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12月21日(月) 新宿区労連調査聞き取りへの感想 [論攷]

〔以下の論攷は、新宿労連・新宿一般調査プロジェクトチームに加わって行った聞き取り調査への感想です。新宿労働組合総連合(新宿労連)『われらの進路-新宿区労連第21回大会議案書』に収録されています。このプロジェクトチームによる調査の報告書も、大原社会問題研究所のワーキング・ペーパーとして刊行される予定です〕

新宿区労連調査聞き取りへの感想

 私は、新宿区労連調査の正式メンバーではないが、労働運動の現場で活動されている方の声を直接聞き、現在の労働組合運動のリアルな状況を知りたいと思い、オブザーバーとして、2回にわたって調査に参加させていただいた。一回は4月24日のグリーンキャブ労組からの聞き取りで、もう一回は6月8日の新宿一般労働組合の組合員からの聞き取りである。以下、お話しをうかがっての感想を書かせていただくことにする。

 グリーンキャブ労組からの聞き取りでは、タクシー業界における規制緩和がどれほど大きな害悪と困難を引き起こしているかが、具体的かつ豊富な事例によって明らかにされた。「労働再規制」を主張し、『交通界』誌でのインタビューで運輸業界での再規制を主張した私としては、大変、参考になる有益なお話を聞かせていただくことができた。
 また、このような状況の下でのタクシー・ドライバーの職能的労働組合として、注目すべき活動の数々に接することもできた。以下、簡単にコメントすることにしよう。
 その第1は、職場委員制度である。これは中央委員を支える幹部活動家を職場委員とするもので、組合員10人に1人くらいの割合になるという。話を聞いていて、イギリスのショップ・スチュワードに似ているという印象を持った。熟達した組合員の経験と積極性を活かすという点ではプラス面が大きいと思われるが、同時に、いつまでも先輩が幅をきかせていて若い幹部が育たないのではないかというマイナス面も懸念される。両者のかねあいと運営上の工夫が求められるように思われる。
 第2は、世話役活動の重要性である。組合は、賃上げだけでなく生活上の多様な要求に対応しており、一人ひとりに対するケアを重視しているという。特に、タクシー・ドライバーにとって大きな問題である交通事故などへの対応では、顧問弁護士の力も借りて適宜に即応しており、会社からも頼りにされているほどだという。労働組合としてのお手本のような活動であり、ハイ・タク労働者の組織率の高さの秘密はここにあるように思われる。
 第3は、民主的運営や異なる潮流の労働組合との共同への配慮である。少数意見の尊重という観点から、労働組合の役員選挙でも完全連記制にはしていないという。多様な意見の組合役員の選出を保障するということであろう。連合系や企業内組合などの労働組合との共同についても配慮しており、可能な限り共同行動にとり組んでいるという。
 第4は、産業別労働組合の役割である。この点では、上部団体である自交総連東京への注文が多く出された。独自の賃金制度を維持しているが、基本的には産業別レベルでの賃金協定が必要であり、産別組合にイニシアチブを取って欲しいということであった。また、タクシー業界は過当競争に陥りがちで、売り上げを上げるために長時間労働になりやすいという傾向がある。これを是正するためにも、産業別の労使協定が望まれるという。
 第5は、技能や技術の向上に向けての取組である。職能的な労働組合として、タクシー運転手としての技能・技術の向上や専門性を高めることにも努めている。介護タクシーを運行するために2級ヘルパーの資格を取ったり、救急救命士の資格を取るなどである。また、タクシー運転免許法の制定などもめざしているが、この点でも産別労組の機能発揮が求められるという。

 後者の新宿一般労働組合では、2人の組合員から聞き取りをした。そのうちの一人は法政大学の卒業生でもあった。ここでも、大変有益な話をうかがうことができた。
 第1に、インターネットなどの新しい情報手段の活用である。組合のHPはデザイナーの協力を得て作成されたとのことだが、労働組合としての組織色を薄め、専門的な用語を少なくすることに心がけたという。その結果、日本機関紙協会のホームページ作成コンクールで奨励賞を獲得している。今後は、更新頻度を高めて内容の充実を図り、個々の組合員が書き込みをできるようにするなどの点で、さらなる改善が必要だろう。
 第2に、「しゃべり場」など組合員が自由に集まれる場所の確保である。非正規の拡大などで働き方が多様化し、成果・業績主義の導入などもあって労働者が分断されている現状では、労働現場におけるコミュニテイの形成自体に大きな価値が生まれている。すなわち、「仲間のいる幸せ」を提供するという点での労働組合の役割であり、存在意義である。したがって、何でも話せる仲間がいること、いつでも集まって話せる場があるということの意味は大きいといえる。
 第3に、非正規労働者に対する働きかけの重要性である。この点で、強調されたのが「目線」の問題であった。つまり、どれだけ正規労働者が非正規労働者の置かれている状況や立場を理解したうえで働きかけているのかということであろう。両者の条件の違いをわきまえつつ、同時に、非正規と正規との「労労対立」にならないような対応が求められる。このような違いに対して非正規労働者は敏感に反応するが、得てして正規労働者側は鈍感だという。特に、この点では正規労働者側の配慮が必要であろう。
 第4に、労働相談などの増大とそれへの対応という課題である。担当できる者が限られていて、相談が増えれば組合活動に支障が生ずることもあるという。この点では、学習教育活動などを通じて労働相談に対応できる担当者を増やすことが必要であろう。同時に、このような活動に従事する中で経験を積んでいく、OBなどの経験者を活用する、他の組合や上部団体の援助を仰ぐなど、様々なやり方を組み合わせ、全体として労働相談に対応できる体制の充実を図るなどということも重要であろう。
 
 最後に、両方に共通していたのは、学習教育活動への取組の重視である。前者では、年1~2回、賃金を保障し、ホテルを借り切って泊まり込みで組合の歴史などを繰り返し学んでいるといい、後者でも学習会が頻繁に開かれているという。聞き取りをした1人は、学習教育委員会担当の執行委員であった。一般労組でも、学習教育活動がきちんと位置づけられているという点が重要である。世代交代が進んで幹部が入れ替わり、新しい組合員が多いという条件の下で、組合幹部の力量を高めて新規組合員の定着を図るうえで、このような取組はさらに意識的に進められる必要がある。我々研究者も、このような領域でもっと協力すべきだと痛感した次第である。
以上