後の参院選で多数派政党が入れ替わるというねじれが生じたわけです。

 第5に、大連立や翼賛化への誘惑という問題もあります。一方で2大政党の政策が似通ってきて、他方で衆参両院での多数を占めることができないとなれば、一緒にやったらどうかという考えが頭をかすめることは当然かもしれません。
 こうして、大連立や翼賛化への誘惑が生まれます。この間、自民党と民主党との間でこのよう動きがありました。
 まして、大震災と原発事故という未曾有の災害への取り組みが課題で、災害対策という点ではそれほど大きな違いがないとすれば、このような誘惑が強まるのも不思議ではありません。野田新首相は、このような大連立論者としてよく知られています。

しかし第6に、これとは矛盾するようですが、連立・連携の困難さという問題もあります。小選挙区で敵対している2大政党ですから、そう簡単に連立を組むわけにはいかないからです。
 もし連立ということになれば、政権運営の全ての責任を共有しなければなりません。そのうえで、いったん選挙になれば対立候補を立てて互いに競争することになります。
 そんな器用なことができるのでしょうか。まして、選挙が近いとなれば、敵対する可能性のある相手と手を組むことは難しくなるでしょう。

 こうして、日本の政治は「政治とカネ」という古い問題を解決できず、政党政治の自縄自縛という新しい問題を生み出すことになりました。いずれも、政治改革の失敗によるものです。
 民主党は、チャンスがあったら国会議員になりたい、大臣になりたい、首相になりたいという「政治的機会主義者」の集まりです。そこには、めざすべき国家像もなければ共通の政治理念や政策も希薄です。
 ですから、綱領を決めることができず、それに代わるマニフェストも簡単に投げ捨てることができるのです。代表選になれば「今がチャンスだ」ということで「我も我も」と手を挙げ、当選の可能性が少ないとなったら手を下ろすというのが民主党です。
 このような政党が巨大化して政権を担当するようになったのは、自民党政治が破綻したからです。小選挙区制でなくても政権交代は起きていましたし、小選挙区制以外での政権交代であれば、これほど政治が自縄自縛に陥ることはなかったでしょう。

 しかも、民主党に代わりうる政党が、今のところ自民党しか見あたりません。このこともまた、日本政治を劣化させ、閉塞感を強めている要因の一つです。
 いくら民主党がダメだといっても、あんな自民党に政権を戻して良いのか。かといって、このま民主党に任せておけば、自民党以上にひどい状態になってしまうのではないのか。
 このようなジレンマに、有権者は悩まされているのではないでしょうか。ひと言で言って、日本の政治は出口のない状態に陥ってしまいました。文字通りの、袋小路です。

 こうなったら、政治改革をやり直すしかありません。本物の政治改革を断行するべきです。それも、民主党政権のうちに……。
 企業・団体献金を禁止して、政治腐敗の根を絶つことです。政治資金の出入りを透明化し罰則を強化して、いかがわしいお金が入らないようにするべきです。
 衆院の小選挙区制を廃止し、比例代表制を基本とした選挙制度に変えなければなりません。参院も、1人区をなくすことが必要です。

 1994年の政治改革以来、17年の年月が経ちました。政治改革という政治的実験は大失敗に終わったのです。
 そろそろ気づいても良いのではないでしょうか。日本の政治を劣化させた元凶こそ小選挙区制であり、これを導入した政治改革は大きな間違いだったのだということに……。

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7月5日(火) 思いやりも品格もない松本龍復興担当大臣の暴言と辞任 [政局]

 「こんな人は、とっとと辞めさせるべきだ」と書こうと思っていたら、あっと言う間に辞めてしまいました。暴言の責任を取って辞任した松本龍復興担当大臣のことです。
 これでは、辞めるために就任したようなものではありませんか。震災への復興対策より、自分で引き起こした災難への対策に追われたわけですから、辞任は当然でしょうが……。

 それにしても、菅首相はこんな人をどうして復興担当大臣に任命したのでしょうか。それほど人材が枯渇しているのか、菅首相に人を見る目がないのか、それとも松本龍は目立ちたがり屋で、意識的にあのような振る舞いをしていたのか、そのどれもが当てはまるような気がします。
 辞任した松本さんは、「部落解放の父」と呼ばれ、戦後の第2国会の開会式に当たって、「カニの横ばい」といわれる天皇への拝謁を拒否して永年の慣習を廃止させた「カニの横ばい事件」を引き起こした松本治一郎の義理の孫に当たる人です。福岡一区だそうですから、昨日帰ってきた博多出身で、社会党から民主党に移った「左派」に属する衆院議員です。
 お祖父さんの松本治一郎の顔に泥を塗ったようなものです。誠に情けない。

 松本さんは、辞任会見で「粗にして野だが卑ではない」と弁解しました。「よく言うよ」と言わざるを得ません。
 批判を受けたのは、発言の内容であると共に、その言い方であり、態度でした。相手を見下し恫喝するような言動は、「粗にして野であり卑である」と言うべきでしょう。
 国民が呆れたのは、政治家としての言動である以前に、人間としての言動だったのです。そこには、被災された東北の人々への共感や思いやり、人間としての品格や暖かみを感じさせるものが全くありませんでした。

