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7月8日(水) 「骨太の方針2009」についてのコメント [論攷]

〔以下のコメントは、共同通信によって配信され、『埼玉新聞』『東奥日報』『佐賀新聞』の6月25日付に掲載されたものです。〕

「小泉の影」におびえ 改革めぐり党内に亀裂

 総選挙に勝つためには変えなければならないが、「小泉の影」におびえて変えきれなかったというところだろう。「骨太の方針2009」をめぐる一連の経過と内容を見ての感想である。
 自民党内には、小泉構造改革をめぐって明確な亀裂が存在している。今回もまた、そこからの反転をめぐる攻防が展開され、中途半端な形で決着した。
 第一に、「『骨太の方針二〇〇六』等を踏まえ、歳出改革を継続しつつ」という文言をめぐって激しいやりとりがあった。「骨太06」で示された毎年「社会保障費2200億円削減」こそ、障害者自立支援法、医療費の自己負担引き上げ、介護報酬や診療報酬の引き下げ、生活保護母子加算の段階的廃止、雇用保険国庫負担の削減、後期高齢者医療制度などをもたらした諸悪の根源であり、その撤回が求められるのは当然である。
 結局、与謝野馨財務・金融・経済財政担当相が、社会保障費を「来年度は削減はしない」と明言することで決着した。とはいえ、文言そのものは残った。
 社会保障費抑制反対の急先鋒だった尾辻秀久参院議員会長は以前、規制改革会議と経済財政諮問会議の「両会議は廃止すべきだ」と要求したことがある。「小泉構造改革路線から転換するかしないかの対立だ」と加藤紘一元自民党幹事長が指摘するとおり、転換を求められているのは小泉構造改革路線自体なのである。
 第二に、「骨太の方針」を作成した経済財政諮問会議の位置付けの低下がある。4月に発足した安心社会実現会議の「下請け機関」になってしまったからである。
 今回の「骨太の方針」には、「雇用を軸とした安心社会」や「新たな『公』の創造」などの文言が採用されている。いずれも、5月15日の安心社会実現会議に提出された文書の用語そのままであった。
 第三に、「規制・制度改革」という用語の登場である。すでに昨年の「骨太の方針2008」でも、「構造改革」「民間開放」「労働市場改革」は本文の記述から消えていた。今年はさらに実質的には規制緩和を意味していた「規制改革」という言葉が消え、「規制・制度改革」に置き換わっている。これは、制度改革には必ずしも規制緩和は含まれないとするためであろう。
 この言葉は、5月19日の経済財政諮問会議で初めて登場した。このとき、民間議員の三村明夫新日鉄会長は「新しい制度改革や規制緩和が必要になってくる」と説明している。「新しい制度改革」は「規制緩和」とは別ものとされているのである。
 このように、小泉構造改革路線からの反転は明らかだが、しかし、明確に転換したわけではない。有名無実化され「骨抜き」となったものの、「『骨太の方針2006』等を踏まえ」という「小骨」が残った。
 小泉構造改革路線はもはや継続できないが、かといって明確に転換することもできない。日本郵政の西川善文社長の続投をめぐる混乱も、このような麻生内閣の中途半端で不徹底な転換のゆえであった。
 同じような事情は「骨太の方針2009」にも影を落としている。その意味では、何事も決断できない麻生首相らしいものになったと言えるかもしれない。