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12月22日(火) 「再規制」を明確にした労働者派遣法の改正が必要だ [規制緩和]

 労働政策審議会労働力需給制度部会が12月18日に開かれ、労働者派遣法改正の公益委員案が示されました。労働再規制に向けての第一歩だといってよいでしょう。

 法律の名称・目的に、「派遣労働者の保護」が明記されるといいます。事業法から保護法へと法の性格が変わった点は評価できます。
 短期の契約を繰り返す「日雇い派遣」については、2カ月以内の契約が禁止されました。派遣労働者の待遇についても、同種の業務に従事する派遣先労働者との「均衡を考慮する」規定が入っています。1人あたりの派遣料金の明示も義務付けられました。
 拙著『労働再規制-反転の構図を読みとく』(ちくま新書)の中で、私が「反転」を指摘してから、一年以上も経っています。ようやく、具体的な法改正という形で、「反転」が具体化することになりそうです。

 しかし、残念ながら、この「反転」は極めて慎ましやかなものだというべきでしょう。労働政策審議会において使用者側が激しく抵抗し、これに一部の公益委員が同調したため、麻生政権時代の野党3党(民主・社民・国民新)案より後退している面があるからです。
 たとえば、焦点の製造業派遣の禁止では、登録型ではない常用型については認める内容になっています。偽装請負や期間制限違反など違法派遣があった場合の「みなし雇用」についても、違法があったとき自動的に直接雇用になるのではなく、派遣先が派遣労働者に「労働契約を申し込んだものとみなす」とし、派遣労働者がこれを受け入れれば、派遣先に直接雇用され、派遣先が直接雇用を拒否した場合に、行政が勧告する形になっています。
 また、仕事がある時だけ働く「登録型」派遣について、現行法で例外扱いされている専門業務などを除いて禁止していますが、審議会では専門職の範囲を決めるところまで議論が深まらず、今後の検討課題としたそうです。これが「抜け穴」になる可能性もあります。

 とはいえ、これまでは派遣労働の拡大に向けて規制が緩和される方向でした。それに比べれば、労働政策が反転したことは明らかです。
 今後は、この公益委員の案を元に法案化が進められます。厚労省は改正法案をまとめて、来年の通常国会に提出するといいます。
 経済界はこのような法改正に反発しており、今後も曲折が予想されます。これ以上、悪くなるのを防ぎ、不十分な内容をさらに改善する方向で、とくに改正案作成の段階では社民党にがんばってもらいたいものです。
 改正法案が閣議で決定される前に、よりよい内容に変えることが重要です。その後、法案は国会に提出され審議されますが、この時点では、共産党にがんばっていただきたいと思います。
 与党案に対する批判や対案の提起は野党の役割ですが、自民党や公明党には期待できません。労働者派遣法の制定や規制緩和に反対し、その見直しに向けてもっとも徹底した立場を示してきた共産党の役割は大きいと言うべきでしょう。

 労働者派遣法改正に向けての公益委員案が出された18日(金)には、パナソニック(旧松下)プラズマディスプレイの偽装請負を告発して解雇された労働者に対する最高裁の判決も出されました。偽装請負については会社側に非があるとしたものの、派遣先との間に「黙示の労働契約」が成立しているとして地位を認めた昨年4月の大阪高裁判決は取り消されました。
 「派遣法の規定に違反していた」として偽装請負を認定し、直接雇用されてから不必要な作業を強いられ、雇い止めされたことについても、「申告に起因する不利益な取り扱い」だと指摘して違法行為の損害賠償を命じたにもかかわらず、会社の雇用者責任は否定されました。それを取り締まる法律がないからです。
 法の不備によって不正行為が罰せられなかったということになります。派遣法がどのような欠陥を持っているかをハッキリと示した判決だと言うべきでしょう。

 最高裁は、取り締まって欲しいなら法律を変えなさいと言っているのです。不正を許さないためには法の改正が必要だということなのです。
 11月の「働き方ネット大阪」の講演会でお会いした村田浩治弁護士は、裁判後の記者会見で「派遣契約なら派遣元に雇用責任があると形式的にとらえた判断。しかし偽装請負や違法行為を認めざるをえなかった」と指摘しています。「再規制」を明確にした労働者派遣法の改正によって、派遣元だけでなく、派遣先の雇用責任も問えるようにすることこそ、何よりも必要なことなのではないでしょうか。