 そもそも、松本さんは何のために岩手県や宮城県の知事に会いに行ったのでしょう。復興対策を担当する大臣として、現場の知事さんたちと信頼関係を築くためだったのではないでしょうか。
 被災された人々を励まして安心させ、希望を持ってもらうためではなかったのでしょうか。しかし、松本大臣の言動は、逆に不安を与え、不信感を植え付けただけでした。
 被災された人々が不快に思い、批判と抗議の声が殺到したのも当然でしょう。辞任に追い込まれたのは、当然の成りゆきでした。

 それにしても、松本さんはどうしてあのような態度を取ったのでしょうか。テレビなどの画像に映し出された映像は、常軌を逸したものでした。
 命令口調でぞんざいな言葉遣い。相手を見下したような上から目線での発言。ソファーの座り方にしてもふてぶてしい態度が現れていました。
 自らの態度や言動がどのように見られ、どう受け取られ、どのように報じられるか、想像できなかったのでしょうか。普段も、あのような態度や言葉遣いをしていたのでしょうか。

 相手の反応を予測して自らの言動を律するのは、政治家としてのイロハではありませんか。そのような最低限の能力さえなくて、どうして7回も選挙に連続して当選できたのか、誠に不思議です。
 それとも、このような言動は今回だけのことだったのでしょうか。それなら余計、辞任に追い込まれるような言動を、それも誰が見たってそうなるだろうと思われるような言動を、何故、今回に限って取ったのか私には理解できません。

 ヒョッとしたら、松本さんは菅首相に最後の詰め腹を切らせるための捨て身の作戦に出たのかもしれません。それなら、今回の言動も、あっと言う間の辞任も、分からないわけではありませんが……。

 ところで、ライブドアの担当者から政治・経済を中心とした情報サイト「BLOGOS(http://blogos.com/)」に、私のこのブログを転載させてもらえないかとの申し出をいただきました。私としては、より多くの方に読んでもらえる機会を提供していただけるということになりますので、喜んで了承しました。
 この「BLOGOS」サイトを通じて、新たにお読みいただくことになった皆さんもおられると思います。今後とも、よろしくお願いいたします。


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6月7日(火) 消費税増税翼賛のための「大連立」は許されない [政局]

 ようやく、菅首相も覚悟を決めたようです。初めからこうなることは分かっていたと思うのですが、菅首相の往生際の悪さには呆れてしまいます。

 そもそも、今回のような「菅降ろし」は、2ヵ月も前から予想できたことでした。現に、私は4月25日の「統一地方選敗北で強まる菅首相の責任追及」というブログで、次のように書きました。

 大震災対策の不手際や指導力の無さに加えて、統一地方選挙敗北の責任を問われることになるでしょう。連休が明けて、大震災勃発から2ヵ月以上経てば、「菅降ろし」の動きはさらに強まるにちがいありません。
 通常国会の最終盤に向けて、菅首相が進退についての決断を迫られる場面が訪れる可能性があります。民主党内外で菅首相に対する責任追及の声が高まるのは避けられないでしょう。(以上、引用終わり)

 すでに、この時点で「通常国会の最終盤に向けて、菅首相が進退についての決断を迫られる場面が訪れる可能性」は、私ですら予想できたことでした。「民主党内外で菅首相に対する責任追及の声が高まるのは避けられない」ということは、2ヵ月前から分かっていたことだったのです。
 それが分かっていなかったのは、ご本人だけということなのでしょうか。こんな愚か者は見たことないと言いたいところですが、残念ながら、これまで何度も目にしてきました。
 安倍、福田、麻生、鳩山と続くこれまでの短命政権の最終盤には、いずれも「降ろし」の風が吹き荒れたものです。そしていずれもこの風に耐えきれず、自ら退陣を表明して政権の座を去っていきました。

 菅首相は、これら先輩の姿を見ていなかったのでしょうか。前例から学ぼうとする賢さを持ち合わせていなかったのでしょうか。
 せめて最後くらい潔さを見せようと考えるのが普通でしょう。いつまでも居座ることに、なんのメリットもありません。
 特に、不信任案否決の翌日に居座るかのような硬直した発言を行ったことが決定的でした。その時のブログに、「菅首相が居座りを策しているような愚かな発言を行ったため、かえって退陣の時期は早まったのではないでしょうか」と書きましたが、やはり退陣の時期は早まりそうです。

 ということで、早々と「ポスト菅」の政権構想についての議論がなされています。そこで、急浮上してきたのが「大連立」構想でした。
 「大震災と原発事故への対応のため」と言われていますが、それは違います。個別の政策課題の実現のためであれば、連立を組む必要はないからです。
 現に、連立を組まなくても、来週にも復興基本法は成立しようとしています。「ねじれ国会」であっても、個々の法案に野党が賛成すれば、成立させることは可能なのです。

 それなら、どうして「大連立」を組もうとするのでしょうか。その理由は民主党と自民党とでは異なっています。
 民主党は、自民党を政権に引きずり込むことによって、「ねじれ国会」の制約を取り払ってしまおうと考えています。自民党は、民主党政権に参加することによって、解散・総選挙を早めて政権復帰への手がかりを得ようと狙っています。
 一方の民主党は政権基盤を強めようとし、他方の自民党は政権交代への道筋をつけようというわけです。同じ「大連立」とは言っても、一皮めくれば「同床異夢」というわけです。

 しかし、全てが「異夢」というわけではありません。「同じ夢」を見ている部分もあります。
 それは、この機会に、消費税の増税に道を開こうとしていることです。もし、「大連立」が成立すれば、即座に消費税の増税構想が浮上することになるでしょう。
 そのような消費税増税翼賛のための「大連立」を許してはなりません。それは大震災からの復興を名目としてなされるでしょうが、結局は被災者を含めた国民の負担を増大させ、大震災からの復興を遅らせるにちがいないからです。

 菅さんがグズグズしているのは、当初からの悲願であった消費税増税に道をつけたいからでしょう。それを条件にした「大連立」を夢見ているのかもしれません。
 しかし、それは自らの存在によって遅延させてきた大震災対策に、新たな障害を持ち出すことになるでしょう。菅さんの「夢」は、国民にとっては「悪夢」となるにちがいないのですから……。
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6月4日(土) せっかくの「花道」に自ら泥をまき散らした菅首相 [政局]

 「一体、何をやっているのか」と、昨日に続いて言いたくなるような体たらくです。鳩山さんがせっかく作ってくれた「花道」だったのに、菅首相は自ら泥をまき散らしてしまいました。

 確認事項について、退陣の前提となるものではないと岡田さんは言い、鳩山さんは「それはウソだ。私と首相との間で、辞めていただく条件の話をした」と反論しています。また、退陣の時期について、菅さんは福島第1原発が冷温停止状態となる来年1月頃を示唆し、「6月いっぱいくらいに」と理解していた鳩山さんは「きちっと約束したことは守るのはあたり前だ。それができなかったらペテン師だ」と激怒しています。
 2人の言い分は真っ向から対立し、再び混乱状態が拡大し始めました。新聞は「死んだふり続投」「偽りの退陣表明」「政治的詐欺」などと報じ、一度は鎮まったかに見えた民主党内の対立も再び燃え上がろうとしています。
 野党の自民党は「死に体」となった首相には協力できないと突き放し、菅首相の早期退陣を求めています。菅さんは、与野党の双方から「早期退陣」で攻め立てられるという構図です。

 何という、愚かなことでしょうか。菅さんがこれほどのバカだったとは思いませんでした。
 「こうなったら、できるだけ早く復興に道筋を付けて身を引くから、それまでは全面的に協力して欲しい」と、どうして言えないのでしょうか。そうすれば民主党内の求心力は高まり、対立や混乱が再燃することもなかったでしょうに……。
 少なくとも最後だけは、評価されて身を引くこともできたでしょう。その最後のチャンスを、菅さんは自らの発言で潰してしまったように見えます。

 どうして、前言を翻して居座るかのような発言をするのでしょうか。自分がどのように見られているのか、自分の発言がどのように受け止められるのか、菅さんには分からないのでしょうか。
 大体、来年の1月までなんて、どう考えても続投できるわけがありません。退陣を口にしたトップ・リーダーがいつまでも居座ることが日本の政治にとってプラスになるのかマイナスになるのか、それさえも判断できなくなってしまったのでしょうか。
 退陣という「花道」に泥をぶちまけてみても、その「花道」が消えてなくなるわけではありません。いずれはその道を進まざるを得ず、泥まみれになるのは自分自身であるということが、どうして分からないのでしょうか。

 菅さんの選択肢は1つしかありません。鳩山さんとの合意事項を忠実に実行し、約束を守ることです。
 退陣の時期を先延ばしして党内対立を激化させ、民主党を壊すようなことをしてはなりません。この混乱に乗じて政権復帰の足がかりをつかもうと狙っている自民党を利するようなことは避けるべきです。
 復興基本法を成立させ、第2次補正予算の骨格を固めて、一日も早く首相の地位を去るしかありません。そして、自らの言に従い、「若い世代にいろいろな責任を引き継」ぐべきでしょう。

 菅首相が居座りを策しているような愚かな発言を行ったため、かえって退陣の時期は早まったのではないでしょうか。民主党内では署名集めなどの「菅降ろし」の動きが強まり、自民党も早々と菅首相問責決議案提出の検討を始めたようですから……。

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6月3日(金) 内閣不信任案の否決によって菅首相と民主党は当面の危機を脱したけれど…… [政局]

 「一体、何をやっているのか」というのが、大方の国民の感想でしょう。とりわけ、被災地の住民や避難を余儀なくされている方々にとっては、政治のエネルギーが無駄に費やされているように見えて、やるせない思いだったのではないでしょうか。

 自民・公明・たちあがれ日本3党が提出した菅内閣不信任案は、賛成152票、反対293票で否決されました。投票総数は445票で、みんなの党が賛成、共産党は棄権、社民党は欠席です。
 民主党では2人が賛成に回り、小沢一郎元代表など15人が欠席・棄権しました。民主党執行部は、役員会などで賛成者を除籍とし、小沢元代表の処分は見送り、元代表以外の欠席・棄権者は岡田克也幹事長が事情を聴いた上で判断するということになりました。
 菅首相と民主党は、当面の危機を脱したようです。近い将来における首相の退陣と引き替えに……。

 内閣不信任案を提出し、菅首相の即時退陣か、悪くても民主党の分裂を狙っていた自公両党は、すんでのところで肩すかしを食わされたように見えます。この動きに同調していた民主党内の小沢グループも、2階に上ってハシゴを外されたような気がしたことでしょう。
 小沢グループの大半の人々は「縄ばしご」をたらして、慌てて下りてきました。反対票を投じた2人を除いて。
 今回の奇策を講じた張本人は、鳩山由紀夫元代表だったと思われます。同じように、菅首相と会って自発的な退陣を進言した亀井さんも、鳩山さんと連携していたのかもしれません。

 鳩山さんは、代議士会の直前に菅首相と会い、①民主党を壊さない、②自民党政権に逆戻りさせない、③復興基本法案の成立と2次補正の早期編成のめどをつけるという3項目で菅首相と合意しています。鳩山さんは代議士会でこのことを明らかにし、不信任案に一致して反対することを呼びかけました。
 これが決定的であったと思います。この合意を踏まえて、菅首相が代議士会で「震災への取り組みに一定のめどがついた段階で、若い世代にいろいろな責任を引き継いでほしい」と発言したとき、勝負はついたと言って良いでしょう。
 この後、代議士会で発言した鳩山さんは、「震災復興基本法案を成立させ、11年度2次補正予算の早期編成にめどをつけた段階で身を捨ててほしいと申し上げ、首相と合意した」と発言しました。これで、菅首相は退路を断たれ、「死に体(レームダック)」化したことになります。

 そもそも、菅首相の党内基盤は、「3.11」以前から揺らいでおり、「3月危機」が囁かれていました。もし大震災がなかったなら、すでに首相の座を去っていたかもしれません。
 大震災の勃発と原発災害の発生は、「政治休戦」をもたらし首相の指導力を発揮する重要な機会となりました。菅首相にとっては政権基盤を強化する大きなチャンスでしたが、首相はこのチャンスを生かすどころか、ますます首相としての指導力と信頼感の欠如を露呈する結果となりました。
 その弱点につけ込んだのが、自公両党による内閣不信任案の提出です。こんな大変な時に不信任を出した自公両党は批判されるべきでしょうが、そのような隙を見せる結果となった菅首相の責任も大きいというべきでしょう。

 菅さんは、このようなことになる前に、余力を残さず大震災対策と原発事故の収束のため奮闘し、一定の目処が立った段階で潔く身を引くことを、自ら進んで国民に約束するべきだったと思います。「不信任が通っても総辞職はしない。解散・総選挙で対抗する」と言い続けたがために、首相の地位にしがみつき、保身に汲々とする姿ばかりが目に付き、ますます信頼を失うという悪循環に陥りました。
 そのために、「不信任案を可決して力づくでも辞めさせてやる」という、民主党内外の勢いが増したのだと思います。これを見て危機感を高めたのが、民主党の「オーナー」でもある鳩山さんだったのではないでしょうか。
 鳩山さんと菅さんとの合意文書の最初に「民主党を壊さない」と書かれているところに、それが示されています。民主党の分裂だけは何としても避けたい、という鳩山さんの思いが……。

 今回の内閣不信任案の提出は、成立すれば菅首相を引きずり下ろして民主・自民の大連立に道を開き、不成立でも民主党の分裂を引き出そうとする自公の仕掛けた罠でした。それは、さし当たり、不発に終わりました。
 とはいえ、菅首相は代議士会で、具体的な退陣の時期に言及していません。菅・鳩山の合意文書についての解釈も、鳩山さんと岡田幹事長とでは食い違っています。
 問題は先送りされたにすぎないとの見方もあります。首相退陣の時期が、民主党内の対立を再燃させる可能性も小さくありません。

 しかし、菅さんはそれほど長い間、首相の座に居座ることはできないでしょう。第2次補正予算を組むことはできても、通すことは難しいからです。
 補正予算の通過も9月に予定されている訪米も、新しい首相の手によってなされることになると思います。いくら菅さんが頑張ろうとしても、第2次補正予算の目途が付いた時点で、おそらく参院に問責決議案が提出されるからです。
 もしそうなれば、参院で通るでしょう。これで、菅さんはアウトです。

 「3.11」の大震災とその後の原発事故は、日本社会の根本的な転換という課題を提起しました。社会のあり方は、全面的に見直され、リニューアルされなければなりません。
 その課題を遂行すべき政治もまた、これまでとは違った新しいものとなる必要があります。今回の「騒動」と今後の展開が、このような刷新と創造の契機になることを願っているのですが、果たしてそうなるでしょうか。

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4月5日(火) 「原発人災」に引き続く「政治人災」にもご用心 [政局]

 小魚の「コウナゴ」から1キロあたり4080ベクレルの放射性ヨウ素が検出されたそうです。茨城県神栖市の「はさき漁協」に所属する底引き漁船・第五松丸は、神栖市の沖35キロ付近で取ったキンキとボタンエビの受け取りを銚子魚市場から拒否されたといいます。
 野菜だけではなく、魚も放射能に汚染されているのではないかと疑われています。農業だけでなく漁業も、大きな危機に直面し始めました。

 福島第1原発の暴走は、いまだに予断を許さない状況にあります。関係者は懸命に努力しているものと思いますが、我々国民からすれば、「一体、何をやっているのか」と言いたくなります。
 福島第1原発が大きな被害を被ったのは、大地震とそれに伴う大津波によるものでした。その発生を抑えられない以上、これは天災です。
 しかし、その後の原発の暴走と制御不能、大量の放射能漏れは明らかに人災です。事前の防災体制と初期対応のあり方次第では、これほど事態が悪化し、かくも大量の放射能が漏れ出すことはなかったかもしれないのですから……。

 大震災と放射能漏れの恐怖によって、菅政権は当面の対応に追われています。「がんばれ日本」の掛け声と共に、菅首相に対する批判は影を潜めました。
 ひところ言われた「3月危機」は、菅政権の危機だったはずです。しかし、今では大震災と原発事故によって生じた危機に読み替えられてしまいました。
 菅首相にとっては、新しい「危機」によって古い「危機」を乗り越えたということになるでしょう。菅政権の打倒や解散・総選挙などは当面考えられず、2年後の衆参同日選挙まで国政選挙はないという観測も出始めています。

 それに味をしめたわけではないと思いますが、菅さんは新たな政治工作を画策しているようです。震災からの復興を名目とした「大連立」です。
 自民党だけでなく、あわよくば公明党も引き込む目論見のようです。迷った自民党の谷垣総裁はあろうことか中曽根康弘元首相に相談し、中曽根さんは「期限付きなら」と、これに賛成したようです。
 こうして民主党に自公が加わった「大連立政権」が登場し、菅政権の基盤が強化される可能性が出てきました。気がつけば、新たな「大政翼賛」状況のもとで「震災復興のための」消費税が導入されてしまうかもしれません。

 新しい「政治人災」の勃発にご用心。大地震、大津波、原発事故、そして大連立による大政翼賛……。
 日本を破壊し、沈没させるのは、天災だけとは限りません。それ以上に怖いのは、政治による人災=「政治人災」です。
 前触れの揺れを感じているのは、私だけでしょうか。大震災によって身体に染みついてしまった「地震酔い」のせいでなければ良いのですが……。

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6月18日(金) 「小沢ファン?」からのコメントへの回答 [政局]

 「小沢ファン?」と思われる方から、下記のようなコメントがありました。これについては、削除するのではなく、お答えすることにしましょう。

あなたが、犯罪者でもないのに小沢議員を悪意で非難して排除し、鳩山首相の政治を援助もせず、ただ批判をするだけでなにもしなかった結果、官僚に癒着したより悪い菅政権が生き残ったのです。マスコミと同様に、あなたにもこのような事態になった責任があるとお思いになりませんか。あなたが小沢議員を排除した結果をみると、失業者がさらに増え、低所得者に重い消費税が検討されるような悪い方に向かっていますが、あなたは偉そうに正しいこと言ったように思っているかもしれませんが、あなたの無思慮が結果的に悪いことをしていることにお気付きになりませんか。

 ①「犯罪者でもないのに小沢議員」
 小沢さんは、残念ながら「犯罪者ではない」と断言できるような状況にはありません。今は、検察審査会で「起訴相当」であるかどうかが審査されている段階です。
 検察審査会での「起訴相当」の決定がなかった場合、また起訴されても裁判で無罪になれば、このように断言することができます。まだ、その結論が出ていないというのが、正確な状況認識でしょう。

 ②「小沢議員を悪意で非難」
 私は、小沢さんについて「悪意」で「非難」したことはありません。もし、そのような文章があれば、具体的に示していただきたいと思います。
 もちろん、批判した文章はあります。それは、菅さんやその他の方を批判するときと同様、決して「悪意」からではありません。

③「小沢議員を……排除」
 私には、小沢さんを「排除」するような力はありません。事実の経過を見れば、小沢さんの辞任は自分自身の選択か、鳩山さんに詰め寄られての決断か、いずれかでしょう。
 もちろん、マスコミや世論の批判に耐えられなかった、あるいは、参院選を前にした内閣や民主党支持率の低下を憂慮したということはあるでしょうが、それに対して、私やこのブログが影響を与えたというのは、あまりにも過大評価でしょう。

④「鳩山首相の政治を援助もせず、ただ批判をするだけでなにもしなかった」
 私は政治の現状について発言しているだけです。どなたに対しても、具体的な「援助」を行っているわけではありません。
 「ただ批判するだけ」というのは、私のブログを読んでいない証拠です。鳩山政権に対しては「政権交代の前進面と鳩山政権の限界」(5月9日付「鳩山民主党政権の半年を採点する-参議院選挙では何が問われるのか」)の両面について書いていますから……。

⑤「マスコミと同様に、あなたにもこのような事態になった責任がある」
 菅新政権が登場し、自信を持って「より悪い」政策を実行しようとしていることに大きな責任を問われるのは、むしろ鳩山さんや小沢さんでしょう。菅さんが後継首相になったのは鳩山さんが辞めたお陰ですし、それがこれほど大きな支持率を達成できたのは「脱小沢」の演出によるからです。
 それは小沢さん自身のシナリオではないのかというのが、私の仮説です。少なくとも、小沢さんは、こうなったことに満足しているにちがいありません。「私自身は一兵卒として当面、参院選の勝利に向けて、少しでもお役に立てば微力を尽くしたい」と述べているのですから……。

⑥「マスコミと同様に、あなたにもこのような事態になった責任がある」
 「このような事態」が何を意味しているのか良く分かりませんが、もし、菅さんが首相になったことを指しているのであれば、その「責任」は菅さんを代表に選んだ民主党議員にあります。私は、それに対して全く「責任」を負う立場にはありません。
 また、菅新政権や民主党への支持率の「V字回復」については、もちろん「マスコミ」に「責任」はあると思います。しかし、私に「責任」を問うのは、前述のように、このブログへの過大評価でしょう。それほどに評価していただけるのは、有り難いことではありますが……。

⑦「あなたが小沢議員を排除した結果をみると、失業者がさらに増え、低所得者に重い消費税が検討されるような悪い方に向かっています」
 「失業者がさらに増え、低所得者に重い消費税が検討されるような悪い方に向かってい」く可能性が高いという認識は、共有できるものです。しかし、それが「小沢議員を排除した結果」であるというのは、どうでしょうか。
 鳩山政権時代に菅さんを副総理にしたのも、樽床議員が立候補したときに小沢グループを自由投票にしたのも、支持率のV字回復を生み出した「脱小沢」を演出したのも(多分?)、小沢さんです。つまり、菅さんの政策を批判するのであれば、その背後にいる小沢さんを問題にせざるを得ないのではないでしょうか。今回の「結果」は、私が小沢さんを「排除」(そんなことができるわけがない)したためではなく、小沢さん自身が身を引いたために生じたことなのです。

⑧「あなたは偉そうに正しいこと言ったように思っているかもしれません」
 私は常に「正しいこと」を言おうと思っています。誰でも、文章を書いて公表する場合はそうでしょう。
 「間違っているかもしれない」と知りながら書いて発表するのは、読者に対する裏切りですから……。それが「偉そう」であるかどうかは、受け取り方の問題にすぎません。
 これからも、「正しいこと」を書くように務めたいと思っています。それをどう受け取るかは、私の問題ではなく皆さんの側の問題です。
 
⑨「あなたの無思慮が結果的に悪いことをしていることにお気付きになりませんか」
 「無思慮」であることを私に納得させるだけの事実を示していただかなければ、この問いにお答えすることはできません。それが「結果的に悪いことをしている」ということを、気づかせるだけの具体的な記述を示してください。今後、気をつけることにしましょう。
 そもそも、このようなブログは、思いついたことをそのまま書くような気楽なものです。それほど推敲していませんから、「無思慮」であることを避けるためには書くことを止めなければなりません。
 「お前のブログは有害なので、もう書くな」ということなのでしょうか。それとも、「もっと、思慮深いブログを書け」ということなのでしょうか。そのどちらについても、お応えするのは容易なことではありませんが……。

6月5日(土) 黒い「小鳩」が飛び去った後に [政局]

 菅直人さんが、民主党の代表に選ばれ、首相に選出されました。民主党の幹事長には、枝野幸男さんが起用される方向だといいます。
 これまでの鳩山首相・小沢幹事長のコンビに代わって、順当に行けば、菅首相・枝野幹事長のコンビが登場することになります。

 菅さんが首相になったことについては、私もいささかの感慨を覚えます。というのは、菅さんが政治に関わるようになった1974年、私は都立大学を卒業して、法政大学の大学院に入学したからです。
 この年の参院選で市川房枝候補を応援して選挙事務長になったのが、菅さんの政治へのデビューでした。以来36年間、社会市民連合、社会民主連合、新党さきがけ、民主党と政治的キャリアを積み、昨日、とうとう首相の座に上り詰めたというわけです。
 その間の歩みを、私は同時代人としてつぶさに目撃してきました。菅さんと直接の面識はありませんが、様々な場面で見かけたりしたものです。

 その菅さんが、日本のトップとして政治の舵取りをすることになりました。まずは、大いなる期待を表明したいと思います。
 同じ民主党政権といっても、これまでのツー・トップだった鳩山さんにも小沢さんにも、大きな弱点がありました。いわば古いエスタブリッシュメントの中から出てきた人たちだったからです。
 鳩山さんはお祖父さんが首相というエリートで、世襲議員の一人でした。とても庶民とは言えず、「お金のある不幸」の方が大きかったようです。

 小沢さんもお父さんが国会議員で世襲議員でした。いわば旧型の政治家で、ゼネコンとのつながりが強く、お金に関しては何かと黒い噂が絶えませんでした。
 旧田中派以来の利益誘導型政治にどっぷり浸かってきた人でもあります。そこから抜け出すことは、やはり難しかったようです。
 鳩山さんも小沢さんも、自民党出身で旧田中派の流れを汲む世襲議員としての弱点を持っていました。旧体制の枠組みの中で育ったという限界を、結局は打破できなかったのではないでしょうか。

 この点で、菅さんは大きく異なっています。市民運動出身の普通の人だと言って良いでしょう。
 自民党の流れではなく、社民連の流れを汲んでいます。市川房枝さんの薫陶を受けた人でもあります。
 自民党から社民連へ。田中角栄の薫陶を受けた政治家から市川房枝の薫陶を受けた政治家への、実質的な転換です。その意味は小さくないと思います。

 このような転換は、民主党にとっても、日本の政治にとってもプラスになるでしょう。というより、是非、プラスにしてもらいたいと思います。
 市民運動に関わって政治家をめざした原点に立ち返り、市川房枝さんの教えを思い出すべきでしょう。今、それを実行できる最強の力を手に入れたのですから……。


5月15日(土) 鳩山政権を追いつめるネガティブ・キャンペーンの効果 [政局]

 いよいよ、マスコミによるネガティブ・キャンペーンの効果が出てきたようです。鳩山政権に対する支持率が低下し続け、「鳩山政権打倒」を口走る人が現れてきました。

 このブログの読者から、民社国政権と自公政権は変わりないという指摘がありました。民主党と自民党とは同じだから、大連立する可能性がある、と……。
 その時、どうするのか、とお尋ねです。もちろん、反対します。かつての村山自社さ政権と同じことになりますから……。
 自民党の復権に手を貸すな、ということは、そのような最悪のシナリオを許してはならない、ということです。現時点で「鳩山政権打倒」を目指すことは、そのようなシナリオの実現を阻むことになるのでしょうか、それとも手助けすることになるのでしょうか。

 鳩山政権のあり方に対しては、全面的に否定することも全面的に肯定することも、ともに間違いでしょう。その政策や施策は「まだら模様」で、正誤が入り交じっているからです。
 鳩山政権の政策についても、「仕分け」作業が不可欠だということです。正しいものにはその実現を求め、間違っているものについては批判し、実現を阻まなければなりません。
 しかし、次第に、このような冷静な対応が難しくなってきています。時事通信の調査でついに20%を割ってしまった内閣支持率の低下に示されているように、全てをひっくるめて、「こりゃダメだ」という気分が高まっているからです。

 その理由の一つは、マスコミによるネガティブ・キャンペーンにあると思います。小沢さんの政治資金疑惑について「起訴相当」とした検察審査会の判断にも、このようなキャンペーンによって醸成された「市民感情」が反映していたのではないでしょうか。
 普天間基地の移設問題についても、鳩山首相の発言は確かに揺れてはいますが、それが増幅されて伝えられるために、迷走ばかりが強調される結果になっています。「それでは、普天間基地をどうするべきなのか」について、具体的な提案をするマスコミはほとんどありません。
 もちろん、小沢さんの政治資金疑惑については解明される必要がありますし、普天間基地移設問題での鳩山首相の発言のブレ、その軽さは批判されて当然ですが、それをどう解決するかという視点ではなく、政権の悪印象を強めるだけになっているように思われます。

 しかも第2に、このようにマスコミが手ぐすねを引いているとき、鳩山首相らは格好の材料を提供し続けています。これは首相の資質やリーダーシップの問題でもありますが、それだけではなく、法案や政策の中身にも問題のあるものが次第に増えてきているということも無視できません。
 「政治とカネ」の問題では、小沢民主党幹事長は非公開の政倫審に逃げ込もうとしていますし、普天間基地移設問題でも、5月の期限切れを前に桟橋方式で打開を図ろうとしています。いずれも、沖縄県民や国民の期待を裏ぎるものだと言わざるを得ません。
 また、内閣法制局長官を含む官僚答弁禁止を柱とする国会法改正案や社会保障など国の責任を投げ出す「地域主権改革」関連法案など、問題法案が出てきています。やがて、消費税率の引き上げという方向も強まってくるでしょう。

 第3に、民主党に代わりうる強力な野党が存在していないという事情も、民主党批判を強める一因かもしれません。自民党がもっと大きな勢力を保持しており、支持率も回復しているということであれば、気楽に「鳩山政権打倒」などとは言えないでしょうから……。
 この点が、かつての細川・羽田政権の時と、大きく異なっています。あの時は、自民党は下野したとはいえ、第1党の力を維持し、今のような体たらくではありませんでした。
 したがって、いくら鳩山政権を追いつめても、かつての村山自社さ政権のような形で自民党が復権する可能性は少ないでしょう。民主・自民の大連立の可能性はほとんどなく、国民もかなり気楽に「ダメ出し」をしているように見えます。

 とはいえ、鳩山政権が国民の期待を裏切り、様々な面で怒りを買うようになってきていることは否定できません。鳩山首相の迷走ぶりも、目を覆うばかりです。
 今後、通常国会終盤に入り、参院選が近づくにつれて、鳩山政権と民主党に対する野党の追及はさらに厳しいものになるでしょう。追及されてもやむを得ないような失敗の繰り返しですから、身から出たサビと言うべきでしょうか。

 なお、明日、兵庫県保険医協会第77回評議員会で講演するため、神戸に行きます。そこで一泊して、帰途、京都の法律文化社に立ち寄り、新著『18歳から学ぶ日本の政治(仮題)』について打ち合わせをすることになっています。
 兵庫県保険医協会の関係者の皆さん、よろしくお願いいたします。皆さんにお会いできるのを、楽しみにしています。

4月29日(木) 鳩山内閣の前途を左右する小沢「政治とカネ」と普天間問題 [政局]

 「本件不起訴処分は不当であり、起訴を相当とする」

 一昨日の東京第五検察審査会での議決の結果です。小沢一郎民主党幹事長の資金管理団体「陸山会」の土地取引事件で政治資金規正法違反(虚偽記載)容疑で告発された小沢さんを東京地検特捜部が不起訴(嫌疑不十分)とした処分について、待ったがかけられました。
 特捜部は今後、再捜査して再び処分を出すことになります。もし、再捜査の末に再び不起訴としても、それに対して審査会が2度目の「起訴すべきだ」とする議決をすれば、裁判所が指定した弁護士によって強制的に起訴されることになります。
 特捜部が小沢さんの元秘書で陸山会の事務担当者だった石川知裕衆院議員ら3人を同法違反罪で起訴したことはご存じの通りです。しかし、小沢さんについては「虚偽記載を具体的に指示、了承するなどした証拠が不十分で、共謀は認定できない」として不起訴にしていました。

 確かに、小沢さんの秘書3人が起訴されましたが、まだ裁判の途中で有罪判決が出たわけではありません。判決が出るまでは、推定無罪が成り立ちます。
 小沢さんに対しても、起訴が相当とされましたが、新しい証拠が見つかったわけではありません。再調査した結果、再び「証拠が不十分」ということで不起訴になることもあり得ます。
 不起訴になった場合、検察審査会による再議決で強制起訴は可能です。しかし、裁判になっても無罪になる可能性は充分に残されています。

 つまり、検察審査会が起訴相当と議決したからといっても、小沢さんの罪が認められたわけではないということです。小沢さんが言っているように、「何もやましいことはない」という結果になるかもしれません。
 国民感情からいって、不起訴は納得できない、起訴相当は当然じゃないかという気持ちは理解できます。しかし、感情と裁判は別物です。
 したがって、この時点で小沢さんを罪人扱いすることには慎重でなければなりません。マスコミ報道に流されず、予断を自戒するという冷静な対応が必要でしょう。

 しかし、今回の「起訴相当」という議決が、鳩山政権にとって政治的に大きな打撃となることは否定できません。また、法的にはともかく、秘書が逮捕されたことに対する道義的責任を問う余地は充分にあり、国民を納得させるような説明がなされていないことも明らかです。
 鳩山首相は、普天間基地の移設問題に加えて、小沢幹事長の「政治とカネ」という二つの問題に直面することになりました。この二つの問題をどう乗り切るかによって、今後の鳩山政権の前途が左右されることになるでしょう。
 いずれの問題についてもカギとなるのは、国民の納得が得られるかどうかということです。国民の納得を得て危機を乗り切るためには、普天間基地の国外移設と小沢幹事長の辞任は避けられないのではないでしょうか。

 鳩山さんにとっての第1の選択肢は、普天間基地の国外移設を確実にし、小沢さんが辞任する、もし辞任しない場合には鳩山さんが更迭するなどのケジメをつけることです。恐らく、これが最善の策ということになるでしょう。
 第2の選択肢は、普天間問題の「決着」への道筋をつけることができても、小沢問題でのケジメが付けられない場合です。これが次善の策でしょうか。
 もう一つの次善の策(三善の策?)は、逆に、小沢問題でケジメをつけられても、普天間問題の「決着」をつけられない場合です。いずれの場合でも、支持率の回復は難しいかもしれません。

 そして第4の最悪の選択肢は、普天間問題での「決着」も小沢問題でのケジメもつけられず、ズルズルと現状が維持されてしまう場合です。そうなれば国民やマスコミからの批判は沸騰し、結局は、それに耐えられなくなり、鳩山・小沢の共倒れということになってしまうかもしれません。
 そうならず、何とか乗り切れる可能性もあります。しかし、そうなればなったで、参院選での敗北は避けられないでしょう。
 後に、国政選挙が控えているということが重要です。この選挙にどう影響するかという見通しが、民主党内の雰囲気や動向を決めることになります。

 今日から連休が始まるというタイミングも重要な意味を持っています。議員の皆さんが選挙区に帰り、世論に直面することになるからです。
 前述のように感情と裁判は別物ですが、選挙前の議員にとって重要なのは、裁判の帰趨ではなく国民感情です。感情に流されるような動きが強まるにちがいありません。

 連休明けに、波乱がありそうな気がします。鳩山さんは、総理になってから初めて沖縄を訪問するそうですが、辛い連休になるのではないでしょうか。