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11月28日(土) 新連立政権の樹立と労働組合運動の課題 [論攷]

〔下記の論攷は、銀行労働研究会が発行する『金融労働調査時報』No.701(2009年11・12月号)の巻頭「視点」に掲載されたものです〕

 総選挙で政権が交代した。10項目にわたる政策合意を確認して連立政権が発足したのである。これは、日本の政治と労働組合運動にとって画期的なことであった。

 第1に、このような形での明確な政権交代は、戦後政治史上、初めてのことになる。1947年と93年の2回、政権交代が実現している。しかし、それは政界再編や政党連合の結果であった。マニフェストという形で政策を明示し、選挙が終わる前から首相候補が明らかだったのは初めてである。
 第2に、労働組合に支持された政党による政権の樹立ということでも、憲政史上、初めてのことになる。7党1会派の連立であった細川連立政権にも、与党として労働組合に基礎を置く社会党が加わっていた。しかし、社会党が連立政権内で圧倒的な比重を占めているというわけではなかった。

 労働組合運動との関わりで言えば、鳩山政権こそ、日本における初めてのプロ・レイバー(労働組合寄り)政権である。このような政権の樹立はヨーロッパでは珍しいものではない。明確な政権交代が実現したことと併せて、日本もようやく先進民主主義国並みの政治レベルに達したということができる。
 ただし、この「労働組合寄り」という場合の「労働組合」は主として労使協調組合を抱える連合であり、全労連や全労協とは一線を画している。ここに、鳩山新政権の制約と限界もある。そのような制約や限界を突破し、労働者全体の要求を実現するために、連合や傘下の単産、民主党などに対する働きかけが重要になろう。
 とりわけ、焦眉の急となっている労働者派遣法の改正問題、国際公約となった温室効果ガス90年度比25%削減目標の実現、安保・外交問題での対米交渉などの点で、連合や民主党の動揺、後退を防がなければならない。政策制度要求の実現を求める世論形成において、労働組合運動はこれまで以上に大きな役割を果たす必要がある。

 その場合、新政権でどうなるのか、と問うてはならない。問うべきは、新政権でどうするのか、ということであろう。明日の政治は、明日の天気とは違う。「どうなるのか」ではなく、「どうするのか」という主体的な対応こそが求められる。
 それは、新政権の樹立をどう活用するかということである。「労働組合寄り」の政権が誕生したという有利な条件を、労働組合運動の発展と賃金・労働条件の改善のために、どのように活かすのかということでもある。
 政(族議員)・官・財(業界)の癒着による利益誘導型政治の跋扈と小泉構造改革によって破壊された生活と労働を立て直すために、新たな政治的条件を最大限に活用しなければならない。労働組合運動は、新しい条件を的確に捉えて攻勢に転ずるべきであろう。
 労働組合との関わりが深い政権だからといって、要求を自制すべきではない。運動の展開によって新政権が取り組むべき課題が明示されるからである。同時に、過った政策を阻止する運動からあるべき政策を実現する運動へと、その重点を変えることも必要となろう。

 希望を持って働き生活できる社会を生み出すことこそ、政権交代の目的だったはずである。新たな条件の下で、どこまでその目的に接近できるのか。その能力が、労働組合運動にも問われている。