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7月10日(金) 今日の貧困と格差 [論攷]

〔以下の論攷は、労働科学研究所から発行されている『労働の科学』64巻7号(2009年7月号)の巻頭言「俯瞰(ふかん)」に掲載されたものです〕

今日の貧困と格差

 2008年の末、GDP世界第2位の経済大国の首都のど真ん中に、忽然と姿を現した「年越し派遣村」。食と住を求めて集まってきた「貧しき人々の群れ」は、現代の日本に存在しながら、それまでハッキリとは見えなかった一つの現実を私たちに突きつけました。それは、現代日本における「貧困」という現実です。貧困を可視化したという点で、この「村」の出現は大きな意味を持ったと言えるでしょう。
 長らく、貧困は過去のものと思われてきました。確かに、戦後の食糧難の時代には生存を脅かす「絶対的貧困」が存在しましたが、高度経済成長によって「物質的豊かさ」は達成されたかに見えました。その頃、問題とされたのは「心の豊かさ」であり、他と比較しての貧しさ、つまり「相対的貧困」でした。
 ところが、今また「おにぎり食べたい」という言葉を残して餓死者が出るような「絶対的貧困」の時代が訪れたのです。
 ただし、今日の貧困は、過去のそれとは異なる部分もあります。「絶対的」とは言っても、社会全体の富からすればそれは「相対的」なものだと申せましょう。日本の国富は十分にありながらも、分配の不均衡や再分配の不備によって、それが偏在しているからです。こうして巨大な格差が生まれました。その背景には、政治の貧困という現実があります。
 また、貧困の多様性も、今日の特徴であると言えるかもしれません。それは収入や富における貧しさだけではなく、職と住の不安定さや社会的安全網の不備などをも意味しているからです。未来に対する希望の喪失や、平然とクビを切って路頭に放り出すような経営者の心の貧しさなども、現代における貧困の構成部分であると言えるでしょう。唯一の救いは、年末年始を返上して「年越し派遣村」に集まったボランティアの心の豊かさでした。
 どのような社会にも格差はありますが、今日の格差は、このような貧困の増大によって拡大したところに特徴があります。富める者が富んだ以上に、貧しい者が貧しくなってしまったからです。これを解決するためには、貧しさをなくさなければなりません。格差を縮小するためには、貧困を根絶し、生活水準全体の底上げを図らなければならないのです。
 さし当たり、最低賃金の引き上げ、労働者派遣に対する再規制の強化、非正規労働者の均等処遇に向けての差別の禁止などが必要でしょう。このようにして、働いても生活できないワーーキング・プアを一掃しなければなりません。
 生活の安定と所得の増大によって堅実な内需を生み出し、収入減→内需の縮小→消費低迷→減産→収入減という「負のスパイラル」から抜け出すことが必要です。貧困の絶滅と格差の縮小こそ、そのための唯一の活路にほかならないのです。