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12月28日(月) デフレ克服のためには賃上げと雇用の安定、セーフティネットの充実が必要だ [マスコミ]

 だが日本のデフレは突出している。日本は7~9月期に約35兆円の需要不足に陥った。国内総生産(GDP)に対する比率は7%で、米欧の3~4%を上回る。少子高齢化といった固有の問題もあって需要の収縮がひどく、価格の下落が顕著になっている。
 クレディ・スイス証券の白川浩道氏は「雇用慣行にも原因がある」と話す。日本の企業は人員の削減を抑える代わりに、賃金のカットで不況に対応してきた。賃下げよりも人員整理に動きやすい米欧の企業とは対照的だ。これがモノだけでなく、サービスの価格も押し下げているという。(「デフレと闘う(上)」『日本経済新聞』2009年12月17日付)

 一昨日に続いて、日経新聞のこの記事についても言いたいことがあります。「賃下げよりも人員整理に動きやすい米欧の企業とは対照的」に、「日本の企業は人員の削減を抑える代わりに、賃金のカットで不況に対応」するから、「モノだけでなく、サービスの価格も押し下げ」、「日本のデフレは突出」するのだと書かれているからです。
 日本のデフレが突出しているのはその通りです。その原因が、「賃金のカットで不況に対応」する点にあるというのも、間違いではありません。しかし、「日本の企業は人員の削減を抑え」ているでしょうか。

 これについては、2つの点を指摘しておく必要があるでしょう。
 一つは、「米欧に比べれば」という相対的な意味で、そう言えるに過ぎないということです。失業率は、日本よりも米欧の方が高くなっていますから、それに比べれば「日本の企業は人員の削減を抑え」ているということになります。
 もう一つは、「正社員に限って言えば」という限定的な意味で、そう言えるだけだということです。派遣労働者などの非正社員が中途解雇や雇い止めにあったりしていることは誰もが知っている事実です。

 12月25日に総務省が発表した労働力調査によれば、11月の完全失業率(季節調整値)は前月よりも0.1ポイント悪化して5.2%になりました。デフレや消費低迷などによって、依然として雇用環境は厳しい状況が続いています。
 完全失業者数は331万人で、前年同月から75万人増加しました。13カ月連続での増加です。
 就業者数は前年同月比131万人減の6260万人で、22カ月連続のマイナスでした。これらの数字からすれば、「日本の企業は人員の削減を抑え」ているなどと言えるかどうかは大いに疑問です。

 しかし、それでも失業率が10%を前後しているヨーロッパなどと比べれば、日本の失業率は低くなっています。それは何故でしょうか。
 日経新聞の記事は、クレディ・スイス証券の白川さんの言葉を引きながら、人員削減を抑えて賃金をカットする「雇用慣行」のせいだとしています。ヨーロッパでは、賃下げではなく人員を削減するから、価格の下落が顕著にならないというのです。
 この記事によって、日経新聞の記者は賃金をカットせずにもっと首を切れと言いたいのでしょうか。ヨーロッパのように雇用を削減すれば、デフレを克服できると主張しているのでしょうか。

 とんでもありません。そんなことをしたら、日本の景気はさらに悪化し、デフレはもっと酷くなるにちがいないでしょう。
 どうして米欧では雇用の削減が可能なのかと言えば、とりわけヨーロッパ諸国では失業補償が充実しており、職を失ってもすぐに生活に困るということがないからです。再就職に向けての職業訓練などの支援措置も整っています。
 下にきちんとしたセーフティネットが張られているから、「落ちる」ことが怖くないのです。そのようなセーフティネットが、この日本にあるのでしょうか。

 低賃金で蓄えもなく、不十分で貧弱な失業補償のために、職を失ったら住む場所もなくなって路頭に放り出されてしまうというのが、この日本の現実ではありませんか。だから、「日本の企業は人員の削減を抑える代わりに、賃金のカットで不況に対応」せざるを得ないのです。
 このような状況で職を失えば、購買力の低い人々が今以上に大量に排出されるでしょう。そうなれば、もっと需要が収縮することは火を見るよりも明らかです。
 モノもサービスも、さらに価格を下げなければなりません。いっそうデフレが深刻化することになります。

 日本のデフレが突出しているのは、労働者の可処分所得が極端に減少してしまったからです。そのうえ、将来が不安でお金を使うことができません。
 これを解決するには、二つの道しかないと言って良いでしょう。一つは、可処分所得の増大のために、収入を増やして国民負担を減らすことであり、もう一つは、雇用を安定させて将来への不安をなくし、安心してお金を使えるようにすることです。
 今度の春闘での賃上げや、国民の懐を暖めて安心感を与えるような施策が必要です。雇用の創出と確保、ヨーロッパ並みのセーフティネットの充実も不可欠でしょう。

 「ない袖は振れない」けれど、「ある袖」なら振れるはずです。大企業の内部留保が218.7兆円もあるという事実を、何故、新聞はきちんと報道しないのでしょうか。
 新聞記者には、問題の指摘だけでなく、その背景や意味、解決に向けての見通しなど、正確な論評ができるだけの能力が求められます。「俗論・俗説の垂れ流しをやめてもっと勉強せよ」と、もう一度、強調させていただく必要がありそうです。
 もちろん、勉強が必要なのは記者だけではありません。自戒を込めつつ、そう書かせていただくことにしましょう。