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9月13日(木) 安倍辞任の背景  [首相]

 安倍首相の突然の辞意表明について、さまざまな憶測が飛び交っています。その後、いくつかの事実や事情も明らかになりました。
 何故、安倍首相はこの時点で辞めたのでしょうか。最悪のタイミングでの「敵前逃亡」は、どうして生じたのでしょうか。

 私は昨日のブログで、「シドニーでの記者会見でも、安倍さんはなんだか憔悴した感じでしたし、昨日は風邪をひいて早めに引き上げたそうです。それに、週刊誌で「隠し子問題」なども報じられていました。まさか、新しいスキャンダルの発覚などということはないでしょうね」と書きました。健康問題やスキャンダルも関連しているかもしれないと思ったからです。
 その後の報道によれば、これらの問題も深く関わっていたことが明らかになりました。ということは、安倍さんの辞任会見での説明は、ほとんど嘘だったということになります。

 安倍首相の辞任の意向をいつ知ったのか、と問われた麻生幹事長は、10日(月)の夕方、所信表明演説の後だったと証言しました。3日間、その「決意」が変わらなかったのだろうとも。
 ということは、民主党の小沢代表から党首会談について色よい返事がもらえなかったことが、辞任の主たる理由ではなかったということになります。それよりも3日も早く、「辞めたい」という意向を漏らしていたのですから。
 このような事情がありながら、辞任会見であのようなデタラメな説明を行った安倍首相は、最後まで国民を愚弄したということになるでしょう。辞意を漏らされていながら何の手も打たず、かくも異常な混乱状態を生み出したという点で、麻生幹事長も責任を免れません。

 安倍さんは、臨時国会が始まった時点で、すでにほとんどやる気を失っていたわけです。与謝野官房長官は健康問題を辞任の理由に挙げていましたが、憔悴していたことはテレビの画面からも明らかでした。
 安倍首相が疲れて気力が萎えていたことは事実でしょう。所信表明演説での読み飛ばしは、一つの兆候だったと思われます。
 しかも、内閣改造で「お友達」が周辺から去り、政権運営の中枢も麻生幹事長と与謝野官房長官に握られ、孤独感が募っていたとも言われています。国会開会日には「小泉チルドレン」の議員から厳しく批判され、首相の求心力低下を、またもや思い知らされました。

 これで、臨時国会が乗り切れるのだろうかと、安倍首相は大きな不安に襲われたに違いありません。「もう、辞めたい」という思いを募らせていたとき、ショッキングな事実を知りました。
 これが、『週刊現代』による、新たな金銭スキャンダルについての取材です。伝えられるところによれば、取材の申し出は火曜日にあり、水曜日までに質問への回答を求められていたそうです。
 その回答期限は、安倍首相が辞任会見を行った9月12日(水)の午後2時だったといいます。「政治とカネ」の問題で苦労し続けてきた安倍首相は、自分自身にそのような問題が持ち上がることを知った時点で、観念したのではないでしょうか。

 そこに飛び込んできたのが、民主党が党首会談に注文を付けているとの報告です。これなら上手い口実をつけて辞められるかもしれないと、おそらく安倍首相は判断したのでしょう。
 一方では、インド洋での自衛隊の給水活動の継続に進退をかけたという「大義名分」を得ることができます。他方では、「悪いのは小沢だ」と責任を相手に押しつけることもできます。
 急転直下、安倍首相は辞任表明を決断したのでしょう。こうして、辞任会見に臨んだ安倍首相は、国民の見ている前で大嘘をついたのです。

 安倍首相の辞任そのものは、「お前は、もう死んでいる」と書いてきた私からすれば、あまりにも当然のことです。本来なら、参院選の投開票日であった7月29日に辞任するべきでした。
 所信表明演説後で代表質問が始まる直前の時点での辞任は常軌を逸しており、許されるものではありません。国民と国会を馬鹿にしています。
 あまりにも、遅きに失した決断だと言わざるを得ません。安倍さんとしても、参院選で大敗した時に辞任していれば、このような醜態を演ずることも、日本の政治史にこれほどの汚点を残すこともなかったでしょう。

 いずれにしても、今回の政変は先の参院選の結果がもたらしたものにほかなりません。国民の審判が、最終的には安倍首相を追い込んだということです。
 民主主義が正常に作動した結果であるとも言えるでしょう。選挙の審判を無視して居座ろうとした安倍首相ですが、結局はその結果に従わざるを得なくなりました。
 今頃、安倍さんは民意の怖さをかみしめているに違いありません。もっと早く、そのことに気づきべきでした。それが分からなかったところに、安倍さんの政治家としての決定的な弱点があったのではないでしょうか。

 さて、今後の政局です。後継総裁の最有力者は麻生さんだと見られています。というより、参院選投票日の官邸での密談で、麻生さんは安倍さんに「後はあなたに」との密約で釣られたのでしょう。
 自民党幹事長への就任も、このときの密約に基づくものだったと思われます。ただ、あまりに早く、あまりにも異常な形で辞めることになったために、安倍さんは麻生さんに禅譲する力を失ってしまいました。
 後は、麻生さんが自力で総裁の椅子を掴むしかありません。しかし、誰が後継者になっても、前途の道が「地雷原」のような多難なものであることに変わりないでしょう。

 安倍さんの辞任によっても、局面が転換することなどあり得ません。報道されるであろう安倍さん自身のスキャンダルもあります。
 新しく構成される内閣は、閣僚の「身体検査」などやっている余裕はないでしょう。「政治とカネ」の問題は収まらず、年金問題でも新しい事実が暴露される可能性があります。
 自民党総裁選の投票日は9月23日になりましたから、審議時間が少なすぎてインド洋での海上自衛隊の給油活動の継続は、ほぼ不可能になりました。国会審議で給油活動の実態が明らかになれば、活動継続の意味自体が問われることになるかもしれません。

 後継政権が、いずれは「地雷」を踏むことになるのは避けられないでしょう。それが大きな爆発となって国民生活に害を及ぼす前に、解散・総選挙による「人心一新」を図って欲しいものです。


9月12日(水) 安倍辞任は「無責任、極まれり」  [内閣]

 職場の研究所に、『東京新聞』の記者から電話がかかってきました。先日、自宅まで取材に見えた方です。
 「テレビのニュース、ご覧になりましたか」「エッ ニュース? 見てませんけど」
 「安倍首相が辞意を表明しました。辞めるそうです」「エエッ!?」

 驚きました。この時点での総理辞任なんて、思いもよりませんでした。
 感想を聞かれ、辞任の原因について問われました。インド洋での給油を継続する新法の問題で、小沢さんから党首会談を断られたのが一番大きいんじゃないかと答えました。
 シドニーでの記者会見でも、安倍さんはなんだか憔悴した感じでしたし、昨日は風邪をひいて早めに引き上げたそうです。それに、週刊誌で「隠し子問題」なども報じられていました。まさか、新しいスキャンダルの発覚などということはないでしょうね。

 ということで、テレビで午後2時からの安倍首相の記者会見を見ました。疲れ切ったような表情です。
 安倍首相の説明した最大の辞任理由は、やはり、新法成立の見通しが立たないことでした。まともに行けば時間がかかり、給油活動の中断は避けられません。そこで、党首会談を開いて、民主党の言い分を聞いて自分のクビを差し出すから、何とか新法の早期成立に協力して欲しいと裏取引をするつもりだったのでしょう。
 ところが、小沢さんは会談を断ってしまいました(民主党側は会談を申し込まれていないと言っているようですが……)。しかも、その理由は安倍さんが民意の支持を失っているということです。つまり、総理・総裁が安倍さんであるうちは、民主党との党首会談による密室での取引は不可能だということになります。

 こうして、安倍さんは新法成立の最大の障害が、自分自身であると思い込んだのでしょう。給油活動の中断を避けるためには、できるだけ早いうちにこの障害を取り除くべきだと決断したわけです。
 ということであれば、小沢さんは、またしても「壊し屋」としての威力を発揮したことになります。羽田連立政権を潰し、新進党を解党し、小渕元首相の突然死の一因となり、今度は、安倍首相の辞任を引き出しました。
 今度ばかりは、こう言いましょう。「小沢さん、良くやった。これからも妥協したら駄目ですよ」

 しかし、理由はどうあれ、このようなタイミングで、このような形での辞任が許されるのでしょうか。『東京新聞』の記者に感想を問われた私は、「無責任、極まれり」と答えました。
 だってそうでしょう。APEC首脳会議でブッシュ米大統領に給油継続を「国際公約」し、帰ってきて臨時国会を召集したのは安倍さん自身ではありませんか。月曜日に所信表明演説を行い、今日からは本会議での代表質問が始まろうとしていました。
 軍隊でいえば、隊列を整えて指揮官が突撃命令を出したということになります。両軍が激突して戦闘が始まるその直前、突然、指揮官が「俺は辞めるぞ」といって戦線を離脱し、敵前逃亡したようなものではありませんか。

 最悪のタイミングでの辞任表明だと言って良いでしょう。しかも、それはあくまでもインド洋での給油活動を中断させないための方策です。
 安倍さんにとっては、「アメリカ、命」ということなのでしょう。アメリカと勝手に「国際公約」を行って日本政府を縛り、その実行を確実にするために自らの職を投げ出したわけですから……。
 安倍首相にとっては、国民の審判や「改革の続行」などよりも、アメリカとの約束の方が大事だったのです。国民のために犠牲になるよりも、アメリカのために首相の地位を投げ出す道を選んだわけですから……。

 「私のクビを差し出しますから、新法を通してください」と、安倍さんは小沢さんにメッセージを送ったつもりなのでしょう。しかし、「壊し屋」としての本領を発揮し、「そうは問屋が卸さない」ということを示してもらいたいものです。
 頼みますよ、小沢さん。


9月11日(火) 大切なのは国民よりもアメリカなのか [国会]

 「安倍首相、『お前は、もう死んでいる』」と書いたのに、その安倍首相が、「言うこと聞いてくれなかったら、死んじゃうもん」と、脅しをかけてきました。懲りない人ですね。
 「もう死んでいる」人が、「死んじゃうもん」と言ってみても、「ああ、そう」と言われるだけでしょう。それが、この人には分からないようです。

 昨日、国会衆参両院の本会議で安倍首相の所信表明演説が行われました。参院選大敗について「深い反省」を表明したものの、自身に対する退陣論については「改革を止めてはならない」と続投の決意を示し、「改革の影の部分に光を当てる」と小泉前政権以来の成長重視路線の修正を示唆しました。インド洋での給油活動については、「国際社会における責任を放棄して、本当にいいのか」と、活動継続を訴えました。
 この国会開会日に話題をさらったのが、海上自衛隊の給油活動の継続に関して、「職を賭して取り組んでいく」、「私のすべての力を振り絞って職責を果たしていかなければならない。職責にしがみつくことはない」という安倍首相の発言でした。
 「職責」というのは「職務上の責任」を意味するもので、「職責を全うする」とは言いますが「職責にしがみつく」などという言い方はありません。多分、安倍首相は「職責」ではなく、「職席」と言ったのでしょう。

 私は9月6日付のブログで、「ヒョッとしたら、安倍首相はテロ対策特措法の延長を条件に自分のクビを差し出すつもりなのかもしれない」と書きました。また、この報道に接する前に書いた9月9日のブログでも、「『公約』が果たせなかった場合、首相を辞任するということでしょう」と指摘しました。
 したがって、安倍さんの発言は、私にとっては意外でも何でもありません。「やっぱりそうだったのか」と思っただけです。
 しかし、だからといって、この発言を見逃すことはできません。それは、以下のような重大な意味を孕んでいるからです。

 第1に、安倍さんの発言は、海自の活動継続に安倍内閣の命運をかけるという判断を行ったことを意味しています。それだけ、この問題は重要だと言いたいのでしょう。
 しかし、今度の臨時国会で審議される法案は数多くあるはずです。「政治とカネ」の問題、社会保険庁の在り方や年金問題、公務員改革、安倍さん自身が「改革の影の部分」と言った貧困と格差の拡大、あるいは、6ヵ国協議と北朝鮮による拉致の問題など、安倍内閣が取り組むべき課題は山積しています。
 これらの数ある問題と比べて、アメリカの軍艦にただで燃料をあげ続けることが、そんなに重要だというのでしょうか。これを今国会で取り組むべき最重要なものと位置づけた点に、国民生活を守ることよりもブッシュ大統領との約束を守ることの方を優先していることが明瞭に示されています。

 第2に、参院選の大敗によって、安倍退陣論が巻き起こったとき、安倍さんは何といったでしょうか。「改革を継続するためには、辞めるわけにはいかない」と言ったはずではありませんか。
 同様に、今回の所信表明演説でも、「『わが国の将来のため、子どもたちのために、この改革を止めてはならない』。私はこの一心で、続投を決意しました」と述べています。しかし、安倍さんが進退をかけると言っているのは、「経済・行財政の構造改革はもとより、教育再生や安全保障体制の再構築を含め、戦後長きにわたり続いてきた諸制度を原点にさかのぼって大胆に見直す改革、すなわち、戦後レジームからの脱却」ではなく、アメリカにただで油をあげることです。
 「改革のための続投」と言いながら、「改革」とは何の関係もない海自の活動継続に「職を賭して取り組む」というのは可笑しいじゃありませんか。安倍さんですから、この矛盾に全く気づいていないのは当然でしょうが、それにしてもお粗末な限りです。

 第3に、今回の安倍さんの発言は、参院選での大敗には責任を取らないけれども、アメリカ相手の「無料ガソリンスタンド」の閉店には責任を取るということを意味しています。安倍首相は、一体、どこの国の首相なのでしょうか。
 これは、参院選挙で示された民意よりも、アメリカの意向の方を尊重するという判断にほかなりません。この論理の転倒。対米追随もきわまれりと言うべきでしょう。
 安倍さんにとって、大切なのは国民よりも、アメリカなのでしょう。国民の言うことは聞かなくても、アメリカの言うことは聞くというのですから……。

 安倍さんの「職責にしがみつくことはない」という発言によって、インド洋での海自の活動継続問題が臨時国会での焦点に急浮上しました。国民生活にはほとんど関係のない問題に注目が集まることで、政治とカネ、社保庁職員の横領・着服、年金、貧困問題などが後掲に退いてしまう可能性があります。
 ヒョッとして、これは安倍さんの高等戦術だったのかもしれません。政府・与党の責任が問われ、不利になる問題から野党・マスコミや国民の目をそらすための……。


9月9日(日) テロ対策特措法延長阻止の意味 [国会]

 明日から臨時国会が始まります。この国会での最大の焦点は、テロ対策特措法の延長問題です。

 アジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議に参加するためにオーストラリアを訪れた安倍首相は、ブッシュ米大統領との会談でインド洋での海上自衛隊(海自)の給油活動の継続を約束しました。同行記者団との懇談でも、これは「対外的な公約であり、私の責任は重い。約束を果たすため、すべての力を出す」と語りました。
 何という愚かな。一方で、できもしないことを「公約」し、他方で、対外的な「公約」だから実行しなければならないなんて……。
 「もう、約束しちゃったから、何とかして欲しい」と言いたいのでしょう。対外公約を国内政治への圧力として利用しようというわけです。これでは、「ガイアツ」による政治の歪みそのものではありませんか。

 安倍首相は、海自の活動継続のためなら手段を選ばないつもりのようです。首相は「どういう法的な担保にするかは工夫の余地がある。新法を考えるのであれば、どういう形にするかも政府・与党で考えなければならない」と述べ、新法を検討する姿勢を示したからです。
 何故、テロ特措法の延長ではなく、新法を提出しようとしているのでしょうか。与党にとってのメリットはどこにあるのでしょうか。
 その一つは、11月1日の期限が切れても、新法が審議中であることを理由に海自の活動を継続できるからです。もう一つの理由は、新法なら、民主党など野党の言い分を十分に盛り込むことができ、妥協をはかりやすいからでしょう。

 しかし、その場合であっても、民主党が賛成するとは限りません。テロ特措法の延長にしても新法の成立にしても、安倍首相にとっては極めて困難でしょう。
 民主党は、安易に妥協してはなりません。十分な審議を通じて、テロ特措法の問題点を明らかにするだけでなく、アメリカが進めてきた「テロとの戦い」の誤りや不毛性をも明らかにする必要があります。
 この問題について、今日の『東京新聞』朝刊に「米同時テロ6年 出口見えない戦い 特措法の行方」http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2007090902047578.htmlという見出しの下、私と森本敏拓殖大教授の談話が出ています。私の談話は「効果疑問 延長阻むべき」という表題で、次のようになっています。

 ブッシュ米大統領が始めた「対テロ戦争」だが、軍事力では問題を解決できないどころか、憎悪や復讐(ふくしゅう)心を強め、テロの温床を拡大させた。日本はテロ特措法を延長しないことで、対米追従の姿勢から転換し、ブッシュ路線の誤りを指摘しなければならない。
 アフガニスタンやイラクにおける対テロ戦争の米軍兵士の死者は、既に9・11テロでの犠牲者数を上回った。力で抑えつけるほど反米感情は高まり、自爆テロの志願者が増えるだろう。
 アフガンでは米軍機の誤爆に多くの市民が巻き込まれ、旧タリバン勢力も復活しつつあるのが現実だ。
 自衛隊のインド洋における支援活動も、テロ対策に効果を上げているとは言えず、そこにテロ特措法の根本的な問題がある。実際、自衛隊の補給実績は減少。ブッシュ大統領が欲しいのは燃料ではなく、国際的な孤立の中での日本の協力という政治的な意味合いだ。
 また、自衛隊の活動実態をめぐっては詳しい情報が明らかでなく、「特措法が定めた範囲を踏み越えているのでは」との疑念がぬぐえない。
 日本側から給油を受けた米国などの艦船から飛び立った航空機が、アフガン以外でも活動をしていないのか。近隣にはイランやイラク、ソマリアといった国もある。
 民主党は真正面から国会審議に臨み、テロ特措法の抱える多くの問題点を明らかにした上で延長を阻むべきだ。政権交代が可能な力があるのか、試される場となるだろう。

 この私の談話と一緒に掲載された「国際協力もっと説明を」という森本教授の談話は、海自の活動の継続を求めるもので、私とは正反対の主張になっています。これについて、4点だけ疑問を提起しておきましょう。
 第1に、森本さんは、「テロ組織は、イラン経由の陸路とパキスタン経由でインド洋に出る海路を通じて麻薬を運び出し、資金や武器弾薬を入手している。特に海路は欧州、アジアでのテロ活動に使われており、だからインド洋での阻止活動には米英だけでなく仏、独、パキスタンなども参加している」と語っています。このような「海路」を通じた「テロ活動」を阻んだ実績があるのでしょうか。「インド洋での阻止活動」によって、一体何人の「テロリスト」が逮捕されたのか、ご存知なのでしょうか。

 第2に、「海上自衛隊による参加国艦船への給油活動は、米から強い要請があるのは事実だ。だが、米の外交軍事姿勢に一線を画す仏、独、イスラム教国で米国から艦船への補給を受けたくないパキスタン海軍などにとっても、日本の給油は実は非常に重要なのだ」と仰っています。それでは、「パキスタン海軍」は自衛隊からどれほどの「給油」を受けているのでしょうか。パキスタン海軍はフリゲート艦1隻しか派遣していないというのはデタラメなのでしょうか。

 第3に、「今、インド洋から海上自衛隊が引き揚げたら、各国の活動は大きく停滞するだろう」とも仰っていますが、すでにインド洋での海上補給活動のレベルは低下しています。このような状況の下で、「各国の活動は大きく停滞する」とはどのような事態を指しているのでしょうか。

 第4に、森本先生は、「特措法延長は、決して対米追従ではなく、国際的なテロ阻止活動にとって必要だということを政府はもっと国民に説明すべきだ」とも、語っておられます。「国際的なテロ阻止活動」の重要性は、私にも十分理解できます。それに反対しているわけではありません。
 問題は、アメリカが始めた「テロとの戦い」が、「国際的なテロ阻止活動」になっていないのではないか、逆に、「国際的なテロ増大活動」になっているのではないのか、という点にあります。アフガンやイラクにおいてもテロ活動は増大し、スペイン、イギリス、インドネシア、アルジェリアなどにまで、国際テロが拡大しました。このようなアメリカの「国際的なテロ増大活動」に自衛隊が協力することは正しいのでしょうか。

 森本先生とは、一度、日本テレビの「太田総理」の番組でご一緒したことがあります。もし今度、お会いすることがありましたら、これらの点についてご意見をうかがいたいものです。

さて、臨時国会でのテロ対策特措法の延長にしても新法の制定にしても、これを断固阻止するべきだというのが、私の主張です。それには、さし当たり、3つの意味があるからです。

 第1に、日本の外交・安全保障政策の歪みをただし、憲法の枠内に引き戻すことです。「テロとの戦い」に日本も参加し、国際的な安全と平和のために貢献することは当然ですが、しかし、それは非軍事的な領域で非軍事的な手段によって行われなければなりません。
 この点で、日本は憲法9条の制約があるのだということ、だから日本は武力の行使や武力による威嚇によらない形で国際貢献を行うのだということを、改めて国際社会に明示する必要があります。
 以前はアメリカも、この「憲法上の制約」を理解していましたが、この間の日本政府の誤った対応によって軍事的貢献への「期待値」が高められ、このような「制約」に対する配慮を忘れてしまったようです。インド洋から海自が引き上げることは、このような憲法上の「制約」を、アメリカはじめ各国に思い起こさせるうえで極めて効果的でしょう。

 第2に、改憲と「戦後レジームからの脱却」という誤った「野望」を捨てていない安倍首相の命脈を絶つことです。オーストラリアでの記者懇談で、安倍首相は衆院解散について、「今、全く考えていない」と述べ、海自の活動継続ができなかった場合や参院で首相の問責決議案が可決された場合の対応としても「解散は考えていない」と明言しました。
 つまり、一方で、「対外的な公約であり、私の責任は重い」と言い、他方で、「解散は考えていない」と言ったわけです。「公約」が果たせなかった場合、首相を辞任するということでしょう。
 自分のクビを差し出す代わりに海自の活動継続を可能にして欲しいと、民主党などに取引を持ちかけるつもりなのかもしれません。そのようなことを許さず、海自をインド洋から引き揚げさせ、同時に、安倍首相に引導を渡すことが必要です。

 第3に、アメリカを「対テロ戦争」の泥沼から救い出すチャンスとすることです。アメリカはベトナム戦争の教訓に学ぶこともせず、イラクでもアフガンでも「泥沼」状態に陥りました。
 このような状態からどのようにして抜け出せるのか。ブッシュ米大統領は「出口戦略」で苦悩しているにちがいありません。
 すでに、多くの国が引き揚げています。イラクのバスラからは、イギリス軍も撤退を始めました。これに続いて日本の海上自衛隊がインド洋から引き揚げれば、ブッシュ大統領を目覚めさせることができるかもしれません。
 海自の引き揚げによって日本が手を引けば、ブッシュ大統領には政治的な打撃となるでしょうが、そのためにかえって、アメリカ軍の撤退を早めることになります。「泥沼」の中で呻吟している米軍兵士に救いの手をさしのべることになり、ひいては、ブッシュ大統領を救うことにもなるでしょう。

 なお、この問題については「テロとの戦い」の役に立たなくても、日米同盟のためには引き揚げてはならないという主張があります。アメリカにとって海自は「側にいてくれるだけでいい。黙っていてもいいんだよ」というわけです。
 これは、「テロ対策」というよりも、「アメリカ対策」のための継続論にほかなりません。しかし、同盟維持のためだからといって、何でも相手の言うことを聞かなければならないというのは暴論です。
 この程度のことでヒビが入るなどと心配するのは、日米同盟への信頼が欠けているからだと言わざるを得ません。日米間の結びつきは、海自が引き揚げたくらいでガタガタするほどヤワなものなのでしょうか。

 また、北朝鮮との関係や拉致問題との関連を指摘する議論もあります。「テロとの戦い」でアメリカに協力しなければ、拉致問題の解決でアメリカの協力が得られないというのです。
 しかし、このような議論はすでに破綻しています。北朝鮮のテロ国家指定解除は既定路線となっており、アメリカは日本政府を「裏切った」からです。
 アメリカは、かつて頭越しでの米中和解を行い、今度もまた頭越しでの米朝和解を行いました。日本政府は、2度もアメリカに「裏切られた」ことになります。
 イラクのサマワに陸自を送り、インド洋では海自によってただの燃料補給を行うなど、「テロとの戦い」に協力したにもかかわらず、日本はアメリカによってこのような仕打ちを受けたのです。いつまで、アメリカに義理立てするつもりなのでしょうか。

 外交・安全保障政策を自主的自立的に決定することは、独立国としての最低限の条件でしょう。今度の臨時国会は、日本という国が、このような条件を備えているかどうかが試される、極めて重要な機会になるにちがいありません。


9月8日(土) 祝!! タイガース首位到達 [文化・スポーツ]

 とうとうやりました。阪神タイガースが巨人に勝ち、セリーグの首位に到達です。
 祝!! 阪神タイガース。9連勝での首位到達、おめでとう。

 昨日は乱打線を征し、今日は投手戦を征しました。単行本『労働政策』の原稿を書かなければならないというのに、昨日も今日も、最後まで野球中継を見て(聞いて)しまいました。
 でも、昨日の中継は、9時前の良いところで終わってしまったのです。点数は8対6でタイガースが勝っています。
 これで、久保田が出てくれば、楽勝のはずでした。しかし、「このままで終わるはずがない」と思った私は、ラジオをかけて続きを聞いたのです。

 すると、案の定、2発のホームランを打たれて、あれよあれよという間に8対8の同点です。「久保田、どうした」と、ラジオに向けて声をかけてしまいました。
 そこで、登場したのが代打の桧山です。「桧山、頼むぞ」と、心の中で叫んだときです。
 ラジオから「ワー」という喚声と、中継するアナウンサーの興奮した声が聞こえてきました。どうした。打ったのか。

 打ったも何も、桧山が打ったのはホームランです。とうとう、9対8と勝ち越しました。
 「良くやった。桧山」 
 もう大丈夫です。後は、「守護神」藤川がいます。
 タイガースは、このまま逃げ切って8連勝となりました。7本のホームランを打って8点を取った巨人の「空中戦」に、四球や単打などで8点を取った阪神の「地上戦」の勝利です。最後は、桧山の一本に救われましたけれど……。

 そして今日。首位巨人と2位阪神との差は0.5ゲームです。阪神が勝てば、逆に0.5ゲーム差を付けて首位に到達できます。
 「先発は下柳か」という予想を覆して、安藤でした。けがで出遅れた安藤は、ホームランを打たれた一球を除いて、素晴らしいピッチングでした。
 野球の神様は、ご褒美を下さったのです。交代した直後に葛城がホームランを打って、安藤は勝ち投手になりました。

 この葛城のホームランが決勝点です。最初の一点は、先頭打者の鳥谷が初球を叩いてホームランとしたものでした。
 巨人は、李が打ったホームランの一点だけです。結局、2対1で阪神が勝ったというわけです。
 明日、もう一試合あります。これでは仕事になりません。でも、こんなに嬉しい毎日が送れて幸せです。

 仕事なんか、どうでも良いじゃありませんか。人生には、仕事よりも大切なことがあるんです。
 阪神イガース、明日も頑張れ。巨人に大勝して、うまい酒を飲ませてくれ!!

 なお、『東京新聞』に取材されたテロ対策特措法についての談話は、明日の紙面で報道されるそうです。掲載されましたら、ご笑覧いただければ幸いです。


9月6日(木) なぜ、『読売新聞』のスクープだったのか  [スキャンダル]

 台風直撃を前に、風雨が強まった1日です。その雨の中、わざわざ都心から『東京新聞』の記者の方が、我が家まで取材に見えました。

 「9.11同時多発テロ」の7周年を前に、テロ対策特措法の問題について話を聞きたいと仰るのです。9月10日頃の紙面に出したいということで、時間がありません。
 今は夏休み中であまり研究所に出ていませんし、本の原稿を書き始めましたので、外に出たくありません。それに、この雨です。
 そこで、申し訳ありませんが、わざわざ自宅までご足労願ったというわけです。台風が近づく中、ご苦労様でした。

 昨日は、いつもの『日刊ゲンダイ』とAP通信の記者から、電話がありました。内容は、言わずとしれた鴨下環境相などの「政治とカネ」の問題です。
 報道だけでは良く分からないところもありますが、1000万円と200万円を書き間違えたなんて、「本当かいな?」と思ってしまいます。鴨下さん本人は「ずさんと言われれば、甘んじて受けなければならない。反省している」と話しているそうですが、もしそうだとしても、金銭感覚が麻痺していると言わざるを得ません。
 例によって、安倍首相は「記載ミスと聞いている。記載ミスなら、訂正しないといけない。よく説明してもらいたい」と、他人事のように語るだけです。「内閣を去ってもらう」との方針を示していることについても、「誤記であれば、それに当たらないのではないか」と述べ、またしても鴨下さんをかばっています。

 この問題は、昨日の『読売新聞』の朝刊がスクープしました。夕刊で各紙が追い、鴨下さんの釈明会見、テレビでの報道、そして今朝の朝刊各紙での追加報道という経過を辿りました。
 辞任した遠藤前農水相とよく似た経過です。ただし、大きく異なるのは、遠藤さんの場合、スクープしたのは『朝日新聞』で、今回は『読売新聞』だったということです。
 問題は政治資金に関わっており、一定期間の調査がなければ分かりません。遠藤さんについては『朝日新聞』が追い、今回の鴨下さんについては『読売新聞』が調べたというわけです。

 『読売新聞』? 安倍さん嫌いの『朝日新聞』なら分かります。しかし、政府に近いとされている『読売新聞』とは?
 ここで思い出されるのが、参院選後に出た『産経新聞』の記事です。8月29日付の「内閣改造 土俵際の再出発】(下)本気だった『倒閣』」という記事は、次のように書いていました。

 2日後の7月31日。東京・汐留の高層ビルの一室で、参院選で瀕死(ひんし)の痛手を受けた安倍政権を揺るがす密談が繰り広げられていた。
 「メディア界のドン」といわれる人物が主催する秘密会合に顔をそろえたのは派閥領袖級の4人。元副総裁の山崎拓、元幹事長の加藤紘一、元幹事長の古賀誠の「新YKK」、そして元厚相、津島雄二だった。
 誰とはなく「安倍はもうダメだ。世論が分かっていない。一気に福田擁立でまとめよう」と声を上げると、新YKKとは一線を画していた津島も「あの人(安倍)には人の暖かみを分かる心がない。『正しいことさえ言っていれば人は分かってくれる』と思いこんでいる」と応じた。
 くしくも同じ夜、森は別の会合で「次の内閣改造のキーワードは『安心』と『安全』だ。失敗すると安倍は厳しい」と語り、福田、谷垣の入閣が政局のカギを握るとの見通しを示し、こう言った。
 「どんなに追い込まれても、安倍に解散はさせない」
 森のこの言葉は一気に広まった。加藤らは「福田擁立で各派がまとまれば森は乗ってくる」と手応えを感じた。この後新YKKが不気味なほどに沈黙したのは、それだけ「倒閣」が本気だったことを示していた。

 問題は、ここに登場する「『メディア界のドン』といわれる人物」です。おそらく、読売新聞社主の「ナベツネ」こと渡邉恒雄さんでしょう。
 ということは、ナベツネが秘密会合を主催し、自民党元副総裁の山崎拓、元幹事長の加藤紘一と古賀誠、元厚相で津島派の津島雄二会長の4人が顔を揃え、「安倍はもうダメだ。世論が分かっていない」などと話し合っていたということになります。
 今回の鴨下さんの借入金不実記載のスクープに、ナベツネが絡んでいたかどうかは分かりません。しかし、『読売新聞』ですら、安倍さんを見離しつつあることは確かなようです。

 鴨下さんだけでなく、若林農水相の政治団体代表が補助金団体代表も兼任していたという報道や上川少子化相に貸付金の記載漏れがあり、資産等報告書を訂正するなどの問題も報道されています。
 農水相を辞任した遠藤さんについても、追加の報道がありました。自らが組合長を務める農済組合の一組合員当たり補償額が、なぜか25年連続で全国一であったり、遠藤さんの設立した自動車学校が国有地を不法占有していたりしていたというのです。
 まさに、地獄の蓋が開いたような報道ぶりです。これで、安倍さんは臨時国会に臨めるのでしょうか。

 今日の『東京新聞』記者の取材を受けながら、「ヒョッとしたら、安倍首相はテロ対策特措法の延長を条件に自分のクビを差し出すつもりなのかもしれない」と思いました。しかし、テロ対策特措法の審議が山場を迎えるまで、安倍首相はその地位にとどまることができるのでしょうか。

 なお、今、書いている原稿は、『労働政策』という表題で、日本経済評論社から出版される予定です。一応、序章の3分の2ほど書きました。来月末までには、ひととおり書き上げたいと思っていますが、果たしてどうなりますでしょうか。
 ということで、このブログに書く頻度が落ちると思いますが、このような事情ですので、ご了承下さい。


9月3日(月) 安倍首相、「お前は、もう死んでいる」 [内閣]

 「お前は、もう死んでいる」
 この言葉は、1983年から『週刊少年ジャンプ』で連載が始まった漫画「北斗の拳」の主人公、ケンシロウの決めゼリフです。まだ、息はしているものの、すでに致命的な打撃を与えられ死が避けられない相手に、ケンシロウはこう言います。
 そして、私も安倍首相に対して、こう言わざるを得ません。「お前は、もう死んでいる」

 とうとう、遠藤さんもアウトです。今日午前、遠藤農水相は組合長を務める農業共済組合の補助金不正受給問題の責任をとって安倍首相に辞表を提出し、与謝野官房長官は後任に若林正俊前環境兼農水相を充てることを発表しました。
 また、政治資金収支報告書への会議費の重複計上が発覚した坂本由紀子外務政務官も辞任しました。玉沢徳一郎元農相も政治資金収支報告書に添付した領収書のコピーを改ざんし、多重計上していた責任をとって衆院政治倫理審査会長を辞任していましたが、さらに今日、自民党を離党しました。もう、ボロボロですね、これは。
 内閣改造からわずか1週間で閣僚、政務官、衆院政治倫理審査会長が相次いで辞任したということになります。当然、これらの人々を役職に就けた安倍首相の任命責任や危機管理能力が問われなければなりません。

 このような事態が相次いだことに対し、官邸による「身体検査」の甘さが指摘されています。参院選の後、内閣改造まで時間をかけたはずではないか、一体、何をしていたのか、というわけです。
 しかし、問題は「身体検査」で見つからなかったということではありません。「身体検査」をクリアできるような健康体の人がいないということ、“スネに傷持つ”者ばかりだというところにこそ、本質的な問題があります。
 私は、8月11日のブログ「誰が『身体検査』をクリアできるのか」で、次のように書きました。遠藤さんも「健康体」ではなく、「『傷』の一つや二つ、すぐに見つかってしまう」ような人だったのに、すり抜けてしまったということになります。

 つまり、誰でも、過去においては「スネに傷」を抱えています。「身体検査」をすれば、このような「傷」の一つや二つ、すぐに見つかってしまうところに深刻な問題があります。
 その結果、「身体検査」をクリアできた人が誰もいなかったなどということになったら、どうするのでしょうか。安倍首相が抱えている悩みは、「身体検査」が不十分だということではなく、閣僚候補に健康体の人がほとんどいないということなのではないでしょうか。

 さて、今回の件で、野党は問責決議という武器の威力に目覚めてしまいました。早速、民主党の鳩山幹事長は、安倍首相に対する問責決議案提出の可能性を示唆しています。
 もし、参院に問責決議案が出されれば、ほぼ確実に成立します。衆院で可決される不信任決議とは異なって、問責決議には道義的な意味しかありませんが、参院で問責された首相が出席する国会に、野党は出てこなくなるでしょう。国会をボイコットする大義名分が与えられることになります。
 審議は全面的にストップし、テロ対策特措法などの重要法案は宙に浮いてしまいます。結局、安倍首相は辞職するか、解散・総選挙に打って出るか、どちらかを選択せざるを得ません。

 このようなシナリオを避けるためには、問責決議案によって「責任を問われる」ような事態を生まないように気をつける必要がありました。民主党などにしても、何の問題もないのに闇雲に決議を出すなどということは不可能だからです。
 問題は世論です。問責決議案を出すことを是とするか否とするか、世論動向を見極めなければなりません。
 そこで生じたのが、今回の遠藤農水相などの辞任です。安倍首相にとっては大きな失点であり、内閣支持率は急落するにちがいありません。そうすれば、問責決議案を出しても、世論の支持が得られる可能性があります。

 こうして、野党は大きな武器を手に入れました。その威力に目覚め、しかも、いつでも使えると判断しているようです。
 改造内閣の躓きによって、野党は安倍首相の息の根を止めることができる「生殺与奪の権」を手に入れたということになります。安倍首相に、「お前は、もう死んでいる」と言っているのは、私ではありません。野党です。

 安倍改造内閣が発足したばかりで、まだ臨時国会も始まっていないのに、「政権末期」という雰囲気になってきました。解散・総選挙は、予想以上に早まりそうです。


9月2日(日) さあ、どうする安倍さん  [内閣]

 「農水省は鬼門だ」と、安倍さんは考えていることでしょう。その「鬼門」のトップに据える人です。もっと慎重に選ぶべきだったでしょう。
 少なくとも、「一番最後まで残ったポストを私に割り振られたわけですから、参ったなと実は思いましたよ。ここだけはこない方がよかったというくらい」と本音を漏らすような人を据えるべきではありませんでした。

 その遠藤農水相の補助金不正受給問題です。その後も、批判は高まり続け、農水相の進退問題に発展することは避けられない情勢です。
 この問題について、安倍首相は「補助金の運用については公正でなければならない」とコメントしました。そのうえで、「(国民の)質問、疑問があればしっかりと答えていかなければならない」と、説明責任を果たすよう求めました。
 相変わらず、トンチンカンな受け答えです。補助金の運用が公正でなければならず、疑問があればしっかりと答えるべきことは当然のことでしょう。当たり前すぎて、答えになっていません。

 問題は、そのような公正な運用を行っていなかった人物を、その監督官庁のトップに据えてしまったことであり、その任命責任について、安倍さん本人がどう考えているかということです。遠藤さんは記者会見で疑問に答えていましたが、問題は、安倍さん自身がその説明で十分だと考えているかどうかでしょう。
 安倍首相は、自分が何を聞かれているのか分かっているのでしょうか。どう答えるべきか、判断できないのでしょうか。
 何を聞かれても他人ごとのような返答で、記者の質問にまともに答えることができない。問題を先送りして、自ら決断できないという安倍さんの弱点は、内閣の改造によっても、全く「改造」されていないようです。

 安倍さんが分かっていないことは、他にもあります。参院選で与党が大敗し、自らの進退が問われ、参院では野党が多数になったという情勢変化の下で、このような不祥事が発覚したという点です。
 公明党の太田昭宏代表は「次から次にこういう問題が出るのは残念で情けない。会計検査院から指摘されて3年間も放置していること自体、国民から見たら何をやっているのかとなる」と厳しく批判しました。このような公明党代表の発言は、この間の変化の反映です。
 公明党の太田さんも、選挙敗北の責任を追及された手前、このような問題に甘い顔を見せるわけにはいかないでしょう。まして、近々総選挙があるかもしれないというのであれば、「とばっちりを避けたい」と考えるのは当然です。このようなスキャンダルへの公明党の対応は、これまで以上に厳しいものにならざるをえません。

 「とばっちりを避けたい、自分の評判を落としたくない」という点では、「隠れた後継者」と目されている麻生自民党幹事長も同様です。麻生幹事長は「政治資金の話とは別だ。世間で通る説明なのかどうかが一番の問題だ」と強調したといいますが、その通りです。
 今回の遠藤さんの不祥事は、事務所費経費のような「政治とカネ」の問題とは異なっています。会計検査院によって摘発された補助金の不正使用であり、しかも、3年前から知っていて放置していたという問題です。
 「政治資金の話とは別」で、もっと悪質だと言うべきでしょう。しかも、そのような問題のある人物を監督官庁のトップに据えてしまったわけで、こんなことが「世間で通る」はずがありません。任命件者である安倍さんの責任で、直ちに解任するか辞任させるべきでしょう。

 野党の状況も、大きく変化しています。野党各党は一斉に農相辞任を求めていますが、この辞任要求は参院選前とは違った重みがあることを、安倍首相は理解しているのでしょうか。
 民主党の菅直人代表代行は、NHKの番組で「先日の農相の説明では納得できない」として、「必要なら証人喚問を含め、まずは国会で徹底的に事実関係を聞く。疑念が晴れず、農相として不適格の結論に達すれば問責決議案を出すことになる」と述べました。
 共産党の志位和夫委員長も「不正に税金をだまし取っていた。辞任、罷免に値する。できないのなら問責決議も考えなければならない」と指摘し、社民党の福島瑞穂党首は「重大なのは、農相が3年前に会計検査院の指摘を受けて知っていた点だ。説明した後に辞任すべきだ。辞めなければ問責決議でとことん追及する」と表明しました。

 安倍さんは、臨時国会が始まる9月10日以前に、農水相を交代させなければならないでしょう。この問題を放置すれば、臨時国会の主導権を野党に取られることは明らかです。
 国会審議で証人喚問が行われ、さらに新たな問題が出てきたりしたらどうするつもりなのでしょうか。問責決議が採択されてからの辞任ということになれば、内閣支持率の急落は避けられません。
 グズグズして問題を先延ばしすれば、事態はさらに悪化するばかりでしょう。そのことを、安倍首相はこれまでの経験で十分に学んだはずではありませんか。

 この週末に、上杉隆さんの著書『官邸崩壊-安倍政権迷走の一年』(新潮社、2007年8月)を読みました。安倍政権の官邸内部の無惨な状況が赤裸々に暴露されており、過去一年間の「迷走」状況が克明に記録されています。
 そのなかに、自殺した松岡農水相について書かれた一節がありました。自殺直前の松岡さんの問題への安倍さんの対応についての記述です。
 そこで上杉さんは、「守ることもせず、かといって何らかの決断を下すわけでもない。安倍のそうした曖昧な行為は、この政権にあって極めて象徴的であった」(195頁)と書かれていました。まるで、今の遠藤農水相に対する安倍首相の対応について説明したような文章です。

 「守ることもせず、かといって何らかの決断を下すわけでもない」という「曖昧な行為」を、今度もまた、繰り返すつもりなのでしょうか。そのような不決断が、結局は松岡さんを追い込み、あのような悲劇を生んだのではありませんか。
 そのような愚行を、またも繰り返すつもりなのですか。さあ、どうする安倍さん。


9月1日(土) 安倍改造内閣を覆いはじめた黒い雲 [スキャンダル]

 農水相の椅子は呪われているのではないでしょうか。自殺した松岡さんの怨霊が取り憑いているのかもしれません。
 松岡さんの後任となった赤城さんが結局は辞任に追い込まれました。それに続いて、安倍改造内閣で農水相に抜擢された遠藤新大臣についても、新たな疑惑報道がなされています。

 今日の朝日新聞を見てビックリしました。私以上に、安倍首相の方が驚いたでしょうけれど……。
 その一面には、デカデカと「遠藤農水相トップの組合、不正に補助金115万円」とありました。遠藤農水相が組合長理事をつとめる「置賜(おきたま)農業共済組合」が農業共済をめぐって加入者を水増しするなどし、農業災害補償法に基づく共済掛け金115万円分を国から不正に受給していたことが分かったというものです。
 会計検査院が04年に交付の窓口になっている山形県に指摘したのがきっかけで発覚したそうです。まだこの不正受給分は返還されていません。

 遠藤農水相は82年12月以来、組合長理事を約25年間つとめており、年間240万円の報酬を受け取っています。大臣規範に違反するため、この報酬は受け取らないことにした矢先の問題発覚です。
 しかも、遠藤農水相をめぐっては、代表を務める「自民党山形県第2選挙区支部」が、農水省所管の独立行政法人「農畜産業振興機構」から補助金を交付された「山形県家畜商業協同組合」から5万円の政治献金を受けていたことも明らかになっています。政治資金規正法は国の補助金の交付決定を受けた法人が1年以内に献金することを禁じているため、遠藤さんは献金を返還し、政治資金収支報告書を訂正しました。
 松岡さん赤城さんと、「政治とカネ」をめぐって問題を起こした役所のトップに、またも安倍首相は「政治とカネ」の問題を抱えていた人物を据えたことになります。「二度あることは三度ある」ということなのでしょうか。

 ところで、「政治とカネ」の問題で疑惑が報じられているのは、遠藤農水相だけではありません。これでもかこれでもかと、新たな事実が判明しています。
 岩城光英官房副長官が代表を務める自民党福島県参院選挙区第1支部と同氏の資金管理団体が、政治資金パーティーの券を買った支援者から「税金の控除を受けたいので」と言われ、50万円分を政治資金収支報告書の「パーティー券収入」の項目から「寄付」に訂正していたことが分かりました。
 安倍改造内閣で外務政務官に就任した坂本由紀子参院議員が代表を務める「自民党静岡県参議院選挙区第2支部」と「坂本由紀子静岡県東部後援会」が、会議の費用について2種類の領収書を5回にわたって使い回すなどして、政治資金収支報告書に計約43万円の政治活動費を計上していたことも判明しています。

 また、自民党の荻原健司参院議員の自宅の電気代8万8657円を、自ら代表を務める「自民党東京都参議院比例区第32支部」の光熱水費に計上していたことも分かりました。荻原議員は記者会見で「国民に深くおわびする。迷惑をかけて申し訳ない」と謝罪したうえで、支部の政治資金収支報告書を訂正する届けを総務省に提出し同支部に全額返金したことを明らかにしました。

 このほか、高村正彦防衛相の資金管理団体が、家賃のかからない議員会館を「主たる事務所」の所在地としながら、3年間で約3000万円を領収書のいらない事務所費として計上していることも報道されています。
 さらに、自民党の玉沢徳一郎元農水相が代表を務める「自民党岩手県第4選挙区支部」が、03年の政治資金収支報告書の支出で同じ領収書を使い回していたことも明らかになっています。日付や費目、金額を書きかえたコピーを添付するやり方で、1枚の領収書を5重計上していた可能性もあるといいます。

 昨日のブログで、『週刊新潮』や『週刊文春』などの右派系週刊誌による民主党議員のスキャンダル報道について、「これから明らかになるかもしれない与党議員のスキャンダルに対する『中和剤』を、あらかじめ散布しているということでしょうか」と書きました。しかし、安倍改造内閣の閣僚や自民党議員に、すでにこれだけの「スキャンダル」が明らかになっています。
 とても、この程度の「中和剤」の散布では間に合わないでしょう。とりわけ、冒頭に取り上げた遠藤農水相の問題は、農水省の補助金を不正に受け取った団体のトップがそのまま農相に就いたことになり、きわめて重大です。

 遠藤農相は農水省で記者会見し、組合長理事については辞任する意向を昨夜、組合幹部に伝えたことを明らかにしました。しかし、「大変な不祥事に違いなく国民に申し訳ない」としつつも、「大臣を受けた以上、最大限努力したい」と語り、辞任しない考えを明らかにしています。
 それなら、この「大変な不祥事」の責任をどのような形で取るつもりなのでしょうか。もともと、大臣になる資格などなかったのです。とっとと辞めるべきでしょう。
 また、遠藤さんを農水相に起用した安倍首相は、任命権者としてどう責任を取るのでしょうか。松岡さんや赤城さんの場合と同じように、本人任せということなのでしょうか。