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7月20日(月) 労務理論学会での質問に答える [日常]

 「3連休」だというのに、初日の18日(土)には労務理論学会で報告し、昨日の19日(日)も、終日、学会のシンポジウムに耳を傾けました。と言いたいところですが、会場の冷房が効きすぎて寒くなったので、少し早めに抜け出してきました。

 学会の会場となったのは、駒澤大学の深沢キャンパスです。深沢と言えば、私の学生時代には都立大学理工学部のキャンパスがあり、泊まり込んだこともあります。
 それに、留年した5年目の4年生の時、近くで下宿したこともありました。駒沢公園にも来たことがありましたが、木々も大きくなり、往時とはかなり様子が違っています。
 その駒沢公園と駒沢通りを挟んだ向かい側に新しくできたのが深沢キャンパスです。元は高級化粧品主体に販売していた三越デパートがあったということで、岡田元社長が愛人のために建てたと言われている「迎賓館」などはそのままです。

 立派な和風建築も残っていて、日本庭園もなかなかのものです。ここで昼食をご馳走になりましたが、座敷からの眺めは一幅の絵のようでした。
 隣の洋風の会館は、その昔、岡田社長解任の役員会が開かれた場所だそうです。このとき、解任決議を出された岡田社長は、ただひと言、「何故だ」と発するのみだったという話は有名です。
 首相官邸で、与謝野さんから暗に退陣勧告をされた麻生首相も、「何故だ」と言ったのかもしれません。しかし、プライドが背広を着て歩いているような麻生さんですから、それを素直に受け入れることはありませんでした。

 私が報告したのは、特別シンポジウム「規制緩和と労働・生活を考える」でしたが、この後、連合非正規労働センターの龍井葉二事務局長、全労連非正規雇用労働者全国センターの井筒百子事務局長、首都圏青年ユニオンの河添誠書記長の3人がコメント的な報告をされました。
 この後の討論を含めていくつかの質問を出されましたが、時間がなくて十分に答えることができませんでした。ここで、補足しておきたいと思います。

 第1に、「反転」についてです。経営者の対応や労働政策の見直しの状況を見れば、それほど「反転」が進んでいるようには思えないという指摘がありました。
 私の「06年転換説」は、この年に転換したという意味ではなく、転換が始まったというにすぎません。その後の進展については、分野や問題によって跛行性がみられ、一部には逆流もあるかもしれませんが、基本的に、その流れは今日も続いていると思います。
 「そうは言っても、現場は大変だ」というのが、直接、運動に関わっている方たちの感想なのでしょう。外から眺めている研究者と、中で奮闘されている労働運動家との受け取り方の違いが明らかになったのは、私にとっては大きな収穫でした。

 第2に、「第三の道」についてです。どうして、「福祉国家」と言わないのか、という質問がありました。
 第1の日本的雇用慣行や企業社会を特徴とする旧日本型、第2の新自由主義的なアメリカ型あるいはアングロ・サクソン型とは異なる路線という意味で、「第3」と言っているということです。その内容については、今後、詰めていく必要があるという意味で、「福祉国家」と特定していないだけです。
 それに、「福祉国家」と言えば、かつての否定的なイメージを引きずる可能性もあります。中南米諸国の反米・非米路線、EUの社会民主主義的路線や新福祉国家像などは十分、参考に値すると思いますし、それに学んで日本独自の新たな社会システムを構想すべきでしょう。

 第3に、これとも関連しますが、「企業社会」や旧日本型をどう評価するのかということが問題になります。日本的雇用慣行や企業社会には、雇用の安定や長期にわたる人材育成という面でのプラス面と、民間大企業男性正社員主体で非正社員との差別、性や年齢による差別、会社人間、過労死などを生みだしたマイナス面との二面性があるからです。
 解雇に消極的で生活保障的な面を含む年功賃金を制度化したのは労働運動の成果であり、限定された範囲だったかもしれませんが、賃金・労働条件の向上と経済成長に資する面がありました。したがって、全面的に否定してその解体をめざす場合、このような側面をどう評価するのか、という問題が出てきます。
 また、修正する場合には、マイナス面を排してプラス面だけを受け継ぐにはどうすべきか、という問題があり、復活・再生をめざすとすれば、マイナス面の再生をも黙認して良いのか、という問題が生じます。新たな社会システムを構想する場合、セーフティネットの確立と均等待遇の実現がカギだと思いますが、同時に、これらの問いに対する一応の回答が必要になるでしょう。

 第4に、資本主義というシステムとの関連があります。現在提起されている社会福祉の課題などは、このような枠組みの下で解決可能なのかという質問もありました。
 恐らく、将来的には、資本主義に代わる新たな経済・社会システムが必要になると思います。現代社会が直面している課題は、何らかの政治・社会的な制御を前提としなければ、最終的に解決できないように思われるからです。
 その課題というのは福祉の問題だけでなく、地球の資源や環境の問題もあります。資本の利潤拡大活動に任せておけば、資源も環境も食い尽くされてしまうにちがいありません。

 以上が、答えきれなかった私の回答です。ついでに、感想を一つ、述べさせていただきます。
 それは、このシンポジウムに出席された全労連の井筒さんが、和服を着て現れたことです。これには、意表をつかれると共に、大変、感心しました。
 労働組合の幹部が女性であることも重要ですが、その方が和服を着てシンポジウムに参加されたことは、労働組合や労働運動に対するステレオタイプ化された固定観念を打ち破るうえで、大いに貢献したにちがいありません。これは小さな事例かもしれませんが、しかし、どのような場合でも、新しい経験は小さな一歩から始まるものなのです。井筒さんのこの一歩を、高く評価したいと思います。

 なお、労務理論学会での私の特別報告は、来年2月刊行予定の『労務理論学会誌』に掲載されることになっています。その原稿をこれから書かなければならず、夏休みの宿題がまた一つ増えてしまいましたが、刊行されましたらご笑覧いただければ幸いです。

 さて、明日、衆院が解散され、いよいよ総選挙に突入です。自民党は大敗必至の情勢で、起死回生の挽回策としては解散後の記者会見で麻生首相が感動的な演説をして国民に訴えることだと言われています。
 でも、こういう大切なところで、漢字を読み間違えたり、思わぬチョンボをするのが麻生さんです。そういう意味でも、明日の記者会見は国民注視の下で行われるにちがいありません